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プロローグ

「ふあ……一体、なんの音でしょう……」

 真っ暗闇な深夜の廊下。寝巻きの少女は凄い物音と衝撃が響いた部屋の襖の前に立ち、その中を恐る恐る開けて見る。今しがた天井に大穴が開き、今は満点の星空が眺められるその部屋には、咳き込むくらいの粉塵が煙幕みたいに立ち込めている。


「あの……大丈夫ですか?」

 ぽっかり空いた天井の大穴の下、星あかりを占める天井の残骸の上。そこで糸が切れた人形のように四肢をだらんと放り投げた様子で仰向けに倒れる人物を気に掛けて、少女はおろおろと困惑しながらも一歩前に踏み出した。 少女の問い掛けに対して、依然返事は無い。高所から落下による衝撃で当人は気を失っているようだ。


「……!!。酷い怪我…早く手当しないと」

 足元の木片に気を付けながら少女がさらに近寄って見ると、天井を突き破って空から降り落ちてきたのは、西洋の甲冑を着飾った騎士のような装いの人物で、その身体には全身鎧の上から酷い裂傷と火傷が刻まれており、その様態は竜とでも相打ったのではないかと思わせる凄惨なものだった。その命が風前の灯火であることは、誰が見ても一目瞭然である。


「安心してください。今から傷を治しますから……」

 しかし不幸中の幸いと言うべきか、この少女はここ『百花(ひゃっか)の里』で唯一の治癒魔法の使い手として怪我の治療を担当する人物である。為す術無しという訳では無い。

 そうとなれば傷の治療に疾く取り組むべきだと判断した少女は、まず彼の傷を治療する為に皮膚と癒着してしまった装備を丁寧に剥がしていく。顕になった装備の下は、少女と同じくらいの青年のようだが、全身が完膚なきまでに爛れているせいで、もともとの容姿までは分からない。思わず目をつむりたくなるような酷いありさまであるが、何とか彼を助けたいと思う少女の気持ちが勝り、傷の状態に目を通す。


「……私にできるでしょうか」

 想像以上の重傷であるが、幸いにも傷口に治療を阻害するものは見られない。それだけ分かると、少女は一度深呼吸してから傷口に手を添えて、治癒のための魔法を唱える。死を遠ざける奇跡の光。


「ヒール」

 すると少女の手のひらから白の魔法陣が、まるで花が開くように展開されて温かな癒しの白光が柔らかに発せられる。

 もたらされた奇跡の光。その熱に晒されて、不詳の騎士の爛れた傷口は内側からみるみる閉じて塞がっていき、やがて爛れた皮膚の下から正常な肌が形成され始める。

 ぶわりと揺らいだ命の灯火は、今は安定の兆しを見せていた。



 ーーー星が見送る夜の行方。果ての果ての東の地より、不詳の騎士とそれを囲う花たちの物語がここに始まる。

 

4度目の正直

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