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不当防衛  作者: 西季幽司
プロローグ
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プロローグ

さすらいの刑事・祓川シリーズ第三弾。三部作の最終章となります。今回のパートナーはモアイとあだ名される若手の刑事、服部翔太。

 夜空を人が飛んでいた。

 久保田晴彦(くぼたはるひこ)は都内の家具メーカーに勤めるサラリーマンだ。昨今の業績悪化を受けて、残業が多くなった。今日も終電までみっちり働かされ、疲れた足を引きずりながら家路を急いでいた。明日は早朝から会議がある。早く帰宅して、眠りたかった。

 時刻は深夜だった。駅から吐き出された人波は一人二人と減って行き、途中にある高級マンションの辺りまで来た時には、久保田一人になっていた。

 この当たりには、まだ武蔵野の自然が残っている。道路を挟んでマンションの向かいに緑溢れた公園がある。きっとベランダからの眺望は素晴らしいものだろう。

 久保田の自宅はまだ遠い。

 自宅は駅から遠いものの、一戸建てだ。(自宅を売り払えば、このマンションくらい買えるかもしれないな)と思いながら歩いていると、頭上から「ああ――!」と悲鳴が振ってきた。

 久保田は思わず空を見上げた。

 都会の夜空は明るい。濃いグレーの夜空を、人が泳いでいた。手足をばたつかせて、すいすいと夜空を飛んでいるようかのように見えた。

 次の瞬間、夜空に浮かんでいた黒い人影は、猛烈な力に引っ張られ、久保田の頭上に落ちてきた。

「お、おいおい――!」逃げようとして足を取られ、久保田はアスファルトの地面に転がった。

――ドン!

 激しい音がして、地面が揺れた。幸い、落下して来た物体は、久保田が逃げた方向とは反対方向の場所に着地した。

 ほっとした次の瞬間、久保田の目の前にカランカランと音を立てて、何かが転がった。それは闇夜にキラリと鈍く光った。

(包丁!?)アスファルトの上に転がったのは、どこにでもあるような三徳包丁だった。

「いてててて・・・」

 アスファルトの上に四つん這いになって、久保田は体に異常がないか確認した。転んだ拍子に、右腕の肘を擦りむいたようだ。血が出ていた。他にも腰や足首が痛かったが、大事はないようだった。

 と、その時、目の前に、ころころと丸い玉が転がってきた。

(何だ?) 久保田は何気なく目を向けた。

「・・・!」言葉を失った。悲鳴を上げたくても、声が出なかった。

 目の前に転がって来たのは、男の生首だった。


 通報を受けて、警察官が駆けつけて来た。

 その間、数分だったはずだが、久保田には、時が止まったかもように長く感じられた。足元には被害者の頭部が転がっている。遺体を見たくなくて、久保田はひたすら夜空を見上げていた。今日は丸い月がよく見える。考えてみれば、夜空を見上げたことなど、このところ絶えてなかった。

(都会でも、こんなに月がはっきりと見えるんだ)と無理矢理そんなことを考えていた。

 マンションから落下した遺体は、運悪く、敷地を囲う鉄製の檻を直撃したようだった。遺体は激しく損傷していた。

 途中、若者が自転車で通り過ぎた。遺体に気付かなかったようで、道端で立ち尽くす久保田に一瞥もくれずに、スピードを上げて通りすぎて行った。

 やがて、二人の警察官が駆けつけて来た。警察官の姿を見た途端、久保田は緊張が解けた。へなへなとその場に崩れ落ちそうになった。だが、足元に生首が転がっている。久保田を恨めしげに見上げているに違いない。久保田は歯を食いしばって立ち尽くした。

「うわっ!これは・・・ひどいな」現場を見た途端、若い方の警察官が呟いた。

 年配の警察官から名前と住所を聞かれ、状況を聴かれた。久保田が知っていることは多くない。家路を急いでいると、マンションから人が転落して来た。それを目撃しただけだ。

 被害者について聞かれたが、久保田に答えようがなかった。気がついた時には、宙を舞っていた。

 小一時間、二人の警察官に代わる代わる質問責めにされた後、久保田は解放された。

「後ほど、またお話を聞かせていただくことになると思います」と言われ、久保田は自分が厄介ごとに巻き込まれたことに気がついた。

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