鏡像
【過去 2048年】
田中は警察学校を卒業して、晴れて警察官になった。
同期は1人だけ。佐藤という名前らしい。
向こうから話しかけに来て、色んな事を話してきた。
田中はタジタジしてはいたが、嫌な気持ちにはなっていなかった。仲良くなれたら良いと思っていた。
1週間後に署長から警察官になった証として、2人に仕事をするにあたってのバディアンドロイドが支給された。
・基本二人一組で動く事
・ロボット工学三原則に従い、互いを尊重する事
あとは注意事項を聞いて、名前は自由につけても良いとの事なので、バディに名前をつけた。
田中は東雲、佐藤は黒宮と名付けた。
数年後、署長から2人の仕事ぶりが認められ佐藤と共に昇格した。これにはバディアンドロイド達も喜び、互いに喜びを分かちあった。
「もし仮にバディがいなかったら、俺が相棒になってるのにな!」
と佐藤から言われる程に、仲が深まっていた。
互いに心から信頼しあっていた。
だが忘れもしない事が起きた。
相棒の佐藤とバディの黒宮がパトロールをしにパトカーに乗って行った。
大体1時間程で帰ってくるのだが、中々帰ってこなかった。昼時という事もあり、昼飯を食べているのだろうか?にしても連絡くらいはあっても良さそうだが。
知ったのは昼過ぎの頃、1本の内線電話が署内全体を凍りつかせた。
「はいもしもし、こちら警視庁捜査一課の齋藤です。…はい…はい…え!?それは本当ですか!?場所は…はい、分かりました。では今から直ちに向かわせて頂きます」
齋藤が大慌てで受話器を置く。
「大変です!パトカーがトラックに追突されて、大破損の事故が起きているそうです!僕はこれから現場に向かいます!」
そう聞いて田中は嫌な予感がした。
それは東雲も感じ取っていたようだ。
「俺も行く!場所はどこだ!」
齋藤に詰め寄る。
「え!?えっと場所は…」
署長に止められたが、声も聞こえない。
教えられた場所に東雲と共に向かう。
互いにパトカーに乗り、アクセルを大きく踏んで現場に急いで向かう。
心臓をバクバクさせながら、ハンドルを握る手に汗がぐっしょりと濡れる。
心配そうに東雲が助手席から声をかけてくる。
「早く着きたい気持ちは分かりますが、落ち着いて行きましょう…」
分かっている。頭では分かっている。
だが相棒の安否で精神が揺らいでいた。
現実では20分位で着いたが、田中には1時間程の体感時間が流れていた。やっとの思いで現場に辿り着く。
そこにはトラックがパトカーに向かって衝突した形で残されていた。無惨にもパトカーは前方がトラックの衝撃と周りの物にぶつかった影響なのか、原型が残っていなかった。
目の前に広がる光景を信じたくなかった。
だがまだこれが相棒が乗っていたパトカーだとは断言出来ない。調べる必要がある。
深呼吸をして落ち着かせる。
周りの状況を確認すると、見通しが悪い交差点でありパトカーが優先道路にいた事から、トラックが追突したと考えられる。追突されたあとは近くのガードレールに大きくぶつかったのだろう、ガードレールがグニャリとへこんでいた。
ぐしゃぐしゃになってしまったパトカーに近づき、恐る恐る車の中を確認する。ある物が見えた。
アンドロイドの残骸が見える。
体の上半身がぶっ飛ばされており、下半身だけ残されている状態だった。その下半身は運転席があったと思われる方向に身体が向いていた。
「…このアンドロイドの解析を行いますか?」
東雲が聞く。無言で頷く。
東雲の体内からデータ処理を行う時の音が聞こえる。
「…話しずらい事ではありますが、解析結果は伝えないといけないのでお伝えします。またこれは同時に署内にも解析結果が送られています」
その答えに唾を飲み込む。
「…このアンドロイドの解析を行いました。データ内ベースにアクセスし、破損していない情報から解析して整理しました。結果は…このアンドロイドは黒宮と分かりました。なので…ここで事故が起きたのは、佐藤さんと黒宮で間違いありません」
そう東雲から残酷な結果を伝えられた時、立っていられなくなった田中はフラフラと動き、近くの壁にもたれた。
現実を受けいれられない。あの相棒が死んだ。
その真実を受け止めきれなかった。
「嘘だ…嘘だ嘘だ。東雲、お前嘘ついてるんだよな?そうだよな?な?」
東雲の両肩を掴み、激しく前後に揺さぶる。
しかし東雲は少し悲しそうな顔で答える。
「いえ、私は嘘など言っておりません。これは事実であり変えられない事故です。…受け入れて下さい」
そんな簡単に受け入れられるわけがなかった。
それが怒りに変わっていく。
「これ以上、俺の相棒の事を悪く言うんじゃない!」
東雲に怒鳴り、自分が乗ってきたパトカーに乗る。
「待ってください!」
東雲の声が聞こえるがその声に足を止める事なく現場から離れた。
今はもうこれ以上、何も聞きたくなかった。
何も信じたくなかった。
悲しみと怒りと憎悪が入り交じって、アクセルを踏む足に力が入る。現場の近くにいたくなかった。
しかしパトカーに残されている燃料はわずかだった。
現場から2km程離れたマンション近くに来た。
やはり怒りは収まらず、パトカーに乗っていると先程の出来事を思い出す。
適当に止められる場所にパトカーを停めて、むしゃくしゃしながら歩き始めた。
しかしこれが良くなかった。
前を見ていなかったせいだろう、田中の目の前にはマンションから出てきた車がいた。
急いで避けようとしたが間に合わなかった。
田中の身体に強い衝撃が襲いかかり宙に舞う。
無慈悲にも地面に叩きつけられる。
その痛みに耐えきれずに意識を失った。
最後に見たのは、車から誰かが降りてくる影だった。
――――――――――――――――――――――
「待ってくれ!俺を置いていかないでくれ!」
田中は相棒の佐藤の背中に向かって、縋るように言葉を向けた。
「……」
その言葉に振り返る事はなく消えていった。
その姿を見て、また絶望をして倒れ込んだ。
――――――――――――――――――――――
目を開けると見慣れない白い天井がそこにあった。
視界の隅には点滴が見える。病院のようだ。
「…おや、田中さん、目が覚めましたか」
聞き覚えのある声が聞こえる。東雲だ。
微かに顔を東雲の方に向ける。
「生きていて良かった…3ヶ月程声をかけても反応がなかったので…しかし、変な事故でしたね」
変な事故?どういう事だろうか。
「貴方が急に発狂してどこかに去った後、署内から行方不明だって連絡が来まして…1週間ほど行方が分からなかったんですよ。ですが貴方のパトカーについてデータ分析したら、場所が判明したのでそこに向かって行き…車しか無かったんです。後日、人が倒れていると通報があったので、場所を確認したらパトカーがあった場所で貴方が倒れていて…。確かに1度確かめに行った時はいなかったのに…どこに行っていたんですか?」
そう言われても何も思い出せない。
それ以前に自分が事故にあったかどうかの記憶もないのだ。
「…分からない。記憶がぼやけていて…。何も…」
「そうですか…。今はゆっくり休んで下さいね。署内の皆様には、目を覚ました事をお伝えしておきますので。何か思い出したら教えてください」
失礼しました と一言を最後に東雲は退室した。
…よく分からない。今はゆっくり休もう。
療養に専念して、1日でも早く仕事に復帰出来る事を祈った。
やがて検査を何度も受けて、退院の目処が経った頃、署長が見舞いにやってきた。
「目が覚めたと聞いたから帰りに来たんだ。…調子はどうかな?」
「現在回復してるので、もう少ししたら退院出来そうです。…すいません、ご迷惑をおかけして」
「良いんだ、生きていてくれて良かったよ。それにこれからもビシバシと働いてもらうからな、その為にも今は休む事に専念しなさい。またよろしく頼むよ」
ありがとうございます とお礼と言うと、署長は お大事にな と声と共に退室した。
署長の言葉通り、回復に専念した。
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【現在 2058年】
あれから復帰した田中は、バディの東雲と変わらずに仕事に励んでいた。
今では立派な巡査長になっている。
しかしあの事故が起きてからか、はたまたあんな夢を見たからだろうか。
東雲に対して冷たい態度を取る事が度々ある。
まるでアンドロイドをただの便利な道具としか思っていないような…そんな感じにも読み取れる。
東雲に何か頼み事をして、少しでも遅いと感じたら舌打ちをしたり、データ分析が上手くいかない時があると小突いたり等、根元からの考えが変わっていた。
そんな田中の変わり様に、東雲は何か抵抗する事もなく従っていた。しかし、時折どこかぎこちなく動く事が見られる事があった。
今日は夜勤勤務だ。
アパートでいつも通り朝に起きて、朝食を食べながらテレビを付けた。
また、この事件の話か。
被害者が増加している事でニュースになっている。
脳移植連続殺人事件だ。
田中と東雲は、今この事件の捜査を行っている。
しかし何の手がかりも掴めずに今日を過ごしている。
犯人は現れないし、かと言って被害者は増えていく。
このままではダメだと分かってはいるのだが、進展がない以上、出来る事がないのだ。
「…飯が不味くなる」
テレビを消して食べ終わった後、夜勤の為に仮眠を取った。
深夜2時過ぎ。薄暗い署内の捜査課デスク。
田中はコーヒーを啜りながら書類を纏めていた。
東雲は無音で署内のデータ分析や処理を進めていた。
内線電話に1本の電話が来た。
気だるそうに…眠そうに田中が電話を取る。
(電話の内容は東雲も聞き取っている)
「はい、こちらは警視庁捜査一課の田中です。…今何時だと思っているんですか?…は?異臭?地下鉄の廃線跡から?」
受話器の向こうから、気弱そうな男の声が聞こえる。
「す、すいません…こんな夜遅くに…私が住んでいるマンションのすぐ下に、昔使われていた地下鉄のトンネルがあるんですが…3日程前から…まるで肉が腐ったような…そんな異臭が上がってきて…しかも夜中になると変な呻き声も聞こえてくるんです…。動物じゃ…ないですよね…。人間じゃ…ないですよね?」
思わずため息をついた。
男の話す内容にバカバカしいと思いながらも、義務ではある電話内容をメモをする事を行う。
「場所は?…ふぅん、品川区の旧京浜急行廃線跡の下…と。分かりました。明日朝イチでそちらにパトロールに行きます。臭いだけなら保健所案件かもしれないので」
しかし、電話の男は焦っている。
「待ってください!それでは遅いのです!今日も変な影みたいなのが動いてるのを見たんですよ!誰か来てくれないと…」
「分かった分かった、分かりました。では今からそちらに人を向かわせますから…。失礼します」
面倒くさそうに受話器を置く。
「…酔っ払いの幻覚かよ。…ったく」
そう呟いていると、突然東雲が机を軽く叩いた。
「田中巡査長。先程通報された地点の座標を確認致しました。北緯35.626、東経139.738…。これは、貴方が交通事故が起きてから半径420m以内です」
いきなり東雲が話しだした事に驚きつつ、ただ到底信じられないように眉をひそめて東雲を見ていた。
「…急に何だ?それにお前には関係ないだろ…そんな昔の話…」
「関係なくありません。データ処理をしていた時に私ながら疑問に思っていた事がありまして。過去5年間に同地点で、異臭に関する未解決通報が確認されています。それに5件もです。その内3件は『人の腐敗したような臭いがしている』と記述されています。そして決定的なのは、未だ未解決の脳移植連続殺人事件にも関係していると思っています」
「…あの犯人が誰かも分かっていない事件か?上も手を焼いてお手上げ状態なのに?」
「そうです、その被害者の3名が最終的に発見されたのが、この通報地点から1kmも離れていない所なんです。こんなの偶然と言われてもおかしいです。絶対に無視出来ません」
田中が持っていたコーヒー缶を置く。
苛立つ様子が見える。
「だからと言って今すぐに調査に行けってのか?もう夜中の2時を過ぎている。明日上司が来てからでも良いだろ?」
東雲の身体から微かなノイズ音が聞こえる。
「普段こんな事はないのですが、私の異常有機物反応が検知しています。揮発性有機化合物が通常の46倍を超えています。生きている可能性がある生物が複数存在しています。これを放置するならば、被害拡大する確率は87%でしょう」
こんな東雲を見るのは初めてだ。
だが少し違和感も覚えた。ジッと東雲を見つめる。
「お前…今、変じゃねえか?なんかこう…いつもより熱いというか…」
東雲はまたいつもの冷静な話し方になる。
「異常はありません。私は合理的な判断をしたまでです。田中巡査長、今すぐにでも確認を推奨します。私が同行します」
しばらく東雲を睨んでいたがハァッとため息をつく。
「…分かったよ、お前がそこまで言うなら行く。だが車はお前が出せよ。…仮に空振りだったら、明日の報告書は全部お前が書けよ?」
東雲は答えを言う前に立ち上がっている。
「了解しました、ありがとうございます。相棒を守る為なら、報告書なんて何枚でも…何十枚でも書いてやりますよ」
椅子にかけていたジャケットを羽織りながら、田中はポツリと呟く。
「守る…か。今日のお前、妙に変というか…しつこいというか…何だかな…」
警察署に鍵をかけて2人は通報場所に向かう。
――――――――――――――――――――――
夜中の2時半。小雨が降っている。
通報場所から署までは大体30分程の場所だ。
パトカーを降りて田中は傘をさし、東雲はカッパを着ていた。
「…何だこの臭い」
思わず田中が鼻を抑え、しかめっ面になる。
「ここが通報場所として検知した所です」
「お前は何も感じないのか?この臭いで」
「…?特に何も感じませんが」
そこはアンドロイドの強い部分なのだろうか。
そこだけは少し羨ましいとも思った。
しかしそんな事はどうでもいい。
持ってきた防塵マスクを慌ててつける。
「はぁ…死ぬところだった」
「この臭いで死なれたら、田中巡査長をおぶって帰らないと行けませんから困ります」
東雲の言葉にムッとしつつも、それもそうだなと思い何も言わなかった。
「…臭いの発生源を突き止めるのはお前に任せる。お前は解析は他のアンドロイドより長けているからな」
「ありがとうございます」
東雲が悲しそうに笑っていた。気がする。
その間に現場の周りを確認する。
現場はマンションが少し遠くにあり、歩いてここに来る分には時間はかからないだろう。
草が生い茂っており、余程何か探し物をするとかじゃない限り入る事もないだろう。
そんな場所から変な臭いもしたら気が狂ってもおかしくない、とかそんな事を考えていた。
東雲が声をかけてきた。
「田中巡査長、発生源を発見しました」
「よくやった、そこまで案内してくれ」
了解しました と同時に前に向かって歩き出す。
歩いて350m程だろうか。こちらです と指を指したのは、錆びれたマンホールだ。
「…これか?」
「はい、これです」
と言って、躊躇なくマンホールの蓋を東雲は開けようとする。
「待て待て待て!躊躇がなさすぎるだろ!」
「これが全ての元凶だと断定しています。なので一刻も早く突撃したいのですが」
「分かった、分かったから1度落ち着いてくれ」
「これ以上待って何があるというのですか?」
「…いや、なんでもない。行こう」
はい と東雲が力強く言い、マンホールの蓋を開けた。
中からは何も聞こえないが、明かりが微かに見える。
「…私が先に行きます。田中巡査長は後ろにいて下さいね」
「言われなくてもお前を先頭にするつもりだった」
2人は錆びれたマンホールの中を入っていく。
――――――――――――――――――――――
2人はマンホール内に入る。
中に入ると、人1人が少し余裕を持って通れる通路が続いている。
前を東雲、後ろを田中で進んでいく。
東雲の標準機能にライトがついているので、それをあてに進んでいく。
マンホール内は更に臭いが酷く、マスク越しでもその臭いが少し鼻に入る程だ。
マスクがなかったら今頃吐いて動けなかったかもしれない。本当に心の底から震え上がった。
少し進んだ後に、何かが足に当たる。
「ん?足元に何か…おい、足元を照らしてくれ」
「分かりました、今照らしま…」
足元を照らして2人は絶句する。
足元には誰か分からない人が倒れている。
しかも数人の死体が積まれており、1人は仰向けの状態で置かれていた。
その顔はまぎれもない、田中の顔だ。
少し口や目が溶けているが、原型は残っている。
「お、おい…なんだよこれ…」
「嫌…何ですか…何これ…嫌…」
2人はそこからすぐに逃げ出したかったのに、目線は釘付けになっていた。しかし田中が東雲を叩く。
「おい!早く前に行け!こんなの見てたらキリがない!早く!」
それに我に返ったのか、東雲も慌てている。
「は、はい!早く行きましょう!」
2人は急ぎ足でその場を去った。
もう少し先に進むと、扉が1つ待ち構えていた。
触ると鉄のようでとても硬い。
「扉…?この先に何があるってんだ…?」
「わ、分かりません…。慎重に行きましょう」
東雲が扉の取っ手に手をかけて扉を開ける。
鍵はかかっていないようで、スッと開けられた。
扉の先は室内のようになっており、いくつかの机、本棚、そして奥には大きい培養機体が置かれている。
一言で言うなら研究所のようにも見える。
そんな不気味な場所に、大きな培養機体の前に立っている人がいる。その姿は白衣を着ている。
「おい!そこのお前!そこで何をしている!」
田中が声を上げて威嚇をする。
「何をしている…って?俺は死んだ人間に永遠の命を与えているだけだが?」
そう言って白衣の男が振り返る。
暗くて鮮明には見えないが、目に生気がない男がこちらをじっと睨んでいるのは分かる。
「は…?永遠の命?お前は何を言っている?」
「そう言っても理解されないと思っている。だが、お前の横にいるパートナーアンドロイド…と言ったか?そいつは挙動がおかしくなっているようだが?」
そう言われて東雲の方を見る。
東雲の身体の中から、今まで聞いた事のない音が流れ出して、制御が効かない動きをしている。
「…覚えてないのも無理ないか。お前が事故にあってから何にも覚えてないもんなぁ?」
「お、お前が何を知っているんだ!」
男は冷たい目で見てくる。
「お前、この10年間で相棒だった顔も忘れたのか?」
その言葉と共に拳銃を向けられる。
「本物のお前は、俺の隣にいたのにな。所詮お前はただの造り物の存在なだけだ。そんな奴に俺の相棒を盗られるわけにはいかないんでね」
田中に拳銃を向けて放たれる。
その弾丸は真っ直ぐに田中に狙われていた。
痛みを覚悟して目を強く閉じる。
しかし、痛みはやってこない。
恐る恐る目を開けると、東雲が田中を庇って撃たれていたのだ。
「何故だ…何故そいつを庇うんだ…どうして…」
男が呆然としている中、東雲が懐から拳銃を取り出して、男に向けて放たれる。
その弾丸は、男の心臓に穴を開けた。
「そんな…俺はただ…永遠の相棒として傍にいてほしかっただけなのに…」
男は胸を押さえて膝をついて倒れた。
田中はそんな光景を呆然と眺めていた。
東雲は今までそんな反抗的な態度を見せた事は1度もなかったはずなのに。
「田中…巡査長…今まで黙っていて…申し訳ありません…」
東雲が困ったような笑顔で田中に向ける。
「こ、これ以上喋るな!今修理してやるから!」
「真実を…話さないと…」
「な、なんだ…?真実って…」
「貴方の本当の魂は…」
そう言って東雲は動かなくなった。
それを見た田中は発狂した。
狂い泣き咽び泣く。
不可解な状況に心身が耐えられなくなり、田中もその場で気絶した。
――――――――――――――――――――――
次に目覚めたのは病院だった。
と言っても前に入院した病院ではなかった。
なんだか無機質に感じる。
病室には誰もいない。
目覚めて身体を起こした。痛みはない。
モニターがつけられており、ニュースが流れている。
【本日、異臭が漂うと通報があり警察が捜査に入ると、マンホール内から異臭が発生しており、男性の遺体とアンドロイドの残骸と思われる身体が2体あるのが発見されました。警察は更に捜査を続けており…】
そこで何故かモニターがぷつんと消えた。
ふと近く病室につけられていた鏡があった。
何となく見てみた。
そこには東雲の姿があった。
東雲の姿を見たと同時に、頭がかち割れる程の痛みとフラッシュバックが蘇る。
…
田中が車に轢かれた後に、誰かが近づいてきた影が見えた。
その影の正体は、かつての相棒だった佐藤だった。
佐藤が田中の遺体を回収しに来た所に東雲が現れ、東雲も佐藤に隙を突かれ、データを消去された後に回収されたのだ。
「俺の相棒が死ぬなんて…ありえない。俺が今…同じ方法で生き返らせてやるからな…」
意識が途切れ途切れになり、フラッシュバックの中で最後に見たのは、かつて自分だった田中…いや、田中のクローンが起動音と共に目を覚ましていた。
そこで意識がなくなった。
…
痛みと共に解放された。
それと同時に思い出した。
ここはかつて自分の脳が移植された場所だって事も。
床を見ると、壊れたクローンが転がっていた。
共に事件現場を駆け巡り解決した、田中だった。
そんなクローンを見て、ポツリと小さく呟いた。
「本当の相棒は…どっちだったんだ?」
その解は、永久に返ってくる事はなかった。
【登場人物】
田中…本作主人公。
パートナーアンドロイドの東雲と仕事をしていたが、事故直後に佐藤に回収され、脳移植をされ東雲の身体に魂を入れられた。(肉体は死亡。事故後の田中はクローン)
東雲…田中のパートナーアンドロイドとしてずっと傍にいたバディ。田中の事故現場にサーチが反応。駆けつけたが佐藤の手によって壊される。
現在は田中の魂が入っている。
(東雲本人は佐藤が初期化した為、実質死亡)
佐藤…田中と仲が良かった同期。
田中まで死ぬのが耐えられなく、自身が受けた過ちを自分の為に犯した犯罪者。
佐藤も事故直後に【正体不明】に回収され、脳移植殺人事件の被害者になっている。
※事故後に出てくる佐藤はクローンであり、撃たれた後は故障している。(記憶は事故直前まで)魂はどこにあるかは不明。




