刑事の執念②
香川県警より真鍋という刑事が派遣されて来た。
江川信二の事件について、新たに捜査した情報を持ち寄ってくれたのだ。警視庁の上層部は、ここで一気に片をつけるつもりだった。
江川信二の殺人事件、藤田祐樹ちゃん誘拐殺人事件、そして北城大祐の殺害の三件について、田川から自供を引き出せ――と係長の野上のもとに厳命が降りて来ていた。
「証拠はある。だか、どれも決定的な証拠ではない。言い逃れをしようと思えば、いくらでも出来る。だから、あいつから自供を引き出さなければならない」と祓川が言っていた。
真鍋刑事と情報交換を行った。主に、祓川と真鍋が持ち寄った情報を交換する形になった。
香川県警刑事部捜査一課の真鍋明人刑事は長身でスタイルが良い、しかも、剣道の有段者でそうで、骨太でがっしりとした体格をしている。若干、色黒だが、日本人離れした彫りの深い顔立ちをしている。頭髪には軽くウェーブがかかっており、ギリシア彫刻のような風貌だ。まるで刑事ドラマから抜け出して来たような外見で、服部は見惚れてしまった。
江川信二の殺人事件は、十七年も前の事件だ。十年前の藤田祐樹ちゃん誘拐殺人事件でさえ、証拠が無くて苦労させられた。十七年前の事件となると相当、苦労したことだろう。だが、真鍋は関係者を掘り起こして話を聞き、調べ上げていた。
田川を追い詰めるネタは揃ったと言えた。
いよいよ田川敦也との対決の時が迫っていた。
当然、祓川が事情聴取に臨むものと思っていたが、「人には向き、不向きがある」と言うことで、事情聴取から外れてしまった。係長の野上も祓川に事情聴取を任せたくない様子だった。事情聴取は「ハルク、お前がやれ」と野上から指名を受けて、上田と今村が担当することになった。
事情聴取を上田と今村に譲った代償ではないだろうが、「しっかり見ておけ」と服部はマジックミラー越しに事情聴取を見学できることになった。釈然としないものを感じつつも、田川からの事情聴取に参加できることは嬉しかった。
狭い取調室には、上田と容疑者である田川、記録官である今村の三人しかいない。だが、マジック・ミラー越しに野上に服部が目を皿のようにして部屋の様子を伺っていた。
「ハルク、あくまで、うちが担当しているのは北城大祐の転落死だ。誘拐事件はうちのヤマじゃないし、高松の事件は真鍋刑事が担当する。お前はうちのヤマだけ、気にしていれば良い」と野上は上田に言ったが、三つの事件は密接に絡み合っている。
ベテランの上田でも緊張を隠せない様子だった。
そんな上田を前に、田川はだらしなく足を伸ばして椅子に腰をかけ、「刑事さん。そろそろ始めましょうか」と余裕綽々の様子だった。
「先ずはお名前から確認させて下さい」
「田川敦也だよ」
「住所は――」上田は記録の為に、田川の年齢や現住所を確認した。
「うん、そうだ」田川が横柄に頷いた。
「ありがとうございます。では次に、北城大祐さんの転落死に関して、あなたが証言された内容を確認させてもらいます」
上田は供述調書の内容を読み上げる。融資の相談に田川宅を訪れた北城は、田川に融資を断られたことより逆上、部屋にあった包丁を持って、田川を追い回した。身の危険を感じた田川はベランダに逃れた。それを追ってきた北城ともみ合いとなり、北城が転落、死亡した。
「以上の内容で間違いありませんか?」
「うん、そうだ。刑事さん、何だかまだるっこしいね」
「ところで田川さん、北城さんが転落死したのは午前零時過ぎでした。随分、遅い時間に尋ねて来たのですね」
「ああ、そう言えばそうだね。まあ、あちらさんは、日中、仕事があって忙しかったみたいだし、こちとら昼夜が逆転しているような生活ですから、時間の感覚なんてありませんよ」
「なるほど。それで、融資の誘いを断ったら、いきなり腹を立てて襲って来たと言うことですが、そこがよく分からないのです。北城さんにしてみたら、融資をお願いに行った訳ですから、断られることは覚悟の上だったはずです。田川さん、何か融資を断れない事情でもあったのですか? 北城さんとしては、当然、融資の話に乗ってくれると思っていた。それなのに断られてしまった。だから、かっとなった。違いますか?」
「刑事さん、あんた優秀だねえ~よく考えるもんだ。さあ、あちらさんがどういう風に思っていたかなんて、私には分かりませんね。ただ、『この内容じゃあ、金はお貸しできません』と言ったら、急に怒り出したんですよ。それだけです。本当ですよ」
田川の厭味にも聞える褒め言葉を無視して、上田の尋問が続く。「田川さん、あなた北城さんとはあの日、初めて会ったとおっしゃっていましたよね。本当ですか? 以前に北城さんと会ったことがあるのではありませんか?」
「いいえ、ありません。あの日が初めてですよ?」田川はきっぱりと答えた。
「変ですねえ・・・坂本冬彦さん、ご存知ですよね? あなたがタガワ・コーポレーションという不動産会社を経営されていた頃、その関東事務所の所長を任していた方です。今は坂本不動産と言う会社を経営しています」
田川は「坂本?」と不安そうな表情を浮かべた。「ああ、坂本君。知っていますよ。うちでの経験を生かして、不動産会社を立ち上げたことは、人伝に聞きました」
「北城さんにあなたを紹介したのが坂本さんですよね?」




