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不当防衛  作者: 西季幽司
第二章「二度あること」
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鄭成功①

 祓川と服部は北城エステートに来ていた。

 何故、北城に永井を紹介したのか、坂本から再度、事情聴取を行う必要があったが、祓川が「約束がある」と言い、北城エステートにやって来た。

「奥寺がいる」と祓川が言う。前回、話を聞くことができなかった奥寺が会社に戻っているようだ。奥寺と連絡を取っていたのだ。

 服部の見ていないところで、どれだけ仕事をしているのだろうか。

 前回、押収したパソコンを科捜研で調べてもらったが、生憎、田川との関係を示すようなものは残っていなかった。田川へ融資を募るために作成したのであろう資料だけが残されていた。

 北城はスケジュールをタブレット端末で管理していた。何かあるとすればそちらだ。

 北城と田川は事件前から面識があった。北城は田川が誘拐事件に関与していたものと疑っていたのではないだろうか。事件前に北城が田川と会っていたことを証明できれば、田川を追い詰めることができる。

 千葉市内の住宅街に、民家に埋もれるようにして、北城エステートがある。従業員は社長の北城の他に、事務員の佐藤と接客を担当する奥寺の二名がいる。

 北城エステートを尋ねると、奥寺がオフィスにいた。前回、尋ねた時、奥寺は北城の急死を受け、社長に代わって飛び回っていると言うことで会えなかった。

 二人が事務所に入って来たのを見て、「いらっしゃませ~!」と奥の席でパソコンを睨みつけていた奥寺が立ち上がった。

「奥寺さんですか? 北城社長に関して、お話をお伺いしたいのですが」と祓川が警察バッジをかざして見せながら言った。

「ああ、刑事さんですか・・・こちらへどうぞ」

 奥寺が接客スペースに二人を案内する。早速、祓川が質問を始めた。「社長さんが融資を頼みに行った田川敦也氏、ご存知ですよね?」

「いえ。社長のプロジェクトのことは、詳しくありませんでした。空き家をリフォームして貸し出すことを計画していたことを聞かされていたくらいです。社長が何故、田川さんに会いに行ったのか、全く知りません」

「何も聞かされていなかったのですか?」

「はい」田川のことはまるで知らない様子だ。

「事件の前、社長さんの様子で変わったところはありませんでしたか?」

「変わったところですか?いやあ、どうですかねぇ・・・社長は何時も忙しそうにしていましたから。特に気がつきませんでした」

 勘の良いタイプではないようだ。

「ところで、社長さんが使っていたタブレット端末が見つかっていないのですが、ご存知ありませんか?」

「えっ!」と明らかに動揺した。「あの・・・社長のタブレットは・・・ええっと、その・・・」分かり易く奥寺が狼狽する。

「北城さんのタブレット端末の行方をご存知なのですね?」

「はい、まあ」と渋々といった奥寺が認めた。

「どこにあるのですか?」

「社長のタブレットは私が持っています」

「あなたが保管しているのですか?」

「保管」と言われたことで、ほっとしたようで、「ええ、はい、そうです。私が保管しています。社長から預かったのです。決して盗んだ訳ではありません。

 いえね、刑事さんたちがタブレット端末を探していると聞いて、早くそのことを伝えなければと思っていたのですが、社長のタブレット端末の中には重要な顧客情報や会社の財務状況、銀行口座の暗証番号だとか、とにかく会社にとって大事な情報がテンコ盛りなのです。

 社長が急にいなくなって、その辺のこと、引継ぎがあった訳ではありませんでしたから、タブレット端末を手放せませんでした。捜査でタブレット端末を取り上げられてしまうと、それこそ、私どもは干上がってしまいます。生きて行かなければなりませんからね。連絡が遅れ、本当に申し訳ありませんでした」と奥寺が早口でまくし立てて、頭を下げた。

「よく分かりました。それで、どういった経緯で、社長さんからタブレット端末を預かったのですか?」

「それが――」奥寺が言うのは、タブレット端末を預かったのは、事件当日だったと言う。田川邸に出かける前に、奥寺は北城に社長室に呼ばれ、タブレット端末を手渡された。そして、タブレット端末を開くための暗証番号まで教えられた。

 奥寺が「社長、こんな大事なもの、僕に預けて良いのですか? 一体、どうしたのです?」と尋ねると、北城は「なあに。もしもの時、念のためだよ」と言って笑った。

 北城は事件当夜、田川邸を訪ねるのに、身の危険を感じていたことになる。或いは――。

「そのタブレット端末をお持ちですか?」

「はい。今、持ってきます」席を立つと奥寺は机の上に置いてあった鞄を持って来た。そして、「すいません」と鞄の中からタブレット端末を取り出した。

「事件前後の北城さんのスケジュールを見たいのですが」

「はい。社長のスケジュールですね」奥寺が手際よくタブレット端末を操作する。「ああ、あった。これです」と奥寺が見せてくれたスケジュール帳を、祓川と服部が顔を寄せて覗き込む。二人が「おっ!」、「やはり・・・」と同時にうめく。

 画面には事件があった月のスケジュールが表示されていた。仕事中毒と言える働きぶりで一日の予定が三十分刻みで記されてあった。転落事故があった日の夜には、確かに「田川さん」と言う書き込みがある。そして、事故の五日前の午前中には予定がひとつしか入っておらず、そこにも「田川さん」と書き込みがあったのだ。

「事件の五日前にも、北城さんは田川と会っていたのですね!?」

 祓川に問い詰められたが、奥寺には答えられない。「ええ、まあ、社長がこう書いているので、事故が起きる前に会っていたんじゃないかと思います」と答えるだけで精一杯だった。

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