エーデルヴァイス夫人について〜元侍女Aの話
エーデルヴァイス夫人を一言で言うならば――“冷血女”でしょうか。
花を見ても、可愛い動物を見ても、何を見ても……決して愛でたり笑ったりしたことはありません。
食事が美味しいと褒めることもなく、私たちに少しでも至らないところがあれば、冷たい口調で叱責する。
ですが、それだけならまだ優しい方です。
酷い日に当たれば、突然、人が変わったかのように苛烈に狂うのです。
屋敷中に怒号を響かせ、『この置物はこの位置だ』とか『このお菓子は甘くない』とか……。
意地悪で身勝手な要求を、延々と突きつけてくるのです。
そんな日でも彼女は必ず、まるで深い井戸の底のような、暗闇の目をしていました。
住み込みでお給金が良いからこそ働いていましたが、そうでなければ、あのように不気味な老夫人と暮らそうとは思わなかったでしょう。
……主人に対して口が悪いと思われるかもしれませんが、侍女たちが皆、口を揃えて言っていたことです。
他に、ですか?
そうですね……先立たれた旦那様が豪商だったそうで、不自由な生活はまったくしていませんでした。
だからか、屋敷には高価そうな置物や装飾品が数多くありました。
中でも特に豪華だったのは、夫人が描かれた絵画でしょう。
特別大きなサイズでもなかったのですが、黄金の額縁に飾られた若き日の夫人はたいへんな美人で、とても見事な一枚でした。
絵心のない私ですら、思わず時を忘れて魅入ってしまったほどです。
その絵画は、旦那様が生前、夫人へ贈られたものだそうで……。
子どものいなかった彼女にとって、それは旦那様から贈られた、何よりの宝物なのだと仰っていました。
ただ……その絵画に描かれた夫人にも、笑顔はありませんでした。
微笑すらない。
真冬の氷塊のような、とても冷たい表情なのです。
だからこそ、皆が口を揃えて言うのです。
――“エーデルヴァイス夫人は、決して笑わない人だ”と。




