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第八話

湿地の上に築かれた城は、もはや浮城のようであった。

梯川と大聖寺川の水が膨張し、堀の水面は重く濁り、

堅牢な土塁の下では腐った藁と血が混じって発酵している。

丹羽長重の甲冑は雨を吸い、肩口からぽたぽたと水を滴らせている。

湿地を蹴立てながら進む大谷吉継の軍勢。

病に蝕まれながらも冷徹な指揮で知られる男が、丹羽の命脈を断とうとしていた。

大谷軍は、弓兵隊を展開しチマチマと遠距離攻撃。

「運が良かったニワ。この天気では奴らも鉄砲は使えんニワ。当然、あの妙な御輿も使えんニワ」

湿地に囲まれたこの城は、騎馬の突撃を封じるには最適だが、逃げ場がない。

「梯川の水門を開けろ」

吉継の声は静かだった。

湯浅隆貞が驚いて問う。

「水攻めを……この雨でまだやるのですか?」

「この雨だからこそ、だ。やり過ぎくらいがちょうどいいのだ」

水門が開かれた。

濁流が低地を呑みこみ、堀の境界が崩れる。

大聖寺城はまるでゆっくり沈む船だった。

土塁が崩れ、櫓が傾き、城兵たちの悲鳴が水面に泡となって弾けた。

丹羽長重が濡れた地図の上に手を置いていた。

「前言撤回ニワ‥。この天気最悪ニワ‥もはや、ここまでニワ……」

数日後‥。

大谷軍が城門を破ると、そこにいたのはわずかな残兵と、

燃え尽きたように座る丹羽長重の姿だった。

大谷吉継の元に連行される丹羽長重。

「……これが、丹羽の末路か」

吉継が近づき、静かに一礼した。

「見事な抵抗であった。北陸の雨も、おぬしの兵士の忠も、深い」

長重は、もはや応えなかった。

ただ、沈みゆく城とともに、その名を泥の底に残した。

丹羽長重のニワワワワ!という笑い声が、

どこかで泡のように漂っているという。



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