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不当防衛  作者: 西季幽司
第三章「業火に焼かれて」
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殺意の証明③

 指紋が出た。

 キーホルダーから田川の指紋が出たのだ。キーホルダーは小学生のサッカー大会に参加した記念品のようで、恐らく祐樹ちゃんがサッカー大会に出た時の記念品だったのだろう。だから、大祐は鍵を無くしたと分かった時、「鍵は良いけど、キーホルダーが惜しい」という話を佐藤にしたのだ。

 田川は計画的に北城大祐を殺害した――という計画殺人の証拠がひとつ出て来た訳だが、状況証拠ばかりだ。特に、藤田祐樹ちゃん誘拐殺人事件に田川が関与していたことを示す証拠は何も見つかっていなかった。

 今日も証拠を追い求め、祓川と服部は品川を歩き回っていた。

 坂本の話にあったレンタカー屋を探す為だ。田川は品川にあるリバーシティ・ホテルを定宿にし、ホテルの近所にあるレンタカー屋から車を借りて乗り回していた。十年前の話だが、探してみることにした。

 リバーシティ・ホテルの周辺にあるレンタカー屋は二軒、その内、ホテルに近い方のレンタカー屋から当たってみた。

「うちはここで十年以上、営業しています」と応対に出て来た小太りで、今時、珍しい度の強い眼鏡をかけたマネージャーが言った。

 期待が持てそうだった。

「こちらへ」と奥の事務室に通され、客でもないのに茶を振舞われた。

「十年前の四月のレンタル記録が残っていますか?」と聞くと、「はい。当時は紙ベースで管理していましたが、ちゃんと残っています」とマネージャーが自慢そうに答えた。そして、「先日も刑事さんが調べに来たばかりです」と意外なことを言った。

「刑事? どこの刑事が尋ねて来たのですか?」

「警視庁の刑事さんですよ。名前は、確か・・・敷島さんとおっしゃいました」

「敷島が・・・」

 敷島さんが先回りしていた。

「では、話が早い。彼に見せたのを同じものを、私たちにも見せてもらえますか?」

「はい」とマネージャーがキャビネットから一冊のファイルを取り出して来た。「これが一年分のレンタル記録です」とテーブルに置いた。ドンと音がしそうな分厚さだった。

 時系列順に伝票が整理され、ファイルされている為、お目当ての書類が直ぐに見つかった。

「これですね」記録によると、十年前の三月二十六日から四月十日まで、田川敦也が黒のセダンを借りていた。東京に着いた翌日に車を借りて、滞在中、ずっと借りっぱなしになっていたことになる。

 坂本の証言通りだ。祐樹ちゃんを誘拐する為の足があったことになる。

 マネージャーに礼を言って、レンタカー屋を後にした。

「敷島さんが来ていましたね」と祓川に聞くと、「うむ」と答えた。

 どうやら祓川は敷島に逐一、捜査状況を教えていたようだ。事件が未解決のままになっているのだ。同じ刑事として、敷島の無念は痛いほど、よく分かる。祓川だって、同じ気持ちなのだ。だから、敷島に捜査情報を流していた。

 祓川が胸ポケットから携帯電話を取り出したタイミングで、携帯電話が鳴った。

 画面を見た祓川が「敷島だ・・・」と呟いた。凄い偶然だ。優秀な刑事同士、以心伝心、通じ合えるものがあるのかもしれない。

 電話に出た祓川は「うむ」、「分かった」としか言わない。電話を終えた祓川は何時も通り、車両に乗り込むと無言でハンドルを握った。

 何処に行くか、聞いても仕方がない。祓川と一緒にいれば、事件の真相に近づくことができる。ただ黙ってついて行けば良いのだ。

 今度の待ち合わせ場所は喫茶店だった。

 人通りの多い東京駅地下街の喫茶店を指定されたようだった。警視庁から東京駅は目と鼻の先だ。指定してきた喫茶店に着くと、敷島は既にコーヒーを飲みながら待っていた。

 もともと色黒だが、更に黒くなっているように見えた。しかも、頬がげっそりとこけて、やつれているように見えた。

「祓川さん。わざわざご足労頂いて、すいません」

 敷島が立ち上がって二人を出迎えた。

 祓川は「結果を聞かせてくれ」と、挨拶も無しに席に着くと、話を促した。

「いらっしゃいませ」とウエイトレスが注文を取りに来たので、一旦、話を中断し、コーヒーを注文してから、話を再開した。

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