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【王妃内定と護衛】

とうとう王妃内定します。


初々しい二人をごらんあれ。


アイトレアはローズの指にダイヤの指輪を嵌めると、手を引きゆっくりと会場の開けた中央へ進んだ。


周りにいる貴族や令嬢たちの嫉妬と羨望の眼差しを受けた二人は、手を取りあって踊り出す。


ベニトアイトとローズクォーツの瞳が見つめ合い、音楽に合わせて優雅に踊る。

その様子に誰もが魅了され感嘆の息をついた。


嫉妬するのも愚かしいほど、二人は美しく輝いていた。



二人のダンスが終わり、流れていた音楽がゆっくりと終わると会場が割れんばかりの拍手が沸き起こった。

貴族の中には気持ちが昂り、涙を流す者までいる。



シトリーも目を潤ませながら二人のダンスを称え、婚約を心から祝福した。


その涙がローズクォーツに変化し、床に落ちた。




「国王陛下万歳!ローズ王妃陛下万歳!」


貴族たちが口々に祝辞を叫び祝福する中、アイトレアとローズの二人は微笑みながら手を取り合い、一礼した。


イオはチラリとジルの様子を見ると、ジルは般若のごとき形相でローズを睨み付け、憤然と会場から出ていった。


ジルが出ていくのを見届けたあと、父親であるロザラム公爵の姿を探す。


シトリーの傍に隠れるようにいた公爵は、床から何かを拾うと胸ポケットに仕舞った。

そして、こちらに背を向けたまま会場から出ていき姿を消した、



主催者である王家に何の挨拶も無く勝手に帰るのは、とんでもない非礼に当たるがロザラム公爵家なら別段驚かない。


イオはそれよりロザラム公爵の動きが気になった。

床から何を拾っていたのかも気になるが、何故シトリーの傍にいたのか、だ。


ダンスが始まるまでは、反対側の窓際に寄りかかっていたのに。


そういえば、パーティーが始まってから、しきりにチラチラとシトリーの方を見ていたような気がする。

挨拶に来る訳でもなくジッとこちらを観察していた。


あとでアイトレアに報告しておこうと頭の中でメモをして、イオは祝福真っ最中の主人の元へ向かった。




パーティーが祝福ムードで満たされる中、最後にノンアルコールのロゼシャンパンが振る舞われ、お開きとなった。


貴族たちがぞろぞろと帰る中、ローズはアイトレアに呼ばれ、イオとシトリーが待つ部屋へ案内された。



アイトレアもローズもまだ赤い顔をしたまま、お互いを見つめあって微笑んでいる。


イオがゴホンと咳払いをして、やっと正気に戻った二人は照れくさそうに顔を背けた。


シトリーは吹き出すのを我慢したが、肩の震えは止まらなかった。




「さて、私は正式にローズを王妃として迎える。その為に、ノーフォーク伯爵とも話を進めねばならない。ローズには後日、伯爵と共に再び王宮に来てもらいたいんだが良いだろうか?」


「ええ、分かりました。」


「ノーフォーク伯爵は大層な子煩悩だと聞くが、結婚を了承してもらえるだろうか。」


アイトレアが冗談を言うとローズはクスクスと笑った。


シトリーには何のことだか分からなかったが、イオがこっそり耳打ちしてくれた。



ノーフォーク伯爵は子煩悩と言えば聞こえはいいが、子供を溺愛しすぎている親バカと有名な人だそうだ。

しかも、ローズは上に兄が三人いる末っ子で唯一の女の子。

伯爵の溺愛ぶりはそれはもう凄まじく、ローズは長い間箱入り娘として育ったらしい。



「大丈夫ですわ。父も陛下とお会い出来るのをとても楽しみにしておられますわ。」



しばらく歓談していると、部屋の扉がノックされた。イオが対応する。


「陛下、護衛の者が到着したようです。通しますか?」


「あぁ、頼む。」



部屋に入ってきたのは、二人の騎士と一人のメイドだった。

三人ともそれぞれ王家に仕えている者だ。


「今日からローズの護衛として騎士と側仕えのメイドを付けさせてもらう。ローズが王妃に内定した以上、命を狙われる危険性が高まるからな。王宮に来るまでの間もこの者たちに守られていて欲しい。」


騎士の二人は屈強なガッシリ体型でいかにも護衛という風格があるが、メイドの方は淡い紫の瞳が特徴的なほっそりとした女性で、キリッと真面目そうな顔立ちだ。


二人の騎士は胸に手を当て跪き、メイドは深く頭を下げると自己紹介を始めた。


「ルーロライト王国騎士団所属、セトと申します。」


「同じく王国騎士団所属、ユアンと申します。」



騎士二人が自己紹介を終えると、隣にいたメイドが軽く膝を曲げ、顔を僅かに上げた。


「ローズ様の側仕えとなります、スピナと申します。ローズ様に誠心誠意お仕えしたく存じます。」


シトリーはスピナを見ながら、"紫の瞳"に"スピナ"という名前、この人は"ヴァイオレットスピネル"だ、などと独りごつ。



しかし、騎士ならともかくメイドが護衛?と疑問に思っていると、イオがこっそり教えてくれた。


「王家にはあらゆる情報を集める為に"隠密"という部隊があるのですが、スピナはそこの隊員です。王妃の護衛として護身術や毒物に詳しい者として彼女が選抜されました。」


スピナは年の頃は20歳といったところか。

シトリーの鋭い感覚眼で見てもスピナの周りに黒いモヤのようなものは見えず、寒気もしない。


シトリーはスピナなら大丈夫そうだと安心した。



"王妃の護衛"と聞いて、真っ先にジルの嫉妬に満ちたさもしい顔が浮かんだが、シトリーは頭から振り払った。


いくら人目も憚らずローズに暴言を吐くほどの性格の悪さでも、暗殺するのではないかと頭から疑うのはあまり宜しくないな、と反省した。




ローズが護衛の者たちと帰り、シトリーもシトリー自身の側仕えのメイドと部屋に戻ったあと、イオは先ほどのロザラム公爵の動きについてアイトレアに報告した。


「ロザラム公爵が…そうか。これでローズが王妃内定したとあれば、おそらく何か仕掛けてくるだろうな。今までもロザラム公爵家にまつわる不穏な噂が飛び交う中、公爵はシラを切り続けてきたがようやく尻尾が掴めそうだ。」


「巧妙に証拠を隠し、目撃者さえも消し去る手の速さのせいで、王家としても手が出せませんでしたからね。こちらとしても確固たる証拠、物証が無いと何も出来ませんでしたし、そのせいで"不穏な噂程度"に留まってしまっていた。」


「全く奸智に長けた男だ。娘のジルの不始末などもあの男が上手く隠しているのだろうな。」



アイトレアは重いため息をついた。

ロザラム公爵は、アイトレアの前ではニコニコと微笑み、忠実なる臣下のように頭を垂れて跪く。


しかし、その笑みや忠誠は仮面であると、アイトレアにもイオにもとっくに見破られているにも関わらず、気にすることも無く厚顔にも王宮に姿を現す。



「以前より、王家の"隠密"の者にロザラム公爵並びに娘のジルを監視するよう命じてありますが、今のところめぼしい報告は上がっておりません。ジルが使用人を平手打ちしたことくらいでしょうか。」


ロザラム公爵とて監視されていることくらい既に気付いているだろう。

その上で、パーティーを辞退するでもなく娘をゴリ押しする為に参加した。


莫大な持参金を用意すると言い含めて。



「シトリーに大層興味があるらしいが、大方"不老長寿の妙薬"を狙ってのことだろう。シトリーの側仕えの者にも警備を強化するよう再度通告してくれ。」



イオが退室するとアイトレアは伸びをして体をほぐす。

気掛かりなことが多いが、とりあえず王妃としてローズを迎えられることに安堵していた。


シトリーとも随分と仲良くなっていたようだったし、まるでシトリーは恋のキューピッドのようだな、と一人微笑んだ。



読んで頂きありがとうございます。


王妃選びのパーティー編終わりです。

次回は、短めの予定です。


感想や評価など頂けると励みになります。

よろしくお願い致します。

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