表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

 インポッシブル ゼロ 2


「ひゃっほほーーーーーっ」


 口から叫びが漏れる。なんだこの風、台風? 柔らかいものに受け止められたみたいに、急に落下が止まる。これは落ちている感触じゃない。まるで水の中に浮いているようだ。水に沈むかのようにゆっくり降りていく。下からは絶える事なく空気が俺に当たる。髪は逆立ち、口から入った空気が頬を広げ気持ち悪いから口を閉じる。


「あんたを道連れにした女の子はどうすんの? そのまましてたら、落ちて死ぬわよ」


 黒猫が話しかけてくる。空中なのに香箱座りしている。そう言えば消えかけてたのに今は姿がはっきりしている。猫は手で俺の横を指す。

 髪を広げた女の子が仰向けに祈るかのように手を組んで落ちている。これって、アレだな。飛行石は無いけど、男なら一度は夢に見た事がある、美少女が空から降ってくるというやつだ。やる事は決まってる。俺は華麗に平泳ぎで空気を泳ぎ、彼女に近づきお姫様抱っこする。柔らかい、ずっしりと手に重み。けど、風が彼女を支えてるから楽勝だ。ゆっくり俺は降りていき、足が地につく。風がだんだん弱くなる。着地したのはビルの中庭。土の上だけど、普通に落ちたら死んでただろな。


「うわっとと」


 急に手に重みが。ずっと支えてるのは俺には無理だから、優しく地面に横たえてやる。


「ちょっと、あんた、ぼけっとしてないで早く解除しなさいよ」


 足下の猫が指してるのは謎の数字。もう200を切っている。なんなんだ?


「おい、解除って何だ?」


「あ、言ってなかったわね。解除の言葉は『ミッションコンプリート』よ」


「ううーん」


 んっ、女の子が目を覚ましそうだ。今起きた事を説明しても信じて貰えないだろう。ややこしい事になりそうだな。どうにかして顔を隠せないか? 風でクルクル回りながらなんか飛んでくる。咄嗟に手を伸ばしてキャッチすると、それは、仮面。俺はそれを顔に当てる。ヒーローは姿を隠すものだ。甘い化粧品の香りがする。これで大丈夫だ。

 女の子がゆっくりと立ち上がる。


「あなたは誰?」


 俺は誰だ? 完全無敵最高最強の足が長い超イケメンだ。長いな、そうだな……


「私か、私の名前はプリンス。通りすがりのヒーローだ」


 そう、今の俺はプリンス。世界のプリンスだ。なんでもできるヒーローだ!


「私は、自殺しようとしてたのに……」


「ああ、お前は死んだ。今は新しいお前だ。俺がお前を拾った。お前はもうこれからは俺のものだ。俺のために死ぬ気で生きろ。また死にたくなったら、俺を頼れ。何からでも助けてやる! じゃ、あばよ」


「ちょっと、なんなのよ。待ってよ!」


 俺は女の子の声を背に駆け出し去る。なんだこのスピード。風が背中を押している。人としてあり得ない速度でビルの敷地から路地裏まで来た。


「おいっ、解除! 解除!」


 うるさい猫だな。すげーな。俺のマッハダッシュについてきたのか。


「数値がマイナス100になると、解除した時に何が起こるかわかんないのよ。多分不運でサクッと死ぬ」


 ん、死ぬ? それは良くないな。


「ミッションコンプリート」


 とりあえず言ってみる。数字は99でカウントを止め消えた。

 うっ、どっと疲れが。今のはなんだったんだ。なんか頭が変になってた。やたらテンションが上がってた。

 顔からマスクが落ちる。え、もしかして、このマスクって風で僕の顔に貼り付いてた? ご都合主義か? 拾ってマスクをポケットに入れる。

 

 けど、まさか助かるとは……


 昇龍風。


 昔何かで読んだ事がある。人を逆流させるほどの威力の伝説の風。まさか実在したとは……


 それよりも、詳しい話を聞かないと。この猫は僕のイマジナリーフレンドなんかじゃない。さっきの風は偶然にしてはできすぎだ。


「ねぇ、猫ちゃん、さっきのはなんだったの?」


「猫ちゃんって、あんたもしかしてもうあたしの名前を忘れたの? 頭の中ニワトリさんなの?」


「忘れてないよ」


「じゃあ言ってみなさいよ」


「スパゲッティ?」


「違うわ。サラスバティーじゃ、忘れないように復唱しなさい」


 あ、そうだった。


「スパサラだったね」


「サラスバティーって言ってるだろ。ってもういいか。で、何から聞きたいの?」


「さっきの、インポなんとかって言葉を言ってから僕には何が起こってたの?」


「インポータント・インポッシブルよ。ちゃんと覚えなさい。意味は『絶対不可能』。どんな不可能な事でも可能にできるかもしれないあたしがかんつけた魔法の言葉よ。どう言えばわかりやすいかしら」


 ん、こいつ自分でも訳がわかんないのか?


「まずね、あくまでも例えだけど、普通の人は、普通のサイコロだとするわ。何か運が絡む行動をした時にサイコロを振って、一が出たら最悪の結果。六が出たら最高の結果が出る。ここまではわかるわね」


「まあ、そうだね。偶然をサイコロに例えてるんだね」


「それで、あんたの場合だけど、そのサイコロの目は一と六しかないの。しかも六が一つで、一が五つの」


 なんかわかる気がする。僕はいつもついてない。けど、ごくごくごくごくまれについてる時もある。いつも感じる。この世は不公平だと。


「けど、トータルで見ると、運っていうのは平等なの。だから、あんたの場合、不幸がくればくるほど、幸運値が溜まっていくのよ。その幸運値がさっき浮かんでた数字。さっきの呪文『インポータント・インポッシブル』って唱えると、あんたは幸運値を使って、最高運状態になれるのよ。けど、ばかみたいなスピードで幸運値を使うから必要最低限しか使わない事ね。解除の言葉は『ミッションコンプリート』。覚えたわよね」


 なんか嘘みたいな話だな。けど、実際体験したわけだしね。

 


 読んでいただいて、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ