インポッシブル フォー 2
『俺様は幸運の女神サラスバティーの使徒! 俺様に不可能は無い!』
心の中で叫び、ビキニ、いや、多分コスプレの衣裳に手を伸ばす。なんか見た事あるな。間違いない。これってスマホゲーム西方幻神録の人気キャラのジャンヌのものだ。皺一つ無い。残念ながら未使用だな。
よしっ!
意を決し、それらを身に纏う。生着替え系のエロ動画にも長じていたのが役だってる。ブーツがあるのは有難い。裸足生活脱却だ。おお、ウィッグとメイク道具一式もある。メイクはした事ないが、妹がしてるのを良く見てるしジャンヌのイメージなら完璧だ。俺に不可能は無い!!
フッ、さすが俺様。姿見の前には完全無欠のジャンヌがいる。運良く適当にしたメイクもばっちしだ。惚れそうだぜ。この服の持ち主が胸が小さいのかパットが大きかったのが勝因だ。ペーパータオルをギュッギュ詰めたらなんとかなった。俺は毛深くないし(脇毛生えないんだよ)、喉仏目立たないし、骨格は華奢だからな。ハハッ……
けど、どうしようも無い問題が一つ。もっこり、もっこり、もっこりだよ。頭の中に伝説のラジオパーソナリティー鶴光師匠の歌が流れる。とりあえず両手で隠してたら凌げるよな。
「じゃ、しおり行くわよ。ってあんた誰!?」
マイクを手にした女性が入ってくる。おいおい着替え中だったらどうすんだよ。
「あのぅ。私、急遽ぉ、しおりの身代わりで、りっ、リカですぅ。よろしくお願いします。しおり、体調悪いそうでぇ♡」
さすが俺様。呼吸をするかの如く嘘が口から流れだす。
「そうなの? じゃあんた研修生? にしては可愛いわね。ま、時間ないからいっか。あんたの方がジャンヌっぽいし。もしかして恥ずかしがってんの。確かにさ、水着みたいで恥ずいかもしんないけどー。仕事だから諦めて。ほら、手ーどかして」
うっ、手をどかせだと! まずい。これはまずい。けどさすがスーパーな俺様。天啓が閃く。
「ひゅうっ!」
俺は足を逆ハの字に構え、股間に手を当てたまま呼吸する。これは琉球に伝わる空手の奥義。
「あんた大丈夫? なんなのその変な声とポーズは?」
「うんとぉ。これってー。琉球空手の構えでぇ『さんちん』っていいますぅ♡」
そう。三戦と書いて『さんちん』。内股の少し女の子っぽい構えだけど、なんと揺れる所でも安定するという素晴らしいものだ。けど、今俺が困ってるのは『ちんちん』だ!
「こぉおおおっ」
気合いを入れるが、爺さんが痰を吐く時のような声になった。下腹部に力を入れ無理矢理押し込む。痛ぇ。この前の古傷が開きそうだ、開いたら大変な事になる。また、血の海が顕現する事になる。けど、俺は奇跡を起こす男だ!
いけた!
成せばなる何事も!
フッ。『コツカケ』成功だ! 『コツカケ』とは琉球空手の奥義らしくて、睾丸を体の中に隠すという凄まじい技だ。当然そんな事を俺が出来る訳ないから無理矢理押し込んでみた。ちなみに空手の構えを模したのは気分だ。そして棒を後ろに伸ばしてこれでもう大安心だっ!
「あんた、大丈夫? 変な声出して股間いじって……」
おいおい、それじゃ俺が変態みてーじゃねーか。
「大丈夫ですぅ。食い込みを直しただけですぅ。本番前で緊張したからぁ。空手の真似して気合い入れてみましたー
♡」
「そう。ならいいけど。行くわよ。みんな待ってんだから」
ならいいけどって天然か? それより、待ってる? 行く? まあ、なんとかなるだろ。これで一番のピンチは乗り越えた。
「ミッション・コンプリートぉ♡」
小っこく可愛く言ってみる。もう解除しても問題ないだろう。
「あんた不思議ちゃんキャラなの? コンプリートも何も今からだって」
僕は、女の人に手を引っ張られ、テントを出てステージに立たされる。ゲッ。目をキラキラしたオタクがしこたまいやがる。
けど、ジャンヌのコスプレしたアイドルが来るのなら、僕も行きたかったなー。見渡すと最近僕によそよそしい陰キャ仲間も来てるし。誘ってくれよ。仲間外れかよ。
そして、『しおり』という女の子の代理と紹介されて、ジャンヌの色んな人ポーズを取らされる。そしてめっちゃ写真を撮られまくる。ヤバい。恥ずかしすぎる。何が悲しくて、ステージに女装して立たされて撮影されまくらにゃあかんのだ。新手の拷問か? おお、ポイントがザクザク入ってる。スパチャか? まあ、けど、歌ったり踊ったりが無くて助かった。もし技術が要ることするのなら、またスーパーになるしか無かった。それに、ジャンヌの決めポーズなら完璧だ。けど、誰一人として僕が男だとは疑ってねーな。シクシク。
地獄のような時間はゆっくり流れ、やっと解放された。この衣装の主の『しおり』はどこ行ったんだろ?
「ふぅ……」
テントに入ってパイプ椅子に座って、お姉さんがくれたジュースを飲む。労働後の一杯はたまんねーぜ。
「うおっ!」
伸びてきた手にいきなりジュースの缶をひょいっと取り上げられる。女の子? あ、飲むなよ僕のジュース……
「ぷふぁっ。うま。で、あなた誰? 助かった。変わってくれて」
ん、見た事ある顔? テレビで見た事あるのか? おい、近い近い。チューされるのか?
「プリンスさん……」
「え……」
なんで、僕がプリンスって分かったんだ?
「女の子だったの……」
なんでそんな悲しそうな顔するの?
あ、この子、自殺しようとしてた女の子だ。そばで顔を見たから思い出した『ひばり坂44』の栞ちゃんだ。おお、サインもらお!
「ありがと。また助けには来てくれた。夢じゃ無かった」
あ、アイドルが僕ごときに抱きついてる。アイドルの慎ましいやらかいものが当たってるんですけど!




