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【守護天使】

静かに激怒するアイトレアです。


「国王陛下、申し訳ありません。セトが自死したのは私の不手際です。」


イオはアイトレアに事情聴取の様子を全て報告した。


「いや、イオの咎では無い。セトが何者かに脅されていたのは確かだろう。小瓶が二つあったのは自死用に渡されていたのかもしれん。」



小瓶の中身は即効性の液体の致死毒だった。


ローズのカップに入っていた紅茶からも同じ毒の成分が検出された。



「実はセトの母親と妹が行方不明になっていると報告があり、捜索しています。…もしかしたらこの二人を人質に取られ、脅されていたのかもしれません。行方不明と王妃陛下暗殺事件が関係している確証はまだありませんが。」


アイトレアは厳しい顔で宙を見据えている。


「…ロザラム公爵が絡んでいると思うか?」


「今のところは何とも。セトの周辺を探っていますが、ロザラム公爵のことですから何人も人を介しているしょう。証拠を見つけるにはかなり時間がかかります。」



すると、扉がノックされアイトレアが入室を促すと、隠密の隊員が報告に現れた。


「セトが自宅にて、遅い時間に怪しい風貌の人物と面会しているのを目撃した者がいました。」


「その人物とは誰だ?」


「それが、フードを被っていたのと夜だったこともあり、顔まではよく分からなかった、と。それから、セトの部屋の暖炉から便箋の一部と見られる紙片が発見されました。」


隊員がイオに紙片を差し出し、アイトレアと確認する。



紙片は所々が煤けて汚れていたが、紋章の一部のようなものが見えていた。


それは、白い馬のような生き物の顔部分から角が生えているように見える。



アイトレアとイオは驚愕した。


"白い馬のような紋章"は、この国では一つしかない。


"ホワイトユニコーンの紋章"は、ロザラム公爵家の紋章だ。



ロザラム公爵がセト宛に手紙を書いていた証拠だ。

しかし、これだけではセトを脅していた証拠にはならない。


上級貴族の公爵と下級貴族である騎士が、手紙でやり取りすることなど滅多に無い筈だが、問い詰めたところでシラを切られることは容易に想像できた。


アイトレアは報告に来た隊員を帰すと、重いため息をついた。



「これだけではロザラム公爵を問い質すことは難しいでしょう。しかし、セトと繋がりがあったことは間違いない。…陛下、如何致しますか?」


アイトレアは再び厳しい顔に戻ると、冷たい声で言い放つ。



「ロザラム公爵の上級貴族としての地位を剥奪し、中級貴族へ降格させる。容疑者であるセトと繋がりがあったこと、王妃暗殺に加担していた疑惑をこの紙片と共に突き付けろ。…これ以上、私の大切な存在を傷つけさせてたまるものか。」



いつもの穏やかなアイトレアからは想像も出来ない怒りに満ちた声音に、イオの背筋が伸びる。


アイトレアにとって、セトは頼りになる可愛い部下だった。


その上、ローズとお腹の子の命まで狙われたのだ。


「かしこまりました。すぐに手配致します。」





一週間後、アイトレアがローズの部屋へ行くとシトリーが来ていた。


ローズはベッドに上半身を起こすような姿勢で寄りかかっている。


つわりは比較的軽いようで、今日も顔色が良く元気そうだった。



「ローズ、シトリー、二人とも体調はどうだ?」


「私は平気です。今日はつわりも軽くて穏やかに過ごせておりますの。」


「私も元気です。今日はローズ様の体調が安定していると聞いて、様子を伺いに来たんです。」



アイトレアはベッド横の椅子に腰掛ける。


ふと、ローズの手元を見ると薄いピンクの宝石やパールのあしらわれたブレスレットを付けていた。


「ローズ、それは?」


アイトレアが聞くと、ローズとシトリーはふふっと笑った。



「陛下、これはシトリーが安産祈願にと作ってわざわざ届けて下さいましたのよ。とても素敵でしょう?」


「ローズクォーツは女性ホルモンの分泌を促してくれる働きがあり、コーラルやパールは古くから幸福や安産をもたらすお守りとして重宝されていたそうなんです。」


どれもシトリーの涙から生まれた宝石で、ローズの細く白い手首に良く映えて綺麗だった。



「これが以前渡そうとしていたものか?とても美しいし、ご利益がありそうだ。ありがとう、シトリー。」


「そんな。お礼なんてほどのことではありませんよ。ローズ様は初産というものだそうですから、ローズ様と御子様が健やかにいられますようにと願い作ったんです。」



すると、扉がノックされスピナが紅茶を用意して運んできた。


セトが亡くなったときは、ただ呆然と涙を流してやつれていたが、今はもうローズの護衛として一流メイドの顔に戻っている。


スピナは紅茶を準備すると、ローズ、シトリー、アイトレアの前に置いた。


「ありがとう、スピナ。あなたは体調はどうかしら?大丈夫?」


ローズが心配して声を掛ける。


「はい、問題ありません。お心遣い痛み入ります。」



スピナは微笑んで答えると、一礼して部屋の隅へ移動した。


シトリーはふとスピナの方へ近付くと、スピナにブレスレットを渡した。


それはローズのとは別に作っていたもので、ヴァイオレットスピネルがあしらわれている。


スピナの瞳と同じ色だ。



「?…これを、私にですか?」


「スピネルには"成功"や"情熱"などの意味があるんです。これからもスピナがお仕事頑張れますようにって祈りながら作りました。」



恋人だったセトをあんな形で失い、気持ちの整理もまだついていないであろうスピナを励ましたくて、シトリーは大切に作った。


「…ありがとうございます。一生の宝物にします。」


スピナは目を潤ませながら微笑んで、優しくブレスレットを抱き締めた。




ローズとアイトレアを出会わせてくれて、ローズとお腹の子の命を救い、落ち込んでいる者を励まし、周りの空気を明るくしてくれるシトリーは、キューピットであり守護天使のようだと、三人の様子を見ていたアイトレアは幸せな気持ちになった。


読んで頂きありがとうございます!


スピナとセトの物語もいつか書けたら書くかもしれません。


感想や評価など頂けると励みになります。

よろしくお願い致します!

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