インポッシブル ツー 1
「おら、とっとと自分の席につけ」
目出し帽男が拳銃の先で教室を指す。僕は手を上げたまま自分の席に向かう。
「椅子引いてもいいですか?」
「ゆっくりだ」
僕は銃口を向けられながらゆっくり椅子を引いて座る。
「お友達と同じ格好しろ」
クラスメイトはみんな頭の後ろで手を組んでいる。これって目出し帽は先生でみんなで僕にドッキリしかけてるわけじゃないよね? けど、教卓の隣に古文の竹内先生が手を後ろにして口にガムテープを貼って転がってる。さすがに冗談でそこまではしないだろう。
しっかり考えてみる。この状況って、もしかしてアレなんじゃないだろうか? だいたいほとんどの男の子が妄想した事がある、学校にテロリストが乱入してくるってやつ。そして、そのテロリストをやっつけてヒーローになって、クラス一の美少女が振り向いてくれる。
もしかして、これってチャンスなんじゃ? クラス一の美少女と言えば華さん。とは言っても、さっき華さんとは少し仲良くなれたから、別にこんなイベントいらないんだけど。オーバーキルだよ。こういうとこが、まったくツイてない。
目出し帽男はトランシーバーで小声で話している。他にも仲間がいるのか? 手にしてる拳銃はリボルバー。早撃ちガンマンが使ってるやつだ。そもそも本物なのだろうか? だいたいこういう時、噛ませ役的な人が暴走して餌食になるんだよな。
ガタン!
え、まじか? ケイシが立ち上がって目出し帽男にダッシュする。男は突進するケイシに落ち着いて銃を構える。
ズキューーーーン!
ぐっ、耳を押さえそうになった。初めて聞いた銃声は思ってたより大きかった。もしかしたら銃は玩具なんじゃと期待してたけど、本物だったのか。
「ぐわ、ぐわわっ」
ケイシが足を押さえてうずくまってる。血が滲んでる。
「殺さなかっただけ有難いと思え」
男はケイシを蹴る転がったケイシの足を見てる。
「クソっ。鈍ったな。かすっただけか。次は頭を打ち抜く。席に戻れ」
まじか。良かった。もし、ケイシじゃなく僕だったら一撃死してた事だろう。ケイシは足を押さえて涙と血をしたたらせながら、足を引きずり席に戻る。
それにしても最高にツイてない。パンツ穿いてないし、さっき帰ればよかった。それにスパサラがいたらなんとかしてくれたかもしれなけど、パンツ取りに帰ってるし。そう言えば、悪神がなんとかって言ってたな。これももしかしてその悪神のせいなのか?
「もう変な気は起こすなよ。俺はアメリカで早撃ちの大会に出た事もある」
多分、大会に出た事があるだけで成績は良くなかったんだろうな。さっき外してたし。
それにしても僕は冷静だ。ここ最近数多の修羅場を乗り越えたからだろう。ビルから落ちて無傷だったし、ウンコもらして華さんの好感度上がったし。経験って人を成長させるんだな。昔の僕だったら、今はオシッコもらして震えていた事だろう。
「じゃ、授業を始めるぞ、まずは、携帯を机の上に出して置け。いじった奴は撃つ」
今のはジョークだったのか? 全く面白くない。
僕たちは言われた通り携帯を机の上に置く。ガタガタ震えてる者、泣いてる者もいる。
ガラッ。
「兄貴ー。バリケード作らせてきやした」
二人の目出し帽が入ってくる。手にはリボルバー。なんで全員リボルバーなんだ?
目出し帽の後から来た一人が、携帯を纏めて部屋の隅に置く。僕らは銃で脅されながら、机と椅子を部屋の奥に移動させられ、カーテンを閉めさせられる。そして、手を頭の上に置いて固まって座らせられた。ケイシの傷は見た目より軽いみたく、もう血は出てないように見える。
けど、どうしようか? ポイントは150。多分今までの体感だと10分もたない。その間に銃をもったゴツい男三人をなんとかして、しかもクラスメイト40人を守るなんて無理ゲーなんじゃないか?
そう、日本の警察は優秀だ。小説やドラマとかだと、なんか煙が出るやつ的なものが投げ込まれて、警察が突入してきて犯人が捕らえられるのがテンプレだ。何もしなくても大丈夫。警察、頑張って。
「で、兄貴、これからどうするんで?」
「金を持ってこさせて、ヘリで港に行って、船で外国に逃げる。まあ、どこの国に行っても金があったら受け入れてくれるだろう」
うわ、杜撰な計画だな。絶対うまくいかなさそう。
「だが、その前にせっかくだから楽しむとするか」
「待ってました!」
「さすが兄貴!」
楽しむって何するんだ? こういうのって2パターンある。全年齢向けだと女の子がみんなか一部下着にされる。ゲッ、下着……華さん下着つけてるのか? もしかしたらさっきのまま? あと、十八禁だと、誰かがテロリストに犯されたり、クラスメイト同士でやらされたりする。どっちだろう? 現実は十八禁じゃないから後者のような……
「よーし、配信だ」
目出し帽一人が、兄貴に指図されて、テーブルに携帯がセットする。
「警察諸君、見ているか。これから30分以内に万券がぎっしり入ったスーツケースを二つ用意しろ。時間がきたら五分おきに一人処刑する。我々は本気だ。今から一人処刑する」
「おい、お前立て」
え、目出し帽一人が僕の襟を掴む。うん、だいたいこういう時ってモブが一人くらい撃ち殺されるもんね。まじか、ツイてなさ過ぎるだろ……




