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1日目〜4




 僕はこのまま探索を続けることにした。


 ……まあ、何かおかしなことがあれば、すぐに引き返せばいいだけのことだ。


 玄関ホールへ戻った僕は、今度は一階奥の通路を調べてみようと思った。


 一階奥の通路には食堂があり、更に突き当たりには調理場があった。

 食堂は元ホテルだけあって、想像以上の広さだ。一度に数十人は入れるだろうか。


 気になる点といえば、放置されたままのテーブルや椅子、絨毯。壁や棚に飾られた品々のどれもが豪華なことだ。

 先ほどの客室とは雲泥の差で、エーデルヴァイス夫婦はここに客を呼んで、パーティでもしていたのかもしれない。


「だけど、特にボロボロな椅子は奥の一つだけ……他のはほとんど使われていなさそうだよな」


 “煌びやかなパーティ会場”というよりは、“部屋とは正反対の孤独な食卓”が脳裏を過る。


「夫人はこんな広い食堂で、一人で食事していたのかな……?」


 いや、それは考えすぎか。

 そう思いながら、僕はテーブルに触れた。



クスクス



 ――何かが聞こえた。

 おそらく、声だ。

 人の声だ。


 だが、確実に人などいなかったはずなのに……。



クスクス


クスクス、クスクス


クスクスクスクスクスクス



 ……間違いない。

 人の――それも、子供の声だ。


 なぜここに子供が?


 僕の呼吸が、心臓の音が、どんどん激しくなっていく。



クスクス



 直後、声は耳元から聞こえてきた。

 恐ろしくて、振り返ることもできない。



――アソボウ?



 笑い声が、言葉に変わった。



わたしといっしょにあそぼう?


ずっといっしょ

ずっとずっとずっと、いっしょに……



 子供の囁きに混ざり、凍えるような冷気が頬を撫でた。

 今すぐ逃げなきゃいけないと、本能が告げた。


「うわああっ!!!」


 僕は悲鳴を上げ、走り出した。

 それが何かも確かめず、食堂から飛び出す。


 無我夢中で玄関まで駆け戻った僕は、慌てながら扉を開けようとドアノブを回した。


「なんで!? 開かないっ!!?」


 どれだけ回しても、押しても引いても、扉はびくともしない。



おにいちゃんは、わたしとあそんでくれる?



 背後から声がした。

 思わず振り返る。


 そこに、真っ白なドレスの女の子が立っていた。


 いつの間にかランプを落としていたというのに、闇の中の少女は、くっきりとその姿が見えてわかった。

 不気味な彼女の笑顔が、僕を恐怖で染めていく。


 唇が震え、『助けて』と叫ぶことすらできない。



ずっといっしょに、ずっとあそぼう?



 女の子が、ゆっくり近付いてくる。

 よく見ると、その顔は深雪のように青白い。

 足元は透けていて、何もない。


 逃げたい。

 だが足が竦み、動けない。



 ずっといっしょだから、すごくたのしいよ


 ずっとずっとずっとずっとずっとずっと、わたしとあそぼう?



 そして――少女が僕の手に触れた瞬間。


 世界が、ぐるんと反転した。


 上が下になり、右と左が入れ替わる感覚。

 激しい目眩を繰り返すような感覚。


 酷く気持ち悪いはずなのに、

 ……少しずつ、心地よくなっていく。


 逃げなきゃいけないのに。

 逃げたくなくなっていく。


 逃げる?

 僕は何から逃げるんだっけ?


 そもそも、どうしてここに来たんだっけ?


 ああ、頭の中がぐちゃぐちゃに、真っ黒に塗りつぶされていく。


 ……もう、あの笑顔が誰のものだったのかも思い出せない。



 なにもかも、どうでもよくなってくる。



 ――ナ ン ダ カ 、ド ウ デ モ ヨ ク ナ ッ タ 。




 ◆




 ……残念です、オットー様。

 約束を破り、夜までに屋敷の外へ戻らなかったのですね。


 おそらくはもう、貴方を見つけることは、私にはできません。

 本当に、残念です。


 さようなら、オットー様。




 ~ End1  真っ黒な世界にようこそ ~




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