12:血は滾り
『狩人のディポラティア【12:血は滾り】』
四体目の獣"プリンス・グリセス"を討伐した、ディポラティア達。
―グシャ…!―
四体目の獣を喰らう。
(ルナ)「喰らうって、普通に食べるだけなんだ。」
崩壊を始めた氷の柱から、ルナ達が降りてきた。
「特別なものを想像していたか?喰らうということは食べること。それ以上などない。」
(ブラックソード)「味を付け、焼いた方が美味いと思うがな。」
「特異個体は血が濃すぎる…。何を使っても、かき消せないぞ。」
(サン)「体に変化は?」
「…まだそこまでだな。少し、休んでいくか。」
獣の血を浸透させるため、木々の下でしばらく休憩した。
―ドクッ…。―
身に流れる血を感じてみる。
「…バハムートの力ではない。グリセスか…。これ以上、ここにいても意味は無いな。」
―グググ…!!!バサァ…!!!―
「空を駆け、帰るとしようか。」
―グッ…!―
巨大な爪でグリセスの骸を掴み、皆を乗せ空を駆けていく。
ーーーーー
静かな草原の上を駆ける。
(ミア)「本当に静か…。」
(ハザキ)「変か?」
「そうじゃないとも言えるかな…?」
ミアは疑問を抱いているが、自信のある解答を出せるわけではない。
「空は静かになったんだ。グリセスのような絶対強者が空に現れ、他の生物は下へ行く。」
―バサァ…!―
翼を羽ばたかせ、ディポラティアは言う。
―ギュイン!!!―
突風が吹き、何かが突如、隣に現れた。
(狩人狩り:グレイン)「なら下だ。ディポラティア。」
―ドス!!!―
謎の獣の攻撃を喰らい、落下する。
「ッグ…!狩人狩りか…!!!」
―バサァ!!!―
体勢を整え、下へ落ちていく皆を拾い上げる。
―ドスン!!!―
グリセスは少し遠くに落下した。特異個体は死してなお頑丈であるため、無事だと信じよう。
「全員無事か!」
―バッ…!!!―
皆が背中から飛び降り、構えに入る。
それが応えだ。
―バサァ…!!!ドサッ…!―
竜人型の獣。
細身だが、筋力は確かなようだ。
(ドラゴ・バーン:グレイン)「どこかの誰かは、お前達を始末し損ねたそうだな。」
「…そうだな。どこかの誰かも、お前も。お前達は、肝心の初撃が決まらない。」
―ダッ…!ダッ…!―
草原を疾走する者がいる。
衣服を揺らし、変形して。
―グググ…!!!ビシャア…!!!―
(皆)「…!」
―シュウウウウ…!!!―
緑と紫が混ざった明らかな危険物質が、草地を溶かしている。
「遅いぞ。…それに、避けられてやがる。」
(ギドラ・ダラ:ダライン)「…全部、お前の代わりにやったんだ。」
三首の蛇竜。毒を吐く獣のようだ。
「何をやってきた?」
「教える気はない。」
「あとで分かるといいな。まぁ、ここで死ぬが。狩りに来たぞ!ディポラティア!!!」
ーーーーー
―グググ…!!!―
四獣を駆使し、二人の狩人を突破する気だ。
まずはトランズの攻撃を当てに行く。
―ザン…!!!―
(ダライン)「シャアアア…!!!当てられるか?ディポラティア。」
「ック…。距離をとっている…。」
―ギュイーン…!!!―
「そんな攻めて大丈夫か!俺もいるぞ…!!!」
毒を吐くダラインが一番危険だと感じ攻めたが、
そこをグレインが狙いにきている。
―グググ…!!!…ブオオオオオオ…!!!―
カメザメの背中で受けるが、高温だ。
何度も受けられる訳ではない。
(ダライン)「火に飛び行ったな。」
―グジュジュ…。ジュア…!!!―
後ろのグレインに集中しているディポラティア。
その隙を前から狙うダライン。
―パキパキ…!!!ジュウウウウ…!!!―
氷が溶けた時、ディポラティアはいなかった。
(ダライン)「氷の障壁…。移動したな。」
―バサァ…!!!―
グリセスへと変化し、空を移動した。
地へ降り、皆と位置を揃える。
(ハザキ)「奴ら、中々のコンビだな。」
(サン)「俺達の方が上だ。」
(ディポラティア)「ハァ…。」
「大丈夫ですか?」
「瞬間的に変化させすぎた…。だが大丈夫だ。」
「あいつら、俺らに勝とうとしているぞ。」
「現実を突きつけてやれ。」
―グッ…!!!―
羽を広げる狩人狩り達。
「...指示をする!火竜の方を頼む。絆を駆使し、戦わなければいけない相手だ…。」
(ルナ)「…時の集大成。」
―バン…!!!―
銃声のような音で詰めてくる二頭。
―バッ…!!!―
大きくは鳴らない足音だろうと、分かる者には聞こえるだろう。
どちらが強者であるか。
―バサァ…!!!―
翼を羽ばたかせ、そのまま突進するディポラティアとダライン。
―ギュイーン…!!!―
両者ぶつかる寸前で向きを上に変え、上昇する。
「ぶつかる気はなかったようだな。奴も小細工が得意だったぞ。」
「ッフ…。奴は小細工だけが上手い。だが…!」
―ギュイーン…!!!―
高度を下げ加速するダライン。向かってくる。
「(…グリセスは能力をもたないが、単純な飛行能力ならば圧倒的だ。…あの突進比べで理解した。…こいつがなぜ、”空を支配”していたか。)」
―グッ…!グジュジュ…!―
三首に力を入れ、伸ばす気でいる。
「巻き殺し、毒で殺す。…全てお前にくれてやる。」
「そうか?なら…。」
―ギュイーン…!!!バサァ!!!―
前進し続けるディポラティアを狙い、上から下へと加速してきた掴み締めれたはずだった。
だがグリセスは突如回転し、食い込ませた獲物を離さない、巨大な爪を見せている。
―グサァ…!!!グググ…!!!―
その回転に、一切の減速はない。
加速していた力で爪が深く入り込む。
「ッグ!!!…貴様!!!」
「来たのはお前だ。...教えてやる。力こそ全て。能力など、こいつには必要なかった。」
―ギュイーン…!!!―
真下に向かって加速していく。
覇天となったグリセスは、自身の肉体で天を制した。
加速を止めない動きこそ、空を制す力だ。
(グレイン)「人間が、獣の力なしで勝てるか!!!」
―ギン…!!!―
やはり体格差はある。
力の差も分かりきっている。
(サン)「兄さんの影響が大きいが、それでも俺達は獣を狩った。狩人ではないと、侮るなよ…。」
―ブオオオオオオ!!!―
火を纏うサン。
確実に身につけた力。
「纏う力は間近で見ていた。…参考にしたぞ!」
―ザン!ブオオオオオオ!!!―
槍に火を纏い、払う。
「少し驚いたが、大したことはないな!」
―フオオオ…!!!―
付近では、突風が吹いていた。
火は風に乗り、吹いていく。
―ボオオオオオオオ…!!!!!―
「追い風だ。身も視野も奪う、烈火。」
「ッグ…!!!」
腕を組み防御する。
「ッチ…!人間が火を放つだと…!なら獣に変化する意味がどこにある…!」
ーボオオオオオオオ…!!!ー
風はさらに強く吹いた。
「ッチ!ダラインの奴、ふざけてやがるのか!身が焼ける…。落ち着け、獣に出来ることがある。」
―グッ!バサァ…!!!―
翼を強く動かした。
それもまた風を生み、烈火を消した。
「一人…!」
火が晴れた時、見えたのはサンと、少し離れた岩陰に隠れているミア。
―ザンザン…!!!ドスン…!!!―
冷たく鋭い痛みが翼から伝わる。
「ッグ…!何だ今の幽霊は…!」
「幽霊は見えるんだね…!」
―グサ…!―
大鎌が脚を斬り裂いていく。
「ッチ…!」
―バサァ!―
少し上昇した。
「風を生み、火を吐く。そんなこと、俺一人で出来るんだよ!!!」
―バサァ…!ブオオオオオオ!!!!!―
サンより高温の火が烈風に乗り、地を焼かんと進む。
サンとルナ。
互いが近付き、逃げようともせずグレインを見続けている。
(サン)「獣は獲物と決めた対象を、集中的に見る習性がある。兄さんが教えてくれた。…あとは、頼んだぞ。」
―ガコン…!!!―
「はい。」
岩陰の草むらに隠れていた影が立ち上がる。
青い光がオメガから溢れている。
「水を飛ばせると言っていたが、本当に可能か?」
「えぇ。ハザキ、見ていてください。」
―ギュイーン!!!バシャアアアアアア!!!!!―
水と火はぶつかり合い…。
―ドオオオオオオオオ…!!!―
「ッグ!!!水だと…!」
大量の水を浴びたグレインは、思ったように飛べず落ちていく。
「高圧の水は刃にも成りえます。…お分かりいただけたでしょう?」
「そうだな。さて、あとは仕上げだ。」
―ダッダッ!!!―
地を走る者の姿。
(ブラックソード)「潜り抜け、斬る。」
―ザザザザ…!!!―
落下する寸前、素早く下を潜り抜けながら、獲物を斬った。
「ッグ…!動けない…。」
(サン)「罠にハマった、お前の負けだ。分かったろう。これが人だ。」
―フォォォ…!!!―
上空から強い風が吹いた。
「全員離れろ!!!」
―バッ!!!―
全員瞬間的にグレインから離れた。
―ドオン!!!―
二頭に強い衝撃が走った。
―スタッ…。―
土煙の中、ディポラティアが皆の元に出てきた。
「やったな。」
―タン…!―
ラティアとサンの拳が触れる。
土煙が晴れるまで、少し時間がかかった。
「倒れていますね。」
二頭の獣が、隣り合わせで倒れている。
「凍らせよう。」
ジフレットと化し氷結させる。
―ヒョオオオ…。パキ…。―
(ダライン&グレイン)「…!!!」
―バッ!!!―
体に氷風が触れた瞬間、二頭は飛び上がった。
(皆)「…!!!」
―バサァ…!!!―
二頭が巻き起こす突風が吹く。
その風は、ディポラティア達の動きを奪い、視野を奪った。
(グレイン)「人の良さを語ったな…。なら、最期まで諦めない…。それが獣だろう!!!」
(ダライン)「共に溶かすぞ!」
―ギュイーン…!!!グジュジュ…!!!ブォオオオ!!!―
毒と火が既に限界まで溜められている。
「ッチ!間に合うか…!?」
―グググ…!!!―
何に変化するか迷っている暇はなかった。
ジフレットのまま、氷壁を作るしかない。
―ドオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!―
轟音と眩い光が放たれる。
視野と聴覚を奪う、極大のブレス。
―ジュウ…!!!―
氷は瞬間的に溶けていく。
間に合わなかった。
―ジュウウウウ!!!―
(サン)「兄さん!!!」
「ッグ…!!!」
毒と火を代わりに受けきる。
「離れろ…。今すぐに…!!!」
全員はブレスの軌道からズレた。
「ッグ…!!!変化する余裕がない…。ここで…」
意識が突然離れた…。全身の力も抜け、地面が揺れる…。
(竜神:バハムート)「“我を支配するか...”。」
血から声が聞こえた。
―グググ…!!!―
豪炎の中、今までの比にならない“巨大な化け物”の影が見えた。
(ハザキ)「…!あれは何だ…!!!」
そして…。
―ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!―
相手の豪炎を、いとも容易く消し去った。
一瞬だが、その姿も極大のブレスも、確かに見えたのだ。
―バタ…!!!―
三人。
獣から人へとなった狩人狩りが倒れている。
一人、傷を負ったディポラティアが倒れている。
―バッ…!!!―
全員がラティアの元に駆け寄る。
「ハァ…!ハァ…!」
「兄さん!」
サンがディポラティアの肩を触る。
―ジュウウウ!!!―
「ッグ…!」
兄の体は、沸騰しているかのような温度をもっていた。
体が震え、全身の血管が浮き上がっている。
(ブラックソード)「バハムートの影響なのか…?」
―ダダダ…!!!―
少し遠くから、地鳴りがする。
その音は大きく聞こえてくる。
(ミア)「何か来るよ…!」
―バッ…!―
一瞬、その獣は動きを止めた。
グレインとダラインを腕に抱え…。
(狩人狩り:スレイン)「やぁ。また、会ったね。」
―ビュオン…!!!―
そして消えていった。
(サン)「逃がされたのか…?」
―ダッ…!ダッ…!―
少し遅れて、屈強な獣がやって来た。
ミランシェが寄越した狩人のようだ。
―シュウウウ…。―
変身を解き、こちらに来る。
(狩人)「君達…。ディポラティア…!!!大丈夫か!?」
若き狩人として、ディポラティアは有名だ。
初対面の相手に知られている程度には。
「あなたは?」
「狩人だ。色々あったが…。とりあえず都市へ行こう。危険な状態だ。」
名も知らぬ狩人により、スカイアワーへの帰路に着く。
グリセスは後ほど回収されるとして草原を疾走していく。
―ドクッ…!ドクッ…!―
ディポラティアの血液は、臨界を迎えていた。
その血は輝いている。
呪いは消えた。
―ドックン…!!!―
四獣を糧とし、王の力が現世へと顕現する…。
こんばんは、深緑です。
インフルエンザでした。
お気をつけください。




