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 フルムーン・インサニティ 1 


 キーンコーンカーンコーン!


 学校でおなじみのこの鐘の音は、ウェストミンスターの鐘、イギリスのビッグベンの鐘の音らしい。四つの鐘を叩いてるらしい。なぜその事を思い出したかというと、僕はクラスメイトから裏では『ビッグ便』と呼ばれてるらしい。偉大な大便粗相者という事と、イギリス貴族のようなウィットに富んだエレガントさから、誰が思いついたのかは知らないけどそうなったそうだ。勘弁して欲しい。

 

 授業も終わり、掃除してホームルームの後帰宅。クラスメイトは全員出席している。あれから一週間、大した事もなく平和な日常。あの時の事はまるで無かったかのようだ。けど、変わったのは僕が絡まれなくなった事と、なんかみんなよそよそしくなった事だ。

 なんか政府の圧力的なものが働いたのか、事件はすぐに不自然に忘れ去られた。有名人のスキャンダルや、結婚などが立て続けに起き、すぐにネットでは忘れ去られた。もしかしてこういう時のために国では爆弾ニュースをストックしてるのかもと思うと、少し世間の闇に触れた気分だ。

 良くなった事と言うと、華さんだけはちょこちょこ話しかけてはくれるようになった。まあ、元々僕は孤立してたから、あんまり変わらないって言えば変わらないし、絡まれなくなった分、かなり生活しやすくはなった。やっぱり平和が一番だよ。

 けど、相変わらず僕はツイてない。ハトの糞やカラスの糞や知らない鳥の糞などは僕に吸い込まれるかのように落ちてくる。だから歩く時に上を向くのは厳禁だ。口や目を攻撃されたら目も当てられない。当然、ペーパータオルは必需品だ。

 あと、歩く時にはいかなる時も足下にも気をつけている。それでも、バナナの皮や犬の糞、果ては使用済みのコンドームなどが僕を転倒させようと襲いかかってくる。遠回りして通る道を変えたりしても効果ない。まるで僕が選んでるかのようにいろんなものを踏んづける。日本は安全? そんなのは嘘だ。日常ではありとあらゆるものが僕に牙を剝いておそいかかってくる。けど、そういうプチ不幸は僕のエサでしかない。今はもう800ポイント超えている。これなら結構使っても大丈夫だろう。放出する時が楽しみだ。



「遅いじゃない。あんた、明日はなんの日か忘れたの?」


 何事もなく帰宅すると部屋には猫が待っている。窓の鍵を開けてると勝手に入ってくるんだけど、まだ家族にはばれてない。けど、声を潜めないとそろそろ妹にばれそうな気がする。


「明日って土曜だよね。どっか連れてって欲しいの?」


「何いってんのよ。明日は『ぼう』よ。『ぼう』! 『ぼう』なのよ。だから一日家で大人しくしてなさい!」


 なに訳がわかんない事言ってんだろう。まあ、こいつはいつでも大袈裟だもんね。


「うん、ボウボウだねー。猫だからねー」


 僕はスパサラを脇の下に手を入れて持ち上げる。うん、モフモフ。


「あんた。女の子にそんな事言うんじゃないわよ。ぶっ叩くわよ。猫だから毛深いだけで、実体はすべすべなんだから!」


 全く、女の子なら下ネタっぽい事言わないで欲しい。なんか男友達にしか見えない。


「だから『ぼう』なのよ!」


「だから『ぼう』って何?」


「えっ、あんた知らないの? あっちゃー! 言ってなかったわ」


 うわ、『あっちゃー』なんて古い漫画でしか言う人見た事ないよ。もしかして、こいつ、ボキャブラリーは漫画からきてるのか?


「しっかり覚えなさいよ。『(さく)』は新月、『(ぼう)』は満月。ほら、満月の事『望月』って言うでしょ」


「じゃ、満月って言えばいいじゃない」


「話は最後まで聞きなさいよ。望って満月の事だけど、暴走するからその暴もかけて、『ぼう』って呼んでるのよ」


「暴走? スパサラが暴走するの?」


「あたしもだけど、眷属のあんたもよ」


 僕って眷属なのか?


「ムーンの月と、ラックのツキって同じ読みでしょ、それと同様に運とお月様って密接な関係を持ってるの。要は、満月の日は力が強くなりすぎて暴走して、新月の日は力が弱くなるって事よ」


「えっ、そうなの? 力が強くなるの? 実際はどうなるの?」


「えー、あー、そうね。暴走するわ」


 歯切れ悪いな。何か隠してるな。


「わかったよ。明日は家で大人しくしとくよ」


「絶対よ。絶対。今日はあたしもあんたのベッドの下で見張ってるから」


「はいはい、わかったよ」


 ◇◇◇◇◇


「ヒャッホー! 俺様サイコー!」


 俺は仮面を着けて風を背に走っている。サイコーだ。呪文無しでも力が満ちあふれ、しかもカウンターが減らない。そしたらやる事は一つ。今日一日強運を楽しみつくしてやるぜっ!


「ちょっとー。騙したわね。危ないから家で大人しくしてなさいっ!」


「そんなのしらねーよ」


「あたしたちが強くなってるのと同様に悪神にも強くなってる奴がいるのよ」


「大丈夫だ! 何があっても今の俺は無敵だ。じゃあな。アーディオーーーース!」


 もっと速くと願うと、背中の風が強くなる。格好いい走りをイメージしながら歩道を爆走する。フェラーリを抜き去り、人が俺を避けていく。サイコーだ。高速で走るって気持ちいいもんだな。

 


 

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