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不当防衛  作者: 西季幽司
第三章「業火に焼かれて」
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殺意の証明④

「田川の、あいつの立場になって考えてみました。やつは品川のレンタカー屋で車を借り、乗り回していました。都内を自由に動いて回ることができる足があった。更に、子供一人くらいなら隠しておける場所もあったことになります。

 祐樹ちゃんの死亡推定時刻から、誘拐されて殺害されるまで、三日の猶予があったことが分かっています」

 誘拐から三日後、身代金受け渡し当日に、北城大祐は息子、祐樹と会話を交わしている。その時点で、祐樹が生きていたことは間違いない。誘拐犯はうまうまと身代金をせしめた後、祐樹を殺害したのだ。死因は絞殺。恐らく誘拐する際に顔を見られたからだろう。人質を生かして親元に返す訳には行かなかった。

「祐樹ちゃんを誘拐してから、やつはどうしていたのでしょう? 相手は子供です。騒がれると面倒です。猿轡をして車のトランクに放り込んでおいたのかもしれない? その可能性がありますが、証拠を探そうにも、当時、田川がレンタルした車は既に廃車になっていて、もうありません。ですが、果たしてそうだでしょうか? 街中で駐車している時に、トランクの中で祐樹ちゃんに騒がれると致命傷になりかねません。どこか人が来ない場所に、監禁しておいた方が無難です」

「当時、田川はホテルに宿泊していた。祐樹ちゃんをホテルに連れ帰ることも考えただろうが、監禁することは困難だ。どこかに隠れ家があったのだろう」

「それです。それで、祓川さんに教えて頂いた話を思い出しました。坂本という男から聞いたという、田川がアパートの鍵を借りっぱなしにしていたという話です。時期的に誘拐事件と符号しています。そのアパートを隠れ家として利用した可能性が高いと思いました」

「そのアパートを特定したのだろう?」

「調べました。坂本という男にも会いました。世田谷区にあって、品川のホテルからも藤田家からも、車でなら移動は簡単な場所にありました。一階の角部屋の鍵を田川に貸したようです。

 田川が不動産会社を畳んだ時に、坂本はアパートの管理業務を知り合いの不動産会社に譲ったと言うので、その不動産会社と連絡を取ってみました。そして、一階の角部屋の住人に頼んで、部屋を見せてもらいました。

 そもそもアパートは住人が変わる度に専門業者にクリーニングを依頼していると言うことで、何せ、十年前の事件です。田川がアパートを隠れ家として使用したとしても、住人が何度も変わっているでしょうから、証拠など見つかる見込みなど皆無でした。それに、二年前に老朽化からアパートは大改装をやったそうで、アパートの捜索は空振りでした」

「そうか・・残念だな」

「それで、不動産屋から当時の住人の記録を手に入れて、当時、アパートに住んでいた住人を当たってみました」

「えっ⁉」これには驚いて、声が出てしまった。

 十年前にアパートに住んでいた住人を探し出して、話を聞いてきたと言うのだ。どれだけ大変だったことだろう。敷島がやつれて見えたのが頷けた。

「それは大変だったな」と祓川が言うと、敷島は「いえ」とだけ短く返事をして、話を続けた。「十年も昔の話です。地方に引っ越して行った人や、亡くなった方がいて、全員に話を聞くことは出来ませんでした。とにかく、田川の顔写真を持って、虱潰しに当たってみました。すると、さいたま市に住んでいる畑さんと言う方にたどり着きました」

 何か見つけたようだ。服部は敷島の話に身を乗り出した。

「事件の後、例の角部屋に住んでいた人です。残念ながら事件後に、アパートに住んでいたご夫婦は亡くなられていましたが、息子さんと会うことができました。お父さん、写真を撮るのが趣味だったようで、息子さんがお父さんの撮った写真を保存していて、それを見せてくれました」

 敷島は「これ、畑さんからお借りして来ました」と言って、上着の内ポケットから一枚の写真を取り出して、テーブルの上においた。

「拝見する」祓川は写真を手に取った。

 服部が横から写真を覗き込む。

 年配の婦人と子供がアパートの前で記念撮影をしている写真だった。背景のアパートは改装前のアパートのようだ。高島がわざわざ借り受けてきた以上、事件に関連する何かが、この写真に写っているはずだ。

「写真の日付は・・・」古い写真だ。片隅に撮影日がプリントされてある。その日付は十年前の四月七日となっていた。誘拐事件の翌日だ。

「ええ、祓川さん。週末に引越しをして、荷物の整理が終わったので、引越しの思い出にと、アパートの前で父親が撮影したものだそうです」

「うん」と早速、祓川が何かに気がついたようだ。

 服部が祓川の手元に覆いかぶさるようにして写真を覗き込んだ。

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