第一話
畳は青く香り、炭はほの白く燃えていた。釜の湯がしずかに鳴り、亭主・大谷吉継は茶杓をとりあげる。
その顔は病のせいで蒼白に沈み、布で覆った頬の奥から、ときおり咳が漏れた。
客たちは息をひそめ、釜の音を聞く。吉継が茶碗に湯をさし、抹茶を点てると、とつぜん、布の下から声にならぬ呻き。咳き込み、口から落ちたのは、膿にまじる濁った滴。
それは、泡立つ緑の茶の上にぽたり、と沈んだ。
「ヴォエ‥」
「うへ‥」
一瞬にして、座の空気が凍りついた。
「……」
誰もが目を逸らす。茶碗を受け取れば、自らの身を汚すかもしれぬ。だが、辞退すれば、この場の主を辱めることになる。
沈黙の中、吉継は微笑んだ。
「さて、どなたが、わしの茶を召されるかな」
その声音には、試すような、あるいは自らを嗤うような響きがあった。
客たちは視線を交わすが、誰も手を伸ばそうとはしない。膿を浮かべた一碗が、ただ座の中心で、異様なほど妖しい光を放っていた。
その時、一人がヤバい茶を一気飲み。
「ぷはー。ウマ☆」
周りはドン引きしていた。
「ヴォエェ‥」
「おいおい、マジかよ」
「死んだわ、アイツ」
大谷吉継もドン引きしていた。
石田三成って‥クッッッソバカだな!と。
ハッキリ言って他人の膿を飲むなんてのは人体にとってリスクしかない。
膿って何かというと、白血球の死骸・細菌・組織の壊れた残骸。流れ出した汚水。これを飲むとどうなる‥。
細菌感染、黄色ブドウ球菌、連鎖球菌、大腸菌などの病原菌が含まれていることが多い。消化液で多少は死ぬけど、生き残ったやつが胃腸炎・敗血症のリスク。
ウイルス・その他病原体‥。
膿の原因が結核菌や梅毒トレポネーマ、あるいは性感染症由来だったらもう最悪。飲んだ人にそのまま感染する可能性もある。
毒素ショック‥。
細菌が出す毒素が胃で吸収されれば、重症の食中毒みたいに嘔吐・下痢・発熱。運が悪ければ命に関わる。
心理的ダメージ‥。
味とか臭いを想像しただけで嘔吐反射が走るはず。
要するに、膿は飲むものじゃなく、体が外に捨てようとしてるゴミ袋。
飲んだら体は全力で拒絶するだろう。
何が「ウマ☆」だ!と‥。
大谷吉継は絶対今後は石田三成には関わらないようにしようと決めた。
そんな1600年6月であった。