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不当防衛  作者: 西季幽司
第一章「誘拐殺人事件」
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落としもの①

 事件は悲劇的な結末を迎えてしまったが、刑事たちの仕事は終わりではない。誘拐殺人となった事件の犯人を逮捕するために、刑事たちは動き出した。

 祐樹は下校途中に誘拐されたものと思われた。捜査員を大量に導入し、ローラー作戦で、小学校から自宅までの道筋を捜査した。だが、これと言った不審者や不審車両の目撃情報はなかった。

 当時、祓川も、このローラー作戦に参加したようだ。

「藤田さんちの坊ちゃんだったら、一人で歩いて帰っているところを見たよ」近所の主婦の証言から、祐樹ちゃんは自宅近くまで歩いて帰って来たことが分かった。

 事件当日、父親は仕事で不在、母親は外出しており、藤田家には祐樹一人しかいなかった。自宅から連れ去られた可能性が考えられた。

「藤田家の知人、親戚、そして祐樹ちゃんの両親まで、全てを疑いました。特にあの母親、子供に対する愛情が微塵も感じられませんでした。他に男でもいて、そいつと共謀して祐樹ちゃんを誘拐に見せかけて殺害したのではないかと、交友関係を洗ってみました。ですが、怪しい点は見つかりませんでした」敷島が残念そうに言う。

 服部に代わって祓川が尋ねる。「身代金の受け渡しに使用されたスーツケースや遺体から、犯人につながりそうな証拠は見つからなかったのか?」

「いくつか証拠は見つかりました。先ず遺体ですが、検死の結果、死因は絞殺だと分かりました。死亡推定時刻から、遺棄される二、三日に殺害されたことが分かっています。犯人は、金をせしめた途端、これで用なしと幼子を絞め殺したのです」

「・・・」祓川が黙っているので、「虫唾の走る野郎ですね」と服部が口を挟んだ。

「全く。遺体から犯人につながりそうな証拠は出ませんでした。ただ、遺体に付着していた糸くずから、犯人は遺体を白いシーツに包んで京浜運河に運んだことが分かりました。ホテルなどでベッドに使われているやつです。捜査範囲がぐっと広がってしまいました。品川に一体、どれほどのホテルがあることか・・・」

 ホテルのシーツが使用されたとなると、東京在住者に加え、ホテルの宿泊客が容疑の対象となる。品川はホテルの密集地区だ。

「スーツケースのほうはどうだ? 何か出たか?」

「製造番号から、都内、町田市辺りで販売されたものだと言うことまでは分かりました。何せ売れ筋のスーツケースです。扱っている店が多くて、市内のスーパーやら百貨店を虱潰しに当たりましたが、犯人を絞り込むところまでは行きませんでした」

「その辺も犯人の狙いだろう」

「祐樹ちゃん誘拐事件の後、ほどなくして夫婦は離婚、大祐氏は藤田姓からもとの北城姓へと戻っています」

 大祐に何の罪も無かったが、妻の真理は彼を許さなかった。祐樹を失った責任を全て大祐に押し付けて、藤田家から放り出した。大祐は一瞬にして、家族も仕事も住処も、全てを失ってしまった。

「結局、犯人を見つけることはできませんでした」そう言うと、敷島は足を止め、天を仰いだ。

「分かった。ありがとう」と祓川が礼を言うと、敷島は、「藤田さん、いや、北城さんの転落死が誘拐事件に結び付くかもしれません。祓川さん、頼みました。無念を晴らしてください」と熱のこもった口調で言った。

「やらなければならないことをやるだけだ」と祓川は素っ気ない。

「とにかく、よろしく頼みます」

「時間を取らせたな」

「失礼します」敷島は一礼すると、踵を返して歩き去った。

「敷島さんとは一課にいた時の知り合いですか?」と祓川に聞いてみた。

「うむ」としか答えない。

「所轄に移ってからの知り合いですか?」と更に聞くと、面倒だと思ったのだろう、「大学の後輩だ」と短く答えた。

「えっ⁉ 祓川さん。ラグビーをやっていたのですか?」と驚くと、気を悪くしたのか、それ以上、答えなかった。

 どちらかと言えば華奢に見える。ラガーマンだったとは思えない。大学の先輩だと言ってもラグビー関係者ではないのかもしれない。謎の多い人物だ。

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