インポッシブル フォー 6
「ワシが一本出したる」
渋い声で桃を落札したのは、スーツにハゲ頭のオッサンていうか爺さんだった。オークションを仕切ってた男に札束が入ったバックを子分みたいな奴が渡している。一本って幾らか? 百万円か? ももの体が百万は高すぎる。十万。いや一万でも僕は買わない。
「えー買いもんしたわ。飽きるまでつこたら、内臓売っても軽く元とれるしのぅ」
え、内臓売る? もしかして桃の体じゃなくて命の値段? 爺さんは桃に顎クイして顔を吟味してる。桃は猿ぐつわされフゴフゴ言ってる。そこに友達が駆け寄る。
「ちょっと待ってよ、ヤクが入ったぬいぐるみは返したから、桃は返してよ」
勇気ある女の子だな。僕なんてビビって声も出ないのに。さっきのクマさんという奴が桃の友達の髪を引っ張って桃から引き離す。
「はぁ、お前、親分に何言ってんだ? 親分が買ったから桃は親分のもんだ。文句があるなら、今ここで、百万以上の金を出せ」
「ちょっとお姉さんもなんか言ってよ」
ええーっ。僕に振るなよ。まあ、けど、元々、桃は助け出すつもりだししょうが無いか。なんか言おうとしたけど、先にクマさんが口を開く。
「おめー、さっき『ヤク』って言ったな! 中身確かめやがったのか? 見ちまったからにはしょーがねーな。おめーらも帰す訳にはいかねーなー」
え、まじか。ふぅ。やっぱやるしかないのか? けど、正直気がのらない。あの悪ノリしてる中学生のような気分になるのは躊躇する。それにここにはオッサンがしこたま居るから、手加減できそうもない。スーパー状態になったら多分オッサンたちは悲惨な目にあう。僕は平和主義者だ。無駄な争いはしたくないよ。
「あのぅ。出来れば私たちを、なんて言うか、見逃してもらえないですかぁ♡」
可愛いは正義という。僕の可愛さでなんとかならないだろうか?
「はぁ? 寝ぼけてんのか? 帰さねーっつってんだろ」
クマさんが僕に臭い顔を近づけてニワトリさんみたいな動きで威嚇してくる。けど、僕はこれでも何度も死線をくぐり抜けてる。それにくらべたらニワトリなんてどうって事ない。そう思い、己を奮い立たせる。
「私たちが、争っても何も生まないと思いますぅ。私、今、便所掃用のデッキブラシもってますしぃ。これで叩かれたら痛いですよぉ」
「はぁー? おんどりゃ舐めとんぬか?」
なんか叫んでるよ。おんどりとか言ってるし、ニワトリ好きなのか?
「おんどりなんか舐めてないですよぉ」
頭にはち切れそうな血管を貼り付け、顔を真っ赤にしてクマさんが喚き始める。
「あぁあ? ざけとんのかワレ! そのデッキブラシでワシらを掃除するとでも言うとんのかいのー。わしらはクソちゃうねんぞ」
クマさんの肩をどかして親分と呼ばれてた爺さんが前に出てくる。
「くまぁ。まてや、この嬢ちゃん、わしらをクソとぬかしよるんか?」
親分めっちゃ顔怖い。絶対この人何人か殺してる。
「ひっ。そんな事言ってないですぅ。このブラシでヨゴレをとろうと思ってるだけですぅ♡」
「ヨゴレを殺るだと。確かにわしらはカタギからはヨゴレとけなされとる。だが、殺るとは大きく出たのぅ。殺るゆーとるって事は、殺られても構わんちゅーことやで」
「クソが!」「いてこましたる!」「ぶっ殺す!」「ミンチにして魚のエサにしてやる!」
いつの間にか僕らは囲まれていて、武器を手にした反社の人たちがガーガー喚いてる。
「お姉さんもう止めてー」
桃友人が涙目でしがみついてくる。やらかいものが当たってちょっと嬉しい。
「てめぇーら。静かにしろ」
親分の言葉で辺りが静まり返る。
「ねぇちゃん。死んだな。最後に言いたい事ありゃ聞いてやる」
なんかこの人たち何言ってるのかわからないよ。やたらうるさいし。多分、すこぶる頭が悪いんだろう。わかりやすく言ってあげよう。
「あのぅ。私、とても強いんです。争ったら怪我人が出ると思いますので、妹を返してくれたら大人しく帰りますぅ♡」
「ふざけんなメスガキがっ!!」
クマさんが吠える。
「威勢がいいねぇちゃんだ。ねぇちゃん完全犯罪……」
そして、親分の長い能書きの後、反社の人たちは僕に襲いかかってきた。
じゃ、しょうがない。ちゃっちゃと終わらせますか。良かった一応マスク持ってきて。顔に付けて呟く。
「インポータント・インポッシブル」
キタキタキタキタァ!
「愛と正義の騎士ジャンヌ。いざ参る!」
決めゼリフと決めポーズ。本物のジャンヌが手にするのは聖剣だけど、今はデッキブラシ。ま、いっか。斬って斬って斬りまくってやる。多勢に無勢手加減なしだ! 目指せオッサン百人斬り!!
【桃の友人舞視点】
ああ、私の人生終わった。多分、汚いオッサン共に犯されまくって、内臓を売られて切り刻まれて魚のエサになって高層ビルの下に埋められるんだわ。
たくさんのオッサンが桃のお姉さんに群がってくる。次は私だ……
え、舞い上がる血しぶき。もうお姉さん殺されたの!
違う。オッサンが血をまき散らしながら倒れている。しかも何人も。倒れたオッサンたちの真ん中に佇むお姉さん。何が起こったの? 見えなかった。お姉さんがオッサンを斬ったの? いやそんなはずはない。お姉さんの構えてるのはデッキブラシ。そんなんで人が切れるはずない。
オッサン第一弾は素手だったけど、次はドスを構えたオッサンがお姉さんを囲んでいる。お姉さんがデッキブラシを振るう。そのデッキブラシに向かってオッサンが当たりに行ってる? デッキブラシに当たったオッサンから血が噴き出す。なんで? そしてお姉さんがデッキブラシを振る度にオッサンたちが当たりに行って血を噴き出し倒れていく。なんなのこれ? まるでめっちゃ素人で大根な役者さんがやってる時代劇、いやコントの時代劇、いやそれ以下だわ。全くリアリティがない。小学生のお遊戯以下だ。もしかして、これってテレビのドッキリとかなの? 私を騙すためだけの? 違うわ、出てる血は本物。むせ返るような血の臭いがする。




