刑事の執念③
「ああ、そうだったかな。そう言えば、そんな風に言われたような気がします」
「坂本さんの話によれば、あなたは昔、資金繰りに困って、北城さんから融資を受けたことがあったそうですね。坂本さんは良い恩返しの機会だと思い、北城さんにあなたを紹介したそうです。ああ、そうだ。当時、北城さんは藤田不動産の社長を勤められており、藤田と言う姓でした」
「藤田不動産の藤田さんですか! ああ~そうだったのですか? 知らなかったなあ。藤田さんなら、無論、知っています。と言っても、直接、お会いしたことはありませんけどね。それに、藤田さんから融資を受けたことはありませんよ」
「そうなのですか?」
「そうです。ああ、あの北城さんが藤田さんだったのですね。姓が変わっているので、まるで分かりませんでした」どうにも白々しく聞える。
「北城さんは婿養子だったそうです。奥さんと離婚後、旧姓の北城に戻りました。北城さんが離婚された原因、ご存知ですよね?」
「離婚の原因ですか? 私が知っている訳ないじゃないですか!?」
「他人の離婚の真相なんて、傍目には分からないものです。ですが、北城さん一家を襲った悲劇については、当然、ご存知でしょう。一人息子の藤田祐樹君が何者かに誘拐され、殺害されました。誘拐犯はまんまと身代金、一億円を奪い、逃走しています」
「そんな事件、ありましたっけ? すいません、そう言ったことに疎いもので、覚えていませんねえ・・・へえ、藤田さんちで、そんなことがあったのですかぁ~それはお気の毒です。しかし、警察は何をやっているのですか!? 人質を殺され、身代金を奪われ、しかも犯人は捕まっていないのでしょう? 私なんぞを締め上げる暇があったら、誘拐事件の捜査に力を入れてはどうです?」田川がちらと挑戦的な目で上田を見た。
「藤田さんのご子息が誘拐された当時、東京にいらっしゃいましたよね?」
「私がですか!? さあ、覚えていませんねぇ~」
「坂本さんのお話によれば、当時、あなたは資金繰りに困り、こちらに来て、金を貸してくれる相手を探していた。藤田さんを訪ねたのも、そのためだ。当時、あなたは品川リバーシティ・ホテルを定宿にしていた。品川リバーシティ・ホテルくらいになると、創業以来、全ての宿泊記録を保存してあるのですよ。品川リバーシティ・ホテルの宿泊記録を調べましたよ。そしたら、ありましたよ。あなたが宿泊していたと言う記録が」
「へえ~記録があったのなら、東京に居たのでしょうね? 覚えていませんけど。あのね、お忙しいとかで、藤田さんとは結局、お会いできなかったのです。だから、融資の話もできなかった。東京に居たからと言って、事件に関係があるなんて、無茶苦茶なこと言わないでしょうね。あの時、何十万という人が地方から東京に来ていたでしょうからね。私も、その一人に過ぎません」
「まあ、その話はおいおい聞かせて頂きます」誘拐事件については、深追いするなと野上に言われていた。警視庁から刑事が尋問に来ることになっていた。
上田は北城の転落死に話を戻した。「北城さんとは初対面だったとおっしゃいましたね?」
「ああ、刑事さんもくどいなぁ。あの日、初めて会ったんだ」
「そうですか? では、何故、北城さんのお住まいをご存知だったのですか?」
田川は「えっ!?」と言う顔をした。この質問は予期していなかったのだろう。動揺を隠そうと、「北城さんの住まい? し、知りませんよ」と慌てて否定した。
「あなた、テレビの報道番組に出演なさいましたよね。お陰でね、あなたの顔が世の中に知れ渡ってしまった。北城さんが住んでいた家の周りで聞き込みをすると、あなたを見たという目撃証言が出てきたのです」
上田の言葉に、田川ははっきり聞える大きさで、「ちっ!」と舌打ちをした。精神構造がどこか人と異なるのかもしれない。
「さあ、知りませんね。世の中には、自分に似た人間が三人はいると言うでしょう。きっと人違いですよ。私は北城さんのアパートになんか、行ったことはありません」
「おっ! 田川さん、変ですねえ~私は北城さんが住んでいた家と言っただけで、アパートだなんて一言も言っていませんよ。やっぱり、あなたは北城さんの家をご存知だったようですね」
「う、む、くくっ・・・・」墓穴を掘った。上田の罠に引っかかったしまった。
田川はうめき声を上げて黙り込んだ。
「さて、田川さん。あなたは何故、北城さんのアパートに行ったのですか? あの日、北城さんと会ったのは初めてではなかった。本当はその前に、北城さんと会っていたのではありませんか? 北城さんと会って、あなた、不安になって、色々、探って見た。違いますか? あなたが北城さんの部屋から出てきたところを見たという証言があるのですよ」
「け、刑事さん。そう言うのを誘導尋問って言うんじゃありませんか? 困るなあ~決め付けてもらっては」
上田は一枚の紙を机の上に置いた。「田川さん、これは北城さんが日頃、使っていたタブレット端末に保存されていたスケジュール表を印刷したものです」
事件の日の夜と、その五日前の午前中に「田川さん」と書かれてあった。「ほら、よくご覧下さい。事件の日と、ほら、ここにも、あなたの名前が書かれてあります。北城さんと会ったのは、あの日が初めてではなかったのではないですか?」
「知らん! 田川なんて、珍しい名前じゃない。他に田川という名の知り合いがいるんじゃないか? 刑事さん、ちゃんと調べたのか?」
「田川さん、お宅の近所にファミリーレストランがありますよね?」田川の表情が一瞬で曇る。
上田はそれを見逃さなかった。「初対面の人間を部屋に上げるのは、危険ですよね。実際、あなたは殺されかけた。特に、あなたのように、たくさん資産をお持ちの方は気をつけなければならない」
田川は渋い表情をして黙り込んだままだった。




