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不当防衛  作者: 西季幽司
第二章「二度あること」
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十七年前の事件①

 北城大祐が住んでいた、あのアパートに戻って来た。

 坂本から聞いたイーグルホームの鷲尾に会うためだ。坂本に教えてもらった連絡先に連絡を取ると、夕方なら会社に戻っていると言うので、北城が住んでいたアパートで聞き込みを行ってからイーグルホームを訪ねることにした。

 北城のアパートの住人は留守がちで、ろくに話を聞けていなかった。今日は日曜日だ。部屋にいる可能性が高かった。

 アパート前で、「刑事さん」と老婦人に呼び止められた。確か一階に住む平田という名の老女だ。平田はすり寄ってくると、「この間、テレビに出ていたあの人、近所で見かけたことがあるのよ」と小声で囁くように言った。

「テレビに出ていたあの人?」ひょっとして・・・

「ほらほら、あの人よ~テレビに出ていた、あの人。この辺りをうろついていたのよ。様子が変で、不審者だと思ったので、覚えていたのよ~」平田は服部の質問に答えずに言い立てる。

 祓川は数歩、離れた位置で成り行きを見守っている。

「テレビに出ていたあの人と言うのは?」

「あなた、見ていないの? 土曜日の午前にやっている番組よ~ほら、北城さん、あのマンションから落ちて死んだんでしょう。北城さんに襲われたって言っていた、あの人よ」

――やはり田川だ!

「彼をこの付近で見たことがあるのですね? 何時頃ですか?」

「さあ、一週間くらい前かしらね。北城さんが住んでいたアパートの近くで見かけたのよ。それもね、何度も。アパートの様子を伺っていたみたいに見えた」

「何度も、ですか?」

「そうよ~アパートに住んでいる学生さんが、あの人が北城さんの部屋から出てくるのを見たって言ってた。ひょっとして、空き巣に入ったのかもね」

「空き巣ですか! その、彼を見たというのは、どの部屋の学生ですか?」

「二階の二〇四号室、北城さんのお隣さん」

 田川が北城を尋ねて来ていたとしたら、事件は違う角度から検討する必要が出て来る。

「確かめるぞ」と祓川が言う。

 平田に礼を言って別れると、二階の二〇四号室を目指した。

 日曜日とあって、学生は部屋にいた。細面で片側だけ長い髪をしていた。田川を目撃したと言う話を聞いて来たことを伝えると、「コンビニの店長に話したことが、もう噂になっているみたいですね」と苦笑いしながら教えてくれた。

 丁度、一週間前、昼飯時に近所のコンビニに弁当を調達しに行った。二階の廊下で田川らしき男と一緒になったと言う。

「空き巣? 廊下で一緒になりましたが、部屋から出てきたのを見た訳じゃありません。僕に気がつくと、慌てて階段を駆け下りて行きました」

「すいません。もう一度、確認したいのですが、その男を目撃したのは、確かに一週間前なのですね?」

「はい。日曜日だったので間違いありません」

「そうですか・・・」

 学生の証言は重要な意味を持っている。

 一週間前に北城のアパートで田川の姿が目撃されていたとなると、事件があった日、田川と北城は、やはり初対面ではなかったことになる。田川の証言は嘘だった。

 学生は、会ったのは、その時だけで、すっかり忘れていたが、お隣さんが転落死してニュースになり、しかも、転落した部屋の主という男がテレビに出ているのを見て、「あの時のおっさんじゃん!」と驚いたと言う。

「警察に通報した方が良いかどうか迷っていたので、来てもらって助かりました」と晴れ晴れとした顔で言った。

 学生に礼を言って部屋を後にした。

「どういうことでしょう?」と服部が尋ねると、祓川は「二人は面識があり、事件の日に会ったのが初めてじゃなかったということになる。しかも、田川は北城のアパートの住所まで知っていた」と淡々と答えた。

 祓川の言う通りだ。

「そろそろ時間だ」と祓川が言うので、アパートの管理会社、イーグルホームに向かった。坂本はイーグルホームの鷲尾に頼まれて、北城に田川を紹介したと言っていた。

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