【不穏な影と結婚式】
いきなり不穏なシーンです。
ロザラム公爵は胸ポケットからピンク色の宝石を取り出し口を笑みの形に歪める。
小さなローズクォーツは月灯りに照らされ、妖しく光り輝いていた。
シトリーの涙が宝石に変化するという体質については知ってはいたが、見るのは初めてだった。
ジルが王妃に選ばれなかったのは誤算だったが"想定の範囲内"ではあるし、まだ打つ手はある。
いずれアイトレアにもローズにも、そして長年国王の横でふんぞり返っているカーライル公爵家のイオも消し去らなければならない。
言うは易しだが容易ではないだろう。
だが、"私には出来る"。
三人を消したところで、シトリーを手元に置いて存分に可愛がってやろう。
時間は掛かるが急いで事を起こしてボロが出ては元も子も無い。
絶対に証拠を残さず、やり遂げてみせる。
ロザラム公爵は、月灯り照らす庭を見下ろした。
姿は見えないが王家から隠密の者がこの家を監視しているのは知っている。
しかし、その程度でボロを出すことは無い。
せいぜい無駄な努力を続けるが良い。
ロザラム公爵は今宵もワイングラスを傾けると、赤黒い液体を少量注ぐ。
そこにシトリーの涙から生まれた小さなローズクォーツを入れる。
すると、ローズクォーツは砂糖のように液体に溶けて消えた。
そして、グラスを月に向かって掲げると、恍惚とした表情で飲み干した。
ノーフォーク伯爵家令嬢のローズが王妃として選ばれたパーティーから1ヶ月後。
ルーロライト王国国王アイトレアと王妃ローズの結婚式及び、ローズの王妃冊立の儀が執り行われた。
純白のドレスに身を包み、大粒のダイヤモンドが輝く王冠を頭に載せたローズは、まさしく大輪の薔薇が咲き誇る様子を表したようだった。
多くの祝福の拍手に包まれたアイトレアとローズは、色とりどりの花弁の雨を受け、参列した貴族たちに手を振った。
イオとシトリーも並んで美しい二人の門出を祝った。
結婚式には多くの貴族が祝福に訪れ、その中にはロザラム公爵の姿もあった。
娘のジルは体調不良を理由に欠席している。
イオはロザラム公爵を警戒し、常に見張っていたが結婚式が終盤に差し掛かると、挨拶もせずさっさと帰ってしまった。
相変わらずの非礼な態度に内心怒りを顕にしたが、せっかくのおめでたい式なのだからと心を落ち着かせる。
何かあれば隠密の者が報告するだろう。
結婚式が恙無く終了し、いよいよ初夜を迎える。
緊張した面持ちのローズは、スピナに導かれ国王の待つ部屋へと足を進めた。
読んで頂きありがとうございます!
今回はかなり短くて申し訳ないです。
次回はまたドタバタある予定です。
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