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4日目〜5




 ……このまま町に帰って、すべて忘れてしまいたい――。


 その後のことは、何も覚えていない。

 死に物狂いで屋敷を脱出した僕は、無我夢中で森を歩き続け、そのまま町へ戻ったらしかった。


 気が付いたとき、僕は病院のベッドに寝かされていた。

 ほどなくして駆けつけたテレーザが、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら僕に飛びつく。


「ごめんなさい! 全部、私のせい……何も、知らなかったの。騙してごめんなさい!」


 泣きつく彼女の言葉の意味がうまく理解できず、僕は呆然とすることしかできなかった。


 


 衰弱はしていたが命に別状はないらしく、僕は翌日には退院した。

 けれど、何をしようにも不思議とやる気が起きない。


 食事すら喉を通らない。

 あれほど好きだった絵も、筆を握ることさえ躊躇ってしまう。


 ……依頼に失敗したからだろうか。


 テレーザやヨハンネスは「あの依頼は失敗しても仕方のないものだった」と真相を説明してくれた。

 だが、僕にはもうどうでもよかった。


 笑顔を描けなかった。

 あの子の笑顔を、取り戻せなかった。


 その事実だけが、今更のように胸を締めつける。

 忘れようとしても、波のように何度も思い返してしまう。


 思い出す度に苦しくなり、人の笑顔が描けなくなった。

 絵を描く気力そのものを、失ってしまった。


 僕はあの子を――救えなかった。


 


 ――だからだろうか。


 その苦しみから逃れるように、僕は再びあの屋敷へ戻ってきていた。


 ざわざわと鳴る森の音が、今は不思議と心地いい。

 まるで子守唄のようだ。


 半月放置されたテントは獣に荒らされ、無残に裂けた布が風にさらされていた。

 食料も食い荒らされ、スケッチブックも鉛筆も踏み潰されている。


 だが、もうどうでもいい。


 ただ一つ申し訳ないのは、テレーザが用意してくれた画材一式まで野ざらしになっていることくらいだ。


 絵の具や筆が散乱する草地を踏み越え、僕は屋敷の扉の前に立つ。

 両開きの扉を、ゆっくりと――迷いなく押し開いた。


 そこには、想像通りのあの子が立っていた。


 雪のように白い肌。

 窪み、黒く沈んだ双眸。

 三日月のような笑み。



オカエリナサイ……



 これで、もう描けなくていいんだ。


 僕は彼女に、微笑みを返した。


「……ただいま」


 


 ◆




 ……残念です、オットー様。


 貴方は、既に彼女に魅入られていたのでしょう。

 助かるためには、彼女の呪いから解き放たれる必要があったのです。


 ですが、もう遅い。


 おそらく貴方を見つけることは、私にはできません。

 本当に、残念です。


 さようなら、オットー様。


 


  ~ End4  真っ白な君に囚われて ~


 


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