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不当防衛  作者: 西季幽司
第二章「二度あること」
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辛い恋愛③

「それだけ好きな女だったみたいだけど、あいつ、彼女のお父さんの殺しちゃったんだって。それで、彼女とはもう付き合えなくなってしまったの。殺したっていったって、正当防衛っていうやつ。仕事上のトラブルから喧嘩になって、殺されそうになったので、咄嗟に反撃したら、死んじゃったんだって。そりゃあ、まあ、そうよね。親を殺した相手と結婚なんて出来ないわよね。あいつ、泣く泣く彼女のことをあきらめたみたい」

 驚いた。江川信二の娘だ。田川は江川信二の娘と付き合っていたのだ。意外な話に、服部は祓川の横顔を盗み見たが、祓川の表情は何時もと変わらなかった。

「分かりました。それが辛い恋愛なのですね」

「そういうことがあったから、高松での仕事をたたんで、東京に出て来たみたいなの。最初は高松と東京を行ったり来たりしていたの。そして、私と知り合ったって訳よ」

 江川事件の後、田川はスーパーマルタをたたんで、タガワ・コ-ポレーションという不動産会社を興し、東京に事務所を設立している。

「結婚は?」

「していない。あいつも私も、そういうの、向いていなかったみたい」

「六年前に、田川さんから暴行を受けたと通報しているようですが」

「そうね。あの頃、最悪だった。段々、心が離れて行って、ちょっとしたことで衝突するようになったの。あいつ、暴力を振るい始めた。会社を辞めて、独立したばかりで、仕事が上手く行っていない時期でね。ストレスが溜まっていたのだと思う。随分、辛抱したのよ。でも、何故、私が辛抱しなきゃあいけないのよって思い始めたら、もう別れちゃえってなっちゃった」

 タガワ・コーポレーションを清算し、投資家となった頃だろう。

「そうですか」

「あら、随分、冷めた言い方ね。まあ、良いの。この部屋、あいつのものだったんだけど、別れる時、あいつを追い出して、私のものにしちゃったから。慰謝料よ。私の青春を奪ったんだから、安いものだわ」

「別れてからは会っていませんか?」

「会っていない。会う必要がないからね。あいつから泣きついて来たら、会ってあげなくもないけどね」

 まだ田川に未練があるのかもしれない。

「北城大祐という名前を聞いたことがありませんか?」と祓川が聞くと、「あるわよ」とあっさり答えた。

「ある⁉ 北城大祐さんを知っているのですか?」

「だって、ここに尋ねて来たから」

「訪ねてきた~⁉」珍しい。祓川の声が大きくなった。

「そうよ。確か、北城大祐という名前だった。何処かに名刺があるはずだけど・・・」

「彼は、一体、何をしに訪ねて来たのですか?」

「それが変なのよ。『十年前の四月六日、田川は何処で何をしていたのか教えて欲しい』と言うのよ」

「十年前の四月六日?」

 何の日だ。ひょっとして?

「そうなのよ。変な話でしょう」

「十年前のことなんて、日付まで覚えていないでしょう」

「それがね――」と言うと、永井は何が可笑しいのか、ケタケタを笑いながら、「私、日記をつけているのよ。高校生の時から、ずっとね。ガラじゃないわよね」と恥ずかしそうに言った。

「そんなことはありません。それで、十年前の四月六日、田川は何処で何をしていたのですか?」

「日記を見てあげたんだけど、その頃、田川はこっちにいたみたい。ほら、あの頃、アメリカで何とかショックってあったでしょう。田川の会社、その影響で資金繰りに困っていて、金策に走り回っていた頃なの。三月二十二日から四月十日までの間、出張で東京にいたのよ」

「東京にいたのですね」

「そう言っているでしょう」

「北城さんは、あなたのこと、どうやって知ったのでしょうか?」

「ああ、それ。坂本に聞いたみたい」

「坂本⁉ 坂本冬彦ですか?」

「あら、ご存じなのね。坂本の紹介だと言われて、懐かしくなっちゃって、会う気になったのよ」

 坂本不動産の社長だ。大祐に田川を紹介したという話は聞いたが、永井にも紹介したとは一言も言っていなかった。どうにも食えない男だ。

「ねえ。もうちょっとゆっくりして行ってよ」と永井にねだられたが、聞くことを聞いてしまうと、「また、お話をお伺いに参ります」と祓川はさっさと席を立った。

 祓川らしい。

 マンションを出たところで、服部は祓川に聞いた。「十年前の四月六日というと、ひょっとして祐樹ちゃんが誘拐された日なのではありませんか?」

 祓川は短く「そうだ」と答えただけだった。

 やはりそうだ。藤田祐樹ちゃんの誘拐事件があった日なのだ。

「と言うことは、田川が藤田祐樹ちゃんの誘拐殺人事件に関与していたということでしょうか?」

 服部の言葉に祓川は足を止めると、「それをはっきりさせなければならない」と力強く言った。

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