午後に染まる木々の色
三回目の活動が始まる。
僕は京都に住む二十二歳の社会人だ。
今までは朝に動く朝活だったが、今日は少し違う。
昼過ぎの柔らかい時間に動く午後活だ。
家を出たのは午後二時。
向かう先は宇治植物公園。
立命館宇治高校のすぐ近く歩いて十分。
でも今日は、原付を選んだ。
京都は坂が多いからだ。
歩きだと途中で息が切れてしまう。
原付を走らせながら、曇りかけた空を見上げた。
冬の光は弱々しいけれど、冷えた空気の中で妙に澄んでいる。
エンジン音に混ざって、耳の奥に心地よい緊張感が満ちていく。
今日の活動は、どんな景色と出会えるだろう。
宇治植物公園の駐車場へ着くと、少し嬉しいことがあった。
バイクは駐車料金がかからない。
地味にありがたい。
そう思う反面、車で来ていたら料金が必要だったはずで、「浮いたお金で入園料を払うか?」と一瞬考えたが——いや、それは違う。
せっかく浮いたんだ。
これは今日の勝利ポイント。
ここで使うわけにはいかない。
ところが、植物公園の入口に目を向けた瞬間、胸に小さな罪悪感が生まれた。
イベント収穫祭——今日はそんな催しが開かれていた。
賑やかな声、屋台の香り。
入園すればきっと楽しい。
でも当然、有料。
……やはり今日は外から眺めて帰ろう。
そう自分に言い聞かせ、僕は入口から離れて別の道へ歩き出した。
気持ちを切り替えようと、周りに視線を走らせると、目に飛び込んできたのは駐車場の端に広がるイロハモミジ。
深みのある緋色。
光を吸ったような橙。
え、こんなに綺麗だったっけ——?
毎年見ているはずだ。
でも一度も立ち止まらず、ただ通り過ぎてきた景色だった。
今日、活動をしていなければ気づきもしなかったと思う。
試しに写真を撮ってみる。
スマホの画面に映った紅葉は、肉眼で見たとき以上に鮮やかだった。
「……イロハモミジか」
あとで調べて分かった名前だったが、自分の知らなかったことをひとつ知れただけで嬉しくなった。
興味のなかったものが、活動を始めたことで小さく光り出す。
それだけで、来て良かったと思えた。
◇ ◇ ◇
写真を撮り終えたあと、ふと視線の先に木の階段があるのが見えた。
駐車場から上へ続く、少し急な階段だ。
その階段を登る親子がいた。
母親と子ども二人が楽しそうに笑い合いながら登っていく。
別のルートからは、父親がベビーカーを押しながらジグザグの坂道を上っているところだった。
ベビーカーを押す父親の息は荒い。
でも表情は優しい。
赤ちゃんに声をかけながら、一つ一つ進んでいく。
『お父さんは、大変だ』
そう思った瞬間、胸の奥が温かくなった。
階段を登り終えた家族は、みんなで顔を見合わせて笑っていた。
『ああ、いいな……』
一人旅も悪くない。
でも、笑い合える相手がいる時間も素敵だと、その家族を見ながら心がじんわりした。
僕も貸し出された幸せを少し分けてもらった気分になった。
◇ ◇ ◇
階段を登り切り、真っ直ぐ進んでいくと、目の前に一面の木々が広がった。
人も少なく、風の音だけが静かに流れる場所。
十メートルほど離れた場所には小さな公園があって、母親と子どもが遊んでいた。
その奥では、学生達がレジャーシートを広げて楽しそうに話をしている。
「……ここ、穴場かもしれない」
心の中でそう呟いたその時——視界の端に、ふたつの木が飛び込んできた。
ほとんどの木がまだ緑色なのに、その二本だけが、燃えるように赤く染まっていた。
まるで、この場所で誰かを待っていたかのように。
僕はその場から動けなくなった。
『……今日ここに来たのは、この木に会うためだったのかも』
そんなことを、本気で思った。
紅葉の木は、ただそこに立っているだけなのに、なぜか胸を揺らす力を持っていた。
人も笑顔も風景も全部美しいけれど、この二本の木は別格だった。
僕は夢中で写真を撮った。
角度を変え、距離を変え、何枚も、何十枚も。
気づけば三十分が過ぎていた。
こんなに何かを集中して撮ったのは初めてだった。
◇ ◇ ◇
撮った写真を厳選しインスタに上げて数日経つと。
「……451人?」
嘘みたいに多い数字だった。
投稿して見てくれた人がこんなにいる。
胸が熱くなった。
僕の見た景色が、少しでも誰かの心に届いているなら——それだけで今日この活動をした意味があると思えた。
◇ ◇ ◇
帰り道、再び階段の方へ戻ると、空が薄い橙色に染まり始めていた。
雲のすき間から差し込む光が、木々の影を長く伸ばしている。
思わず息を呑む。
自然が見せてくれる景色は、ほんの数分で姿を変える。
「……今日、来てよかったな」
思わず呟いた。
今日は植物公園の中に入らなかった。
イベントにも参加しなかった。
でも、それで十分だった。
静かな公園。
紅葉した二つの木。
笑い合う家族。
学生たちの声。
そして刻一刻と変わる空の色。
そのどれもが、美しい記憶として胸に残った。
家に帰りながら思った。
活動を続ければ、またこうして新しい景色に出会える。
人の温かさにも、知らなかった自分の感情にも。
次の活動でも——何かひとつ、心に残る出会いがありますように。
そして、今日見たあの二本の紅葉のように、小さくても誰かの心を染められる一日になりますように。
僕はバイクのエンジンをかけ、ゆっくりと家路へ向かった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
今回の物語は、僕自身が午後活で感じた景色や気持ちをもとに書きました。
もし少しでも「ちょっと良いかも」と思っていただけたなら、とても嬉しいです。
僕は普段、Instagramで朝活や小さな旅の写真を投稿しています。
小説とはまた違う角度で京都の朝を切り取っていますので、よければ覗いていただけると励みになります。
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また次も、どこかの景色でお会いできますよう




