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不当防衛  作者: 西季幽司
第二章「二度あること」
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鄭成功④

「あなた、田川が藤田祐樹ちゃん誘拐殺人事件に関与していたことを知っていたのですか⁉」祓川が一喝する。坂本は共犯なのだろうか。

「け、刑事さん。誤解ですよ。そんなこと、知る訳ないじゃないですか。ただ・・・」

「ただ、何です?」

「北城さんから十年前の四月に田川が何処にいたのか知らないかと聞かれた時、ふとその誘拐事件のことが頭を過りました。あの頃、社長は良くないところから金を借りて、借金で首が回らなくなっていました。何時、セメント詰めにされて、東京湾に沈められても不思議ではない状況でした。それが、ある日突然、借金を返済して、しかも投資家に転身する資金まで持っていた。当然、変だと思うじゃありませんか?」

「だったら何故、直ぐに警察に届けなかったのですか?」

「あの時は、そんな大それた事件に関与しているなんて思いもしませんでしたから。誰かを騙して金を巻き上げた――そんな程度のことかなと思いました」

「それも犯罪です」

「分かっています。でも、確たる証拠があった訳ではありませんからね。単なる、僕の想像です。そんなことで、いちいち、警察に行ったりしませんよね」

「それはまあ、そうです」

「北城さんって、藤田の若社長だった人ですよ。息子さんがさらわれて殺された。息子さんがいなくなってから、藤田家からゴミのように捨てられた。業界じゃあ、みんな知っているし、同情もしています。北城さんから田川のことを聞かれて、初めて、ひょっとして誘拐事件に関与していたんじゃないかと思いました。今、考えると確かに疑わしい点がいくつかありました」

「それで、永井さんのことを教えた」

「私にもね、息子と娘がいますからね。北城さんの悔しさは、理解できる。我が子が殺されたら、私だって、犯人を探し求めるかもしれない。真実が知りたい。だから、永井さんのことを教えたのですよ」

「先ほど、疑わしい点があったとおっしゃいましたが、具体的にどんなことですか?」

「ああ、それ」と坂本は言うと、「だから、当時、よくない筋から金を借りて、その筋の人間らしき男がまとわりついていたのに、ある日を境にぱったりといなくなりました。どうやって金を返したのか不思議でしたね。後は、何だったかなあ・・・」と考え込んだ。

「いくつかとおっしゃいましたよね?」

「北城さんと会った後に、あれこれ考えていて、いくつか思いついたんですけどね。ああ、そうだ。あの頃だったと思うのですが、親戚の子供の面倒を見ることになったからと言って、子供の玩具を買って来てくれと頼まれました」

「子供の玩具」

「変でしょう。親戚に子供がいるなんて聞いたこと無かったし、子供の面倒を見るような人じゃあ、ありませんからね」

「他にもありましたか?」と聞いても、「後は・・・何だったかなあ~ど忘れしてしまって・・・」と坂本が言うので、「では、私から聞きましょう」と言って祓川が質問を始めた。

「当時、車はどうしていたのですか? 田川さんは移動の時、事務所の車を使っていたのですか? それともタクシー?」

「事務所に社有車がありましたけど、中古のボロ車でして。見栄っ張りの田川は都内に滞在する時、何時もホテルの近くにあるレンタカー屋で黒塗りの高級車を借りていました」

「どちらにお泊りで?」

「あの当時、田川は東京に出張に来ると、何時も品川にあるリバーシティ・ホテルに泊まっていました。あそこの朝のビュッフェがお気に入りでね。しかも、スイート。『品川リバーシティ・ホテルの朝食付きのスイートにしてくれ』と言うのが、田川が都内に宿泊する時の常套句でしたね。もう、耳にたこができるくらい聞きました」

 品川リバーシティ・ホテルと言えば老舗で大手のホテルだ。宿泊者名簿の保存期間は三年以上と定められているが、大手のホテルなら十年前の宿泊者名簿が残っているかもしれない。

「ホテル以外、どこかに泊ったりしていませんか?」

「いいえ。不動産屋ですから、いくつか空き物件がありましたけど、そういうのは見向きもしませんでした。不動産屋なのに興味が無いようで、商売熱心ではありませんでしたね」

「空き物件に興味を示したことはありませんでしたか?」

「そう言えば、一度だけありました。田川にアパートの鍵を貸したことがあります」

「アパートの鍵を貸した?」

「アパート一棟まるごと、管理を任されたことがあって、そのことを田川に報告したら、最初は『ふうん』なんて、興味が無かったのに、急に、そのアパートを見たいと言い出したのです。しかも、夜、電話をかけて来て。直ぐに見たいので、『案内しましょうか』と聞いたら、『いい。忙しいだろうから、俺、一人で行って見てくる。鍵は事務所だろう。どの鍵か教えてくれ』と言うので、鍵の保管場所を教えました。翌日、出社したら、鍵が無くなっていました。

 二、三日経って、部屋を見たかと尋ねたら、『まだだ』と言います。『今、ちょっと忙しいから時間ができたら見に行く』と言うような会話が何度かあって、そのまま忘れてしまいました。結局、田川は鍵を持ったまま高松に帰ってしまい、後で送り返してもらうように頼みましたが、それも忘れてしまったようで、結局、スペアキーを作り直す羽目になりました」

「ほう~」と祓川は興味を持った様子だった。

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