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今日も、朝は物語を連れてくる。

午後に染まる木々の色

作者: TO
掲載日:2025/12/02

 三回目の活動が始まる。


 僕は京都に住む二十二歳の社会人だ。


 今までは朝に動く朝活だったが、今日は少し違う。


 昼過ぎの柔らかい時間に動く午後活だ。


 家を出たのは午後二時。


 向かう先は宇治植物公園。


 立命館宇治高校のすぐ近く歩いて十分。


 でも今日は、原付を選んだ。


 京都は坂が多いからだ。


 歩きだと途中で息が切れてしまう。


 原付を走らせながら、曇りかけた空を見上げた。


 冬の光は弱々しいけれど、冷えた空気の中で妙に澄んでいる。


 エンジン音に混ざって、耳の奥に心地よい緊張感が満ちていく。


 今日の活動は、どんな景色と出会えるだろう。


 宇治植物公園の駐車場へ着くと、少し嬉しいことがあった。


 バイクは駐車料金がかからない。


 地味にありがたい。


 そう思う反面、車で来ていたら料金が必要だったはずで、「浮いたお金で入園料を払うか?」と一瞬考えたが——いや、それは違う。


 せっかく浮いたんだ。


 これは今日の勝利ポイント。


 ここで使うわけにはいかない。


 ところが、植物公園の入口に目を向けた瞬間、胸に小さな罪悪感が生まれた。


 イベント収穫祭——今日はそんな催しが開かれていた。


 賑やかな声、屋台の香り。


 入園すればきっと楽しい。


 でも当然、有料。


 ……やはり今日は外から眺めて帰ろう。


 そう自分に言い聞かせ、僕は入口から離れて別の道へ歩き出した。


 気持ちを切り替えようと、周りに視線を走らせると、目に飛び込んできたのは駐車場の端に広がるイロハモミジ。


 深みのある緋色。


 光を吸ったような橙。


 え、こんなに綺麗だったっけ——?


 毎年見ているはずだ。


 でも一度も立ち止まらず、ただ通り過ぎてきた景色だった。


 今日、活動をしていなければ気づきもしなかったと思う。


 試しに写真を撮ってみる。


 スマホの画面に映った紅葉は、肉眼で見たとき以上に鮮やかだった。


「……イロハモミジか」


 あとで調べて分かった名前だったが、自分の知らなかったことをひとつ知れただけで嬉しくなった。


 興味のなかったものが、活動を始めたことで小さく光り出す。


 それだけで、来て良かったと思えた。


 ◇ ◇ ◇


 写真を撮り終えたあと、ふと視線の先に木の階段があるのが見えた。


 駐車場から上へ続く、少し急な階段だ。


 その階段を登る親子がいた。


 母親と子ども二人が楽しそうに笑い合いながら登っていく。


 別のルートからは、父親がベビーカーを押しながらジグザグの坂道を上っているところだった。


 ベビーカーを押す父親の息は荒い。


 でも表情は優しい。


 赤ちゃんに声をかけながら、一つ一つ進んでいく。


『お父さんは、大変だ』


 そう思った瞬間、胸の奥が温かくなった。


 階段を登り終えた家族は、みんなで顔を見合わせて笑っていた。


『ああ、いいな……』


 一人旅も悪くない。


 でも、笑い合える相手がいる時間も素敵だと、その家族を見ながら心がじんわりした。


 僕も貸し出された幸せを少し分けてもらった気分になった。


 ◇ ◇ ◇


 階段を登り切り、真っ直ぐ進んでいくと、目の前に一面の木々が広がった。


 人も少なく、風の音だけが静かに流れる場所。


 十メートルほど離れた場所には小さな公園があって、母親と子どもが遊んでいた。


 その奥では、学生達がレジャーシートを広げて楽しそうに話をしている。


「……ここ、穴場かもしれない」


 心の中でそう呟いたその時——視界の端に、ふたつの木が飛び込んできた。


 ほとんどの木がまだ緑色なのに、その二本だけが、燃えるように赤く染まっていた。


 まるで、この場所で誰かを待っていたかのように。


 僕はその場から動けなくなった。


『……今日ここに来たのは、この木に会うためだったのかも』


 そんなことを、本気で思った。


 紅葉の木は、ただそこに立っているだけなのに、なぜか胸を揺らす力を持っていた。


 人も笑顔も風景も全部美しいけれど、この二本の木は別格だった。


 僕は夢中で写真を撮った。


 角度を変え、距離を変え、何枚も、何十枚も。


 気づけば三十分が過ぎていた。


 こんなに何かを集中して撮ったのは初めてだった。


 ◇ ◇ ◇


 撮った写真を厳選しインスタに上げて数日経つと。


「……451人?」


 嘘みたいに多い数字だった。


 投稿して見てくれた人がこんなにいる。


 胸が熱くなった。


 僕の見た景色が、少しでも誰かの心に届いているなら——それだけで今日この活動をした意味があると思えた。


 ◇ ◇ ◇


 帰り道、再び階段の方へ戻ると、空が薄い橙色に染まり始めていた。


 雲のすき間から差し込む光が、木々の影を長く伸ばしている。


 思わず息を呑む。


 自然が見せてくれる景色は、ほんの数分で姿を変える。


「……今日、来てよかったな」


 思わず呟いた。


 今日は植物公園の中に入らなかった。


 イベントにも参加しなかった。


 でも、それで十分だった。


 静かな公園。


 紅葉した二つの木。


 笑い合う家族。


 学生たちの声。


 そして刻一刻と変わる空の色。


 そのどれもが、美しい記憶として胸に残った。


 家に帰りながら思った。


 活動を続ければ、またこうして新しい景色に出会える。


 人の温かさにも、知らなかった自分の感情にも。


 次の活動でも——何かひとつ、心に残る出会いがありますように。


 そして、今日見たあの二本の紅葉のように、小さくても誰かの心を染められる一日になりますように。


 僕はバイクのエンジンをかけ、ゆっくりと家路へ向かった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

今回の物語は、僕自身が午後活で感じた景色や気持ちをもとに書きました。

もし少しでも「ちょっと良いかも」と思っていただけたなら、とても嬉しいです。


僕は普段、Instagramで朝活や小さな旅の写真を投稿しています。

小説とはまた違う角度で京都の朝を切り取っていますので、よければ覗いていただけると励みになります。


Instagram:https://www.instagram.com/solo_kyoto22_shorttrip?igsh=aWphZ2NqbXZhd2ph&utm_source=qr


※フォローしてもらえると本当に嬉しいです!


ブックマークと評価☆☆☆☆☆をよろしくお願いします。

みなさんの一つひとつの応援が、次の作品を書く力になります。

また次も、どこかの景色でお会いできますよう

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