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不当防衛  作者: 西季幽司
第三章「業火に焼かれて」
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対決②

 第一ラウンドは上田が優勢に見えた。

「嫌だなあ~刑事さん。言葉の綾ですよ。言い間違え」と田川は卑屈な笑顔を浮かべながら、誤魔化したが、江川信二の殺人が計画的であったことを認めたに等しかった。

 だが、北城大祐の転落事故については、田川が故意に殺害したことを示す決定的な証拠が足りなかった。予め、苦戦することが分かっていた。だが、鍵のお陰で、取り調べを有利に進めることができた。

 服部は、これも全て、祓川の功績のはずだと、思わずにはいられなかった。

 第二ラウンドだ。

「よし!」と気合を入れると、両手でぱんぱんと両頬を叩いた。藤田祐樹誘拐殺人事件の取調担当官として敷島が警視庁から派遣されて来ていた。

 敷島は、田川の取り調べに当たりたいと強く上層部に訴えたと聞く。事件が未解決に終わったことが、いかに無念だったか、伺い知ることができる。敷島はその無念を、いや、当時、藤田祐樹ちゃん誘拐殺人事件に携わった全ての刑事たちの無念を背負って、取り調べに臨むのだ。

 敷島が取調室のドアに手をかけた。

「おやっ?選手交替かい?」部屋に入ってきた敷島を見て、田川がふてぶてしく呟いた。

 椅子に浅く腰掛け、足を長々と伸ばして座っている。

「ええ、田川さん。選手交替です。我々は交替で休めますが、あなたは一人ですので、休めませんよ。今日は十年前のことについて、幾つかお伺いしたいことがあります」

「十年前? 随分、古い話だね~悪いが覚えちゃいないよ」

「大事なことです。是非、思い出していただきたい。十年前、藤田祐樹ちゃんが誘拐された時、あなたは都内にいらっしゃいましたよね?」

「さっきの刑事さんも、そんなことを言っていたが、俺は関係ないよ。覚えていない。こういうのを、別件捜査って言うんじゃないのか?」

「あなたの逮捕容疑に、藤田祐樹ちゃん誘拐殺人事件が含まれています。令状をちゃんとご覧になりませんでしたか? さて、田川さん。覚えていないのなら、こちらからお教えしましょう。あなたは事件当時、品川リバーシティ・ホテルの朝食付きのスイートに宿泊されていました」

「さっきの刑事さんもそんなことを言っていたけど、覚えていないんだよね」

「大丈夫です。あなたが覚えていなくても、ホテルの記録にちゃんと残っていますから。藤田祐樹ちゃんの遺体から見つかった繊維片から、白いシーツにくるまれて運ばれ、京浜運河に捨てられたことが分かっています。その白いシーツですが、品川リバーシティ・ホテルで使用されていたものと同じものでした」

「あの時、品川リバーシティ・ホテルに宿泊していた人間は何百人といたはずでしょう? シーツが一致したからと言って、私が犯人だと言うんじゃないでしょうね」

「当時、あなたはホテルの近くのレンタカー屋で車を借りていますね。黒のセダンです。覚えていなくても大丈夫ですよ。ちゃんと、記録に残っていますから」

「嫌だなあ~刑事さん。だったら聞かなくても良いじゃないですか」

「車でどちらに行かれたのですか?」

「何処ってあちこちだよ。悪いね、覚えてないなあ? 大体、刑事さん、十年前に何処行ったかなんて、いちいち覚えていますか? わたしゃあ、記憶力は悪い方じゃないが、そこまで細かくは覚えていませんよ」田川がキレ気味に答える。

「坂本さんからお聞きしたのですがね。坂本さん、ご存知ですよね? タガワ・コポレーションの東京事務所の所長を勤められていた方です。当時、アパートを一棟まるごと、管理を任されたそうです。そのことをあなたに伝えたら、『是非、そのアパートを見たい』と言う。そこで坂本が案内しようとしたら、あなたは『一人で見に行ってくるから、鍵を貸してくれ』と空き部屋の鍵を借りたそうですね?」

「くどいなあ、刑事さん。そんな些細なこと、いちいち、覚えていませんよ!」

 それには答えず、敷島は黙って一枚の写真を机の上に置いた。アパートの前で母親らしき女性と子供が映っている写真だ。「何だよ!?」と言いながら、写真を覗きこんだ田川の顔が見る見る曇って行く。

「どうやらお分かりのようですね。ほら、ここ、親子の後ろに映っている、この車。これがあの時、あなたが借りていた車です。このアパートの前に停まっていたと言うことは、あなた一人でアパートに行ったと言うことですね?」

「さあ、そう言えば行ったかもしれないな?」田川が探るような目で見た。次に、敷島がどんな手を打ってくるのか分からず、身構えているのだ。

 敷島はゆっくりと息を吸うと、「あなた、誘拐した祐樹君をこのアパートの空き部屋に監禁していましたね? ひょっとしたら、祐樹君を殺害したのは、この部屋だったかもしれない。あなたは、身代金を奪取することに成功した。そして祐樹君は用済みとなった。祐樹君に顔を見られていたので、生かしておく訳には行かなかった。足手まといとなった祐樹君を、あなたは部屋で絞め殺したのだ!」と鬼の形相で、一気にまくし立てた。

「ば、馬鹿な! お、俺はあの子を殺してなんていない」

「あの子? やっぱり祐樹君と面識があったのだな!」

「こ、言葉の綾だ。知らん! あんなクソガキ、会ったことなんか無い!」

「これを見ろ!」敷島はバンと掌を机の上に叩き付けた。掌をゆっくりと上げると、そこには鍵があった。

 また鍵だ。「・・・」田川は訳が分からず、きょとんとしている。

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