エーデルヴァイス夫人について~元従者Dの話
……夫人を“冷血女”などと、悪く言う者もおるようじゃが……。
ワシは夫人に感謝しておるんじゃ。
何せ、食いぶちのなかったワシを拾い、庭師なんて仕事まで与えて下さったんじゃからのう。
ワシだけじゃない。
他に仕えている連中も、元は職を失い、路頭に迷っておった者ばかりだったんじゃよ。
それを住み込みで働かせて下さって……感謝してもしきれんわ。
だのに、口うるさいだの、冷血女だの、笑わないだの……。
煩いのはおぬしらの方じゃと言うのに。
宝石や貴金属を突然、窓から捨てたという、あの騒動もそうじゃ。
『もう要らない、捨てた』
『きちんと後始末しておきなさい』
――などと、へそ曲がりなことを言ったせいで、噂に尾ひれが付いたがのう。
あれはな……病気の妹のため、急ぎで薬代が必要だった庭師の上に、わざと捨てたんじゃよ。
“後始末しろ”というのは、夫人なりの“その宝石を売って薬代にしろ”という言い換えなんじゃ。
夫人は冷血なんかじゃない。
ただ、感謝されるのが苦手な……感情の出し方が下手な方だったんじゃよ。
まあ、その無愛想な性格が災いして、ああも勘違いされたんだろうがのう。
……じゃがな、晩年の夫人は、確かに様子がおかしかった。
“もう限界だから”とか、“これ以上は耐えられない”とか、突如泣き喚いたり、暴れ出したりしおってな……。
まるで人が変わったようで、流石にワシも恐ろしく思ってしまった。
主治医の話では健全そのものだと断言しておったが、ありゃあ何かの病気だったんじゃろうな。
夫人の最期?
……あれは雨の日じゃったかのう。
突然、誰かの断末魔が屋敷中に響いた。
何ごとかと思って悲鳴のした方へ駆けつけると、玄関の前で夫人が倒れておった……。
声を掛けても返事はせず、ずっと呻き声を上げながら、首もとを掻きむしっておった。
誰かの名を呟いてもいたようじゃが……生憎、よく覚えておらんのじゃ。
……そうして、この世の苦痛すべてを受けたかのように、酷く歪んだ顔をし、彼女は事切れた。
どこかへ行こうとしていたんじゃないか、という話もあるが……
苦し紛れに屋敷を飛び出しただけかもしれぬ。
ともかく、彼女の最期は見るに堪えんものじゃった。
あれはもう……思い出したくもないわい。




