対決③
敷島は血走った目で田川を睨み付けながら言った。「この鍵は、あんたが利用していた部屋の畳の間から出て来たものだ。どこの鍵だと思う? 藤田さんの家の鍵だったんだ。祐樹君が持っていたものだよ。それが、あの部屋の畳の間から出て来た。祐樹君が落としたものが、偶然、畳の間に入ったのかもしれない。だがな、ひょっとしたら、監禁されていたことを示す為に、祐樹君が自ら、畳の間に押し込んだのかもしれない。きっとそうだ。賢い子だ。我々に監禁場所を示す証拠を残してくれたんだよ。祐樹君はクソガキなんかじゃない!」敷島の怒号が取調室で飛んだ。
敷島は椅子から立ち上がると、机の上に両手をついて、田川に顔を寄せて睨み付けた。目が充血して鬼の形相だ。あまりの迫力に、田川は「ひっ!」と歯を食いしばった。
「何故、藤田家の家の鍵がアパートの空き部屋にあったんだ? 部屋の住人は勿論、過去にこのアパートに住んだことのある住人、全てを調べてみたが、藤田家と関係のある人物はいなかった。お前だけなんだよ。藤田家と関係があったのは! お前が藤田祐樹君を誘拐し、この部屋に監禁したんだ。だから、部屋に藤田家の鍵があった」
「ま、ま、ま、ま、待ってくれ。ちょっと待ってくれ。お、思いだした。鍵はあの子が落としたんだ。それを俺が拾って、ポケットに入れておいた。たまたま、あの部屋を見学した時に、鍵を落としたんだろう。きっとそうだ」竹村に追い詰められて、田川は墓穴を掘ったようだ。
「祐樹君に会った? お前は藤田祐樹君に会ったことがあるんだな!?」
「ああ、でもな、会ったと言っても、ちょっと話しただけだ。あの日、約束があったのに、ドタキャンされて、面会を断られた。でもな、ちょっとだけでも話を聞いてもらいたかった。それで、藤田さんの自宅を訪ねた。
そしたら、あの子が学校から家に戻って来たところだった。玄関の鍵を開けようとしていたよ。聞いたら、『家には誰もいない』と言う。それで、あきらめて帰った。帰ろうとしたら、玄関に鍵が落ちていた。後ろから声をかけたので、あの子、驚いて落としたんだろう。それで拾っておいた。そして、そのまま忘れてしまったんだ。うん、そうだ。思い出したよ」
「祐樹君が誘拐された日、お前は藤田家に行っていたんだな?」
「し、知らないよ。何時だったかなんて、覚えていない。あの子は家にいたんだから、誘拐されたのは、きっと、その後だ」
「藤田さんの自宅を知っていたんだな」
「あの頃は、今ほど、個人情報にうるさくなかったからな。同業者だ。急ぎの用事があると言うと、教えてくれる人間はいくらでもいたよ」
「鍵を拾って、何故、直ぐに返そうとしなかったんだ?」
「だから、そのまま忘れてしまったんだよ」
「家の前で拾ったんだろう。もう一度、祐樹君を呼び出して、渡せば良かっただろう」
「そりゃあ、刑事さん。後から考えると、いい解決策が浮かぶに決まっているよ。でも、あの時は、そんなに深く考えなかっただけだ。また、今度、藤田さんに会った時に渡せば良いって思ったんじゃないかな」
「じゃあ、何故、もう一度、藤田さんに会いに行かなかったんだ? 約束をすっぽかされて、自宅にまで押しかけたくせに、その後は何もしていない。金に困っていたんじゃないのか? もう金は必要なくなったのか? 何せ、たんまり身代金をせしめることに成功したからな。
坂本さんが言っていたぞ。金繰りに走り回っていたのに、誘拐事件の後、急に金が手に入ったと言って止めてしまったと――」
「違う、違う。あれは、たまたま高松に所有していた物件が売れて金が手に入っただけだ」
「ふん。お前は藤田家で祐樹君に会ったと言ったよな。とすれば、お前が祐樹君の最後の目撃者と言うことになるな」
「だから言っただろう。誘拐事件なんて俺は知らない。俺があの子に会ったのは、誘拐事件の前だったんだろうよ」
「いや、誘拐事件当日のはずだ。北城さん、いや当時は藤田さんだな。彼の秘書が誘拐事件当時の手帳を持っていた。個人的に使っていたもので、社長の予定が記録してあった。それに、お前の名前があったよ。確かに当日、面会の予約がキャンセルされていた。それで当時は事件とは関係無いと判断されたみたいだな」
敷島のもとに、当時、藤田不動産で社長秘書を勤めていた石橋から、当時、使っていた手帳があったと言う連絡があった。警察に証拠品として提出したものが、戻って来たので、そのまま捨てずに保管しておいたと言う。
手帳に誘拐事件当日、面談予定として田川の名前があった。
「・・・」田川の顔が青ざめる。
「さっきのお前の証言だと、面会を断られたので、家に押しかけたと言うことだったよな。となると、誘拐があったその日だと言うことになる」
「う、む・・・」まさにぐうの音も出ない。
「まだあるぞ。お前、当時、モルト社製のスーツケースを使っていたよな?」
「そんなこと、忘れたよ」
「お前が使っていたスーツケースの色は黒だったそうじゃないか?」
「おいおい。黒のモルト社製のスーツケースなんて、当時、どれだけ売れたと思っているんだ。身代金の受け渡しに使われたものと、同じスーツケースを使っていただけで犯人扱いか!?」
その言葉を聞いて、敷島が「よしっ!」と声を上げた。あまりの大声に田川が椅子から飛び上がった。
「何だ? 何だ?」
「俺が何時、モルト社製の黒のスーツケースが身代金の受け渡しに使われたと言った? 当時の警察の公式発表は単なるバッグだったんだよ! モルト社製の黒のスーツケースが身代金の受け渡しに使われたことは、我々、警察と犯人だけしか知らない丸秘事項だ。ははは~犯人が自分だと自白したようなもんだな!」
敷島は高らかに笑いながら、深々と椅子に腰を降ろした。




