6日目~2
――それから暫く経った後。
町外れに、廃屋敷を改装して造られたホテルが開業した。
どうやらテレーザの父の思惑とは、そういうことだったらしい。
そのホテル近くの湖には、
『その湖には人を誘い沈めようとする怪物がいる』
『魔女が毒を流しているから、決して飲んではいけない』
などという、誰もが知る悪い噂があるのだが……。
あの神秘的で美しい湖をひと目見れば、そんな噂もやがて風化していくことだろう。
その一方で、真に恐ろしいのは屋敷の方だと囁く声も出てくるに違いない。
現に、あの屋敷には悲しい二人の亡霊が彷徨い続けていたのだから。
だが、その亡霊――アネットもアンナも、今は安らかに眠っている。
もう、あの屋敷に辛い記憶の影はどこにもない。
そしてこの先も、寂しい場所にはしたくない。させたくない。
だから僕は、あの屋敷――ホテルで働きながら、宿泊者の絵を描くことにした。
このホテルで過ごした思い出が、楽しいものになるように。
そしていつの日か、このホテルや湖が『誰もが笑顔になれる場所』と呼ばれるように。
今日も僕は、笑顔を描く。
◆
レイハウゼンの町外れには、一軒のホテルがございます。
貴賓館を思わせる美しい佇まい、温かみのある木造の室内。
一級品のベッドの寝心地はまた格別。
そして窓からは、かの有名な神秘の湖が一望できるのでございます。
ですが、このホテル最大の見どころは、やはりロビー正面――二階渡り廊下の壁に掛けられた、二枚の肖像画でしょう。
鮮やかな色彩で描かれた、少女と老婆。二人の水彩画。
そこに描かれた二人は、まるで親子のようによく似た満面の笑みを浮かべて、客人たちを迎え入れてくれるのです。
……もっとも、中にはあの笑顔を“不気味だ”“怖い”と言う方もいらっしゃいますが。
それは人それぞれの感性というものでしょう。
ですから、たとえその絵が本当に“不気味な何か”を秘めているのだとしても――
私には、微塵も分からないのです。
そんな笑顔の肖像画が気になった方は、ぜひ一度、そのホテルへ足を運んでみてはいかがでしょうか。
◆
~ True End 赤るい笑顔と共に ~




