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 フルムーン・インサニティ 3


「おっ、やっぱ当たったか」


 喉が渇いたので、ジュースを買ったら、当たりつきの自販機でもう一本買ってよしと光ってる。おお、初体験だ。当たりつき自販機のジュースが当たるのって都市伝説かと思ってた。これって確か時間制限あるんだよな。汁粉でいいか。


 ガチャン!


 横断歩道でチャリが倒れてる。今日はやたらチャリが転倒してるのを見る日だな。信号は青だけど、点滅してるし、ここ車多いから危ねーよ。ん、転んでるのは女の子。そう言えば、あと一人くらい女の子を助けて感謝されてもいいなーって思ってたとこだよ。前まではゴミムシを見るような目で見られてた俺だけど、今はなんてか腫れ物扱いだもんな。


 女の子はしゃがんだまま動かない。どんくさいな。まるで俺を見てるようだ。うわ、テンプレ。来てるよダンプ。しかも運転手こっくりしてる。しょうがねーなー。汁粉を尻ポケットに入れて、ぶわっと吹く風を背にダッシュする。そして女の子をお姫様抱っこで抱え上げ、風に乗り横断歩道を渡りきる。


「え、なに、ワープした?」


「横断歩道で立ち止まったら危険ですよマドモアゼル」


 キキーッ。


 ダンプはブレーキをかけたが、何もなかったからかそのまま走り抜けていった。おいおい、俺様がいなかったら激しい交通事故だったぞ。ダンプの運転手モラルねーな。


「助けてくれたの?」


 女の子は垣田志織。またクラスメートじゃねーか。ボブの可愛らしい眼鏡女子だ。テロリストの時の下着姿を思い出す。多分、クラスで一番大っきかった。


「いや、落ちてたから拾っただけだ。報酬として、一割請求する。今日からお前の体の一割は俺のものだからな」


 風のサポートが切れて、重いから志織を立たせる。怪我は無いみたいだ。


「ありがとう。陸くん。助かったわ。ちょっとめまいがして立ち上がれなくて。あなたが助けてくれなかったら良くて大怪我だったわ。ありがとう。体の一割ってどこが欲しいの?」


 なんか潤んだ目で僕を見てるよ。助けて貰っただけでチョロ過ぎるんじゃないか?


「冗談だ。真面目に受け取るな。じゃ、俺は帰る」


 ガシッと俺の手が掴まれる。


「待って、助けて貰ったのに何もしないわけにはいかないわ。お腹減ったでしょ。うちでご飯食べていってよ」


 うん、確かに走り回ってお腹が減った。まあ、飯くらいはいっか。


「しょうがないな。美味いもの食わせろよ」


「大丈夫よ。お母さん料理上手なんだから」


 ◇◇◇◇◇


「いや、本当に、やっぱり帰っていいですか?」


「ダメよ。来てくれるって言ったじゃん。本当は、あの事件のあとに家に呼ぶようにってお父さんが言ってたんだけど、私たちみんな、陸くんとはあんまり絡まないようにって警察の人から言われてるのよ」


 えー、なにそれ。国がかりで、僕をハブる計画があるわけ?


 『望』の高揚感が落ち着いてきて、僕を襲ったのは激しい羞恥心だった。今も幸運に包まれてると思うけど、どうやら僕の意思で少しはコントロールできるようになったみたいで、程々で押さえている。

 華さん助けて、志織さん助けて。なんかイキった訳わかんないセリフ吐きまくって。恥ずかし過ぎて穴があったら入りまくりたい。

 僕は一日中大人しくしとくつもりだったのに、スーパー状態になったら僕でも制御できない。なんかなんでも出来る気分になって文字通り暴走して、口からはペラペラと思った事をキザに吐きまくる。今後はどうにかしてセーブしないと。

 今は仮面は外している。仮面を外すと、ちょっとは制御できる感がある。今も体は熱くドキドキしてるけど、それは違う意味でだ。志織さんが僕の腕にしがみついて、明らかにブツを押しつけている。チャリを回収して駐輪場に停め、志織さんに連れられてその家に向かってる。


「おかしいわねー。何回電話してもお母さん出ないの。忙しいのかなー」


「じゃ、忙しいなら僕帰ってもいいですか?」


「だめよ。約束は守って。もう、私の一割は陸くんのものなんだから」


 さらにぎゅうぎゅうしてきます。もしかして、一割ってそれですかぁ?


「そ、それも口が滑っただけで……」


「滑っても言った事には責任持ちましょう。ちゃんと歩いて」


 ダメだ。攻撃力強すぎる。けど、やっぱおかしいよ。華さんがパンツ脱いだり、志織さんが胸押し付けてきたり。特に志織さんはいつも大人しく、絶対こんな事しないキャラだ。もしかして、新手のスタンドに攻撃されている? なんて素晴らしいスタンドなんだ。うちのスパサラと交換したい。

 そう、スパサラと言えは僕らの後ろから歩いてきている。猫もジト目ってできるんだな。



「じゃ、あがって。お母さん、お父さん」


 高級マンションの最上階。志織さんは指紋認証で扉を開けて入って行った。入り口からの二段階認証に顔認証に一階には警備員、通路の至るとこにカメラ。ここって芸能人とか大富豪とかが住んでるとこなんじゃないのか?


 黒猫スパサラが僕の足下から見上げている。


「陸、力を解放して。居るわ。間違いなく奥に」


「あー。野良猫が入って来てる。警備員さーーん」


「ふざけてる場合じゃないわよ。あんた誘い込まれたのよ」


「何いってんだよ。このセキュリティでなんかあるわけないじゃんって。あ、野良猫でも入ってこられてるって事は……」


「野良猫言うなー。早く全力だしなさい!」


 ガシャーーン!


 何かが割れる音? 僕は仮面を装備して靴のまま踏み込む。


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