9:この身に流れる者
『狩人のディポラティア【9:この身に流れる者】』
月光が照らす頂き。
「喰らうか…。」
―グシャ…。グシャ…。―
「ッグ…!!!」
―ボタボタ…!!!―
ディポラティアは血を吐いた。
「全身が痛む…。だが、確実に感じるぞ…。獣達を得る事に、声が遠くなっている。」
彼の中には何かがいる。
”それ”の抵抗で、全身が痛むのだ。
ーーーーー
―バチバチ…。―
空洞の中。
石を椅子とし、燃える木々を中心に皆は集まった。
(ブラックソード)「喰らい終わったのか?」
「あぁ。…お前達の傷は大丈夫か?」
「あなたの傷が、一番深いので。」
「サンはどうだ?」
「大丈夫。…体が燃えた力。昔と同じだ…。感覚も全て…。」
(ハザキ)「化身の力が、残っていたのか?」
「だが、風の化身に火を起こす力はない。サン。お前が今操れるのは、火だ。…サン旅の話を聞いてから、思っていたことがある。"化身の力に、何故耐えていられたのか"。」
(皆)「…!」
疑問には思わなかった。
耐えられた結果を見たのだから。
(ルナ)「…魔人と同じ。」
魔人は人と魔物を歪に合わせた存在。
人という母体は、同じである。
であれば、魔物の力で寿命が短くなる人の体が、
化身の力に耐えられる訳がないのだ。
「今にしよう。」
―スル…。―
眼帯を外した。そこにはやはり、竜の目。
"邪眼"のようなものがある。
「この身に流れる血。…"俺達の家系"に流れる者についてだ。」
ディポラティアは話し始める。それは何十年前の出来事。
「これは"邪眼"だ。…かつて右大陸に君臨していた、"獣の王"と呼ばれる存在がいた。"何かが原因"となり、王率いる竜の軍勢と、狩人達は戦った。血と火が広がる、大戦だった。…そんな王を倒し喰らったのが、"俺達の叔父"になる。」
それは、右大陸で起きた大戦の話。
何かの原因により、竜と狩人達は争った。
(サン)「…!」
「獣の力をもたない狩人だった。孤高であり最強の。」
何者も喰らわず、常に一人で任務をこなしていた狩人。
サン達の叔父。
「…獣の王。そして、今なお流れる者。名を、"竜神:バハムート"。俺達には奴の血が遺伝し、流れている。」
かつて右大陸に君臨していた最強の獣。
ディポラティア達には、そんなバハムートの血が流れている。
(サン)「だから…。」
「バハムートの血が、膨大な化身の力と調和していたのでしょうか…?」
「強大な者同士、ぶつかり合っていたのだと思う。だから無事でいられた。それに、竜の血が体に染み込んだのも、元々竜の血あっての事だろう。でなければ、その時点で命が危うい。」
化身と竜神の力はぶつかり合った。
そのため本来肉体へとくるダメージを、抑えられていたようだ。
そして竜。魔物が危険というのなら、竜もまた同じであろう。
運命か幸運か。
サンが辿った道は全て、奇跡の正解であったのだ。
(サン)「…。この命に奇跡を感じる…。」
(ハザキ)「バハムートの力は使えないという訳か。そのため、他の獣を喰らう。」
「獣との関係に友情などない。…バハムートを喰らった叔父も、扱えなかったそうだ。ただ大戦によって、重症を負っていたからかもしれない。」
(ミア)「獣の力は遺伝するの?」
「いや、バハムート以外で聞いたことはない。奴は死んだ今なお血として流れ、俺達を呪っている。」
死してなお消えないその意志の恨み。
それは、ディポラティア達の肉体で蠢いている。
「妹ケイジーノにも…?」
「確かに、バハムートの血が流れている。妹だが、"あの生物兵器"の、コアだと思う。その役目をしているようだった。」
ムデナ・パンドラは大戦の歴史を知り、その血筋を探していた。
そしてあの日、サンの前へ現れた。
―ブボボボボボボ…!!!―
右大陸管理組織の舟だろうか。風を切る音が聞こえる。
「大戦については俺も詳しくは知らない。全て、言葉を見聞きした程度だ。」
「兄さん。最後に一つ、聞いてもいい?」
「なんだ?」
「"母さん"は…。」
ディポラティアは沈黙していた。
サンも皆も、気付いてはいるのだろう。
「…。きっと俺より強い血が、流れていんだと思う…。」
ディポラティア達の母。
彼女もまた、獣との戦いをしていたのだ。
「奴らが降りてくる。…会いに行くとしよう。」
ーーーーー
巨大な方舟が着地している。
その船から降り、歩いてくる者の姿が。
―スタッ…。スタッ…。―
(右大陸管理組織代表:ミラーデイン)「私は"ミラーデイン"。"右大陸管理組織:ミランシェ"の代表だ。」
「代表自ら会いに来るとはな。」
「我が大陸優秀の、狩人のためだ。…ムデナ・パンドラ討伐は、やれると見込んでいいな?」
「あぁ。…ジフレッドは喰らってある。」
「承知した。ミランシェは約束しよう。"獣を討つ、最強の武器を作ると"。」
特異個体の素材を使用した、最強の特効武器。
ディポラティアが密かにやっていたこと。
「狩人狩り、拘束しました!変身はおろか、脱出不可能です!」
狩人狩り:スレインは、鉄製の頑丈な拘束具で縛られている。
遠く離れた位置でも、鼻を刺激する麻痺性の花粉が飛んでくる。
"鉄鼠:デス・ローリング"。"痺れ花:シビレソウ"。
頑丈な鉄に強力な麻痺花粉を塗った、凶暴な獣さえも縛り付ける拘束具だ。
「では行こうか。…君とは話したいことがある。方舟に乗りたまえ。」
―ブボボボボ…!!!―
方舟は煙と火を吹き出し、宙に浮き始めた。
「ついて来てもらおう。"空の地"へと共に。」




