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不当防衛  作者: 西季幽司
第二章「二度あること」
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恩返し③

 田川は父親から受け継いだスーパーを廃業し、不動産会社を興した。暫くは業績好調で、本人曰く、「高松の不動産王」と呼ばれていたと言うことだ。田川は関東進出を視野に入れ、都内に事務所を開いた。

「その事務所に雇われたのが私でした。もう、十四、五年前になりますかね。何度か転職を繰り返した後、彼に雇われて、東京事務所の所長を任されました。親父が高松の出身でね。田川さんの親父さんと面識があったらしいのです。どこからか彼が都内で事務所を開くと聞きつけ、連絡を取ってくれました。面接を受けると、その場で採用が決まりましたよ。正直、不動産の仕事なんて、始めてでしたから。不安はあったのですが、思い返すと、私が不動産業界で生きて行くための礎となった時期でしたね」と坂本は言って笑った。

「どのくらい働かれたのですか?」

「五年弱・・・ですね。その間、好き勝手にやらせてもらいましたよ」

「田川さんはよくこちらに来られていたのですか?」

「そうでもないですね。パーティだとか不動産会社の社長の集まりだとか、そういうの、大好きでしたので、連絡をすれば直ぐに飛んできました。でも、それ以外は滅多に来ませんでしたね。特に仕事だと、はは。一人で苦労をしましたので、色々、勉強になりました」

「田川さんと親しかった訳ですね。ずっと連絡を取り合っていたのですか?」

「いや、まあ、そうでもありません。金融危機の後、会社が傾いてから、社長は金策で飛び回っていました。金策はうまく行っていたように見えたのですが、ある日突然、倒産したんですよ。私は補償もなしに、職を失ってしまいました。社長が余裕のある内に事業をたたんで、投資家になったのは見え見えでしたね。残った金をかき集めて、とんずらですよ。都内に越して来たことは知っていましたが、親しくしていた訳ではありません。何度か会ったことがあったので、連絡先を知っていた程度です」

「たいして親しくなったのに、田川さんを北城さんに紹介した訳ですか?」

「ええ、まあ。別に北城さんと親しかった訳ではありませんし、田川さんが金を持っていることは知っていますからね。彼が興味を持ちそうな話だと思ったし・・・ああ、それに、田川さん、北城さんに恩返しをする良い機会になると思ったものですから――」

「恩返し?」

「社長が金策で走り回っている時、北城さん、ああ、当時は藤田さんと言っていましたが、彼に会って融資を受けていたはずです。藤田と言えばビッグネームですからね。あの当時、社長に藤田さんと会いたいと言われて、面会の約束をとりつけるのに苦労しました」

「田川さんは北城さん、当時の藤田さんと面識があったのですか?」

「う~ん。面識があったかどうかは、分かりません。多分、会えたと思うのですが・・・」

「会えたと思う? 北城さんと会って、融資を受けたのではないのですか?」

「それがね、当日の約束はキャンセルになったのです。ドタキャンというやつで、その日になって都合が悪くなったそうです。それでも社長は『五分で良いので時間をもらってくる』と言って出かけました。結果的に融資を受けたみたいなので、会えたのだと思います」

「融資を受けたかどうかも、はっきりしないと言うことですか?」

「まあ、そうです。社長から結果を聞いていませんから。その後、暫くして社長は、ほれ、さっき言ったとんずらですよ。会社をたたんで、行方をくらましてしまいました。次に会った時には、華麗な投資家に転身していましたからね。ですが、その資金がどこから出たのか、押して知るべしです」

「融資を受けて、そのお金を持ち逃げした訳ですね」

「そうは言いませんけど、それに近いことがあったのかもしれないと思っています。いずれにしろ、そんなことがあったので、藤田さん、いや、北城さんか。彼に田川さんを紹介した訳です」

 無責任に言うが、坂本の邪な考えにより、昔、貸した金の件で争論となり、北城が転落死した可能性があるのだ。

 北城が藤田家を追い出され、姓が変わっていたため、田川は気付かなかったのかもしれない。いや、会っていたかどうかも定かではない。話をしている内に、昔、金を借りた藤田であることが分かった。北城もそのことに気がついた。田川は融資を断り、それに北城が腹を立て、もみ合いになった。

 そう考えると辻褄が合う。

「北城さんに、その話をしましたか?」

「さあ、よく覚えていませんが、したと思いますよ。田川さんとは昔、会ったことがあると思いますよ~と言うような話をね」

「田川さんにはどうです?」

「それは言っていませんね。言うと会ってくれないでしょうから」

 それはそうだ。

「それで、北城さんに田川さんを紹介したのは、何時頃でしょうか?」

「う~ん。ちょっと待って下さい」と言って、坂本は手帳を開いて、スケジュールを確認して言った。「ああ、十日前ですね」

 事件が起こったのが三日前だ。北城が田川と会うまで、一週間程度、間があった。事件が起こる前に二人が会っていた可能性があった。あの日、二人は初対面ではなかったのかもしれない。

「そろそろ、良いですか? 人に会わなきゃならないので。こう見えて、色々、忙しいんですよ。仕事以外にも、このところ、田川の件で人が大勢、尋ねて来ましたからね」と嫌味を言われ、事情聴取を切り上げた。

 大祐に田川を紹介したのが坂本だったと確認できただけだった。

「どうでした?」と聞くと、「まだ何か隠している」と祓川が答えた。

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