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【薔薇色の乙女】

王妃選びのパーティー中編?です。


悪役令嬢とヒロイン出てきます。


その令嬢はまるで大輪の薔薇のような美しさだった。


シャンパンゴールドの絹髪に品の良い髪飾りを付け、淡い桃色のドレススカートがふんわり広がり愛らしい雰囲気だ。


薄桃色の瞳が優しくアイトレアを見つめていた。



「初めまして国王陛下、ギルフォード伯爵閣下。ノーフォーク伯爵家、ローズ・ノーフォークと申します。」


洗練された見事なカーテシーを見せたローズは優しく微笑んだ。



シトリーは、この人にも名前に宝石があるな、と思っていた。


"ローズクォーツ"は"美"という意味の他に、持ち主に無条件の"愛"や"優しさ"をもたらすとされる癒しの効果を持つ宝石だ。


まさにローズの雰囲気にぴったり当てはまる。



「ローズ嬢はヴァイオリンが得意でプロ級の腕前を持つそうだな。この前もコンテストで最優秀賞を獲ったと聞いた。今度ぜひお聞かせ頂きたい。」


アイトレアも心做しか安心したような穏やかな表情で挨拶を返す。


「ありがとうございます。国王陛下にご満足頂けますよう一生懸命練習して参ります。」



ローズを最後に一通り挨拶回りが終わった。

アイトレアとシトリーもシャンパンを片手に少し休憩しようと、テラスの方へ移動した。


「シトリー大丈夫か?すまないな、いきなりのパーティーで色々と疲れたろう。」


「大丈夫です、賑わっている場所は好きなので。それに陛下が傍にいて下さったお陰で、人魚の国についてアレコレ聞かれることも無かったですし。」



二人で外を眺めながらしばし休憩していると、離れていたイオが小走りにやってくる。


「陛下、急ぎ確認して頂きたい件があるとラヴァル侯爵から伝言が入りました。」


「こんなパーティーの日にまで仕事か、仕方ないな。シトリー、すまないが少しここで待っててくれるか?すぐ済ませてこよう。」


アイトレアは苦笑しながらイオを連れて別室へ移動して行った。




シトリーはまだ飲んでいなかったシャンパンを一口飲んだ。

シュワシュワと不思議な舌触りの液体を飲み込んでしばらくすると、頭がクラクラしてくる。


目も霞んで立っていられなくなり、その場に頽れると遠くで誰かの声が聞こえた。



「まぁ、大変!しっかりして!大丈夫ですか?どなたかお水を持ってきて!」


シトリーが薄目を開けて見ると、先ほどのローズ嬢がシトリーを抱き抱えて、ハンカチで汗を拭いてくれている。


メイドが水の入ったピッチャーとコップを持ってくると、ローズはシトリーの口元にコップを持っていき、少しずつ飲ませてくれた。


水を飲んで少しすると、だんだん容態も落ち着いてきて視界もハッキリしてきた。


どうやら、シャンパンを飲んで酔っ払ってしまったらしい。

たった一口飲んだだけだったが、もしかすると人魚は酒に弱い種族なのかもしれない。


そういえば、人魚の国には酒というものが無かった。



「ありがとうございます、ローズ様。もう大丈夫です。申し訳ありません、お恥ずかしいところをお見せして…」


シトリーは、シャンパンで倒れたことをすぐに察して、応急処置を施すローズの手際の良さに感心していた。


普段から気配りを絶やさない淑女としてのお手本のような動作だった。



「いいえ、何ともなくて良かったわ。私もお酒は苦手で、以前伯爵のように倒れてしまったことがあったの。貴族の嗜みだから飲めるようにならなきゃって頑張っているんだけど。」


「ご無理をするとお体に悪いですよ。…実のところ、国王陛下も普段はお酒を全くお飲みになりません。理由をお聞きすると、体質で眠くなってしまうんだそうです。なので、ローズ様が飲めなくても大丈夫ですよ。」


ローズはアイトレアがお酒を飲めないことに吃驚しているようだった。


「まぁ、陛下もお飲みにならないのね。良かった、何だか安心したわ。ギルフォード伯爵は陛下のお傍にいらっしゃるから、そのような秘密も知ってらっしゃるのね。」


クスクスと品良く笑うローズは、高貴な香りを放つと言われる"ローズシナクティフの精霊"のような可憐さだった。


もし、この方が王妃になったら王冠姿がさぞや大変な美しさになるだろう。



「ローズ様、よろしければ私のことはシトリーと名前でお呼び下さい。実は、この名前も陛下に頂いたものなのです。」


「シトリーってとても素敵なお名前だわ。もしかして、宝石のシトリンから来ているのかしら?シトリーってまるで夕陽を閉じ込めたような綺麗な琥珀色だもの。」


アイトレアと全く同じローズの指摘にシトリーは驚いた。



するとそこに、刺々しい尖った声が飛んできた。


「あらぁ、ノーフォーク伯爵家の娘風情が何故ギルフォード伯爵閣下と一緒にいるのかしらぁ?」


ジルだ。毒々しい赤を纏った彼女は、羽の付いた団扇を片手にテラスに入ってきた。

キツい香水の匂いが鼻をかすめる。


「卑しい伯爵家は、国王陛下のお気に入りに媚びを売ってお近付きになろうとしているのかしら?」


嘲笑うように唇を歪めるジルは、元の美しさが台無しになってしまっている。


「ギルフォード伯爵閣下はシャンパンを飲んでお倒れになったそうだけど、まさかあなたが毒を仕込んだのではなくて?さすが成り上がりを企む低劣なやり口ねぇ。」



「そのようなことはしておりません。シトリーはお酒に弱いのです。シャンパンを飲んでお倒れになっていたのを介抱していただけですわ。」


シトリーのことを国王陛下のお気に入り呼ばわりしたり、ローズのことを卑しいだの低劣だの、およそ淑女とは思えない口汚さにシトリーは憤りを通り越して呆れ返っていた。



そして、ローズの"シトリー呼び"にジルの眉がピクっと反応する。


「何?まさかあなた、ギルフォード伯爵閣下を下の名前で呼んでいるの?なんて馴れ馴れしい、いやらしい女なの。そうやって国王陛下にも取り入ろうとしているのでしょう!この女狐が!」


ジルは傍にあった水の入ったピッチャーを持つと、ローズに向かって振り回した。


シトリーは咄嗟に体をローズの前に出し、降り掛かる水からローズを庇う。


「シトリー!!」


ローズは悲鳴を上げシトリーに駆け寄ると、慌ててハンカチで顔から滴る水滴を拭いてくれた。



「ありがとうございます。ローズ様は大丈夫ですか?ドレスが濡れたりしていませんか?」


「私は大丈夫よ。シトリーのお陰でどこも濡れていないわ。」



その様子を見ていたジルはフンと鼻を鳴らす。


「伯爵令嬢ごときが身の程知らずなことをするからよ。いい?国王陛下の隣に相応しいのはこの(わたくし)よ!王妃になるのも私なの!あなたなんかに渡したりしないわ!」


叫ぶように吐き捨てると、ジルはくるりと踵を返しツカツカとヒールを鳴らしながら会場に戻っていった。



「ごめんなさい、シトリー。私のせいでこんなことになってしまって。」


「ローズ様のせいではありませんよ。ローズ様は私を助けて下さいました。ジル様の言ってることは全部デタラメですよ、気にする必要はありません。」


シトリーが憤然として頬を膨らませているのを見てローズは思わず吹き出した。


「ふふっ、シトリーありがとう。あなたのお陰で元気が出たわ。」


ローズがクスクス笑う姿にシトリーは肩の力が抜けて笑顔になった。


やはりローズの笑顔はローズシナクティフに似ている。



そこに慌てた様子のアイトレアがイオと共に小走りでやってきた。


「シトリー、ローズ嬢、大丈夫か?何やら騒ぎがあったと聞いたが。」


「私がシャンパンを飲んで倒れたところをローズ様が介抱して下さったのです。的確な処置のお陰ですぐに元気になりました。」


「そうだったのか。ローズ嬢、私からも礼を言おう。迅速な判断と手際の良い処置に感謝する。」


「当然のことをしたまでですわ。私もお酒に弱く倒れたことがあったので、そのときの経験が活きました。」



しかしシトリーには我慢が出来ないことがあった。


「陛下、実はジル様がローズ様に…」


「シトリー、私は大丈夫よ。陛下、私は何ともありませんの。さぁ、パーティーへ戻りましょう。皆様、陛下のご登場をお待ちになっていらっしゃいますわ。」


シトリーは驚いて、何故ジルを庇うのかとローズに詰め寄った。

しかし、ローズは静かに首を振る。



「ダメよ。せっかくのパーティーなのに事を荒立てたくないわ。皆様のご迷惑になってしまうもの。大丈夫よ、私は大丈夫だから…」


真剣な顔で懇願するローズに、シトリーもこれ以上何も言えなかった。


その様子にアイトレアとイオもすぐに察してくれたのかそれ以上追求することなく、4人は会場へ向かった。




国王陛下の再びの登場に沸き立つ令嬢たち。


次の時間は、国王が一人の令嬢をダンスに誘う、という催しだ。

国王に選ばれた令嬢が、国王とダンスを踊る権利を得るということは、実質的な王妃決定である。


令嬢たちがギラギラと熱のこもった目をアイトレアに向けてアピールする中、ジルは勝ち誇ったような高慢な笑みを浮かべ、ねっとりとアイトレアを見つめている。



「それでは、これから国王陛下がダンスのお相手をお選びになられます。…陛下、では。」


イオがアイトレアに小さな箱を手渡した。



アイトレアは箱を手にすると、真っ直ぐジルの方を向いた。


そしてゆっくり歩き出すとジルの前…を通り過ぎ、その後ろにいたローズへ持っていた箱を差し出した。


「ローズ嬢、私と一緒に踊っては頂けませんか?」


アイトレアが箱を開けると小さなピンクダイヤが嵌め込まれた指輪が輝いていた。



これは所謂"婚約指輪"で、国王が王妃を選ぶ儀式の際、選んだ令嬢に指輪を渡しダンスのお誘いをする。


そして、一曲踊り終えたら婚約成立になる。





ローズは驚いた表情のまま顔を赤くして胸に手を当て俯いていたが、アイトレアの前にゆっくり歩み寄った。


そして、仄かに赤い顔を上げ微笑む。





「謹んでお受け致します、国王陛下。」


読んで頂きありがとうございます。


悪役令嬢ってこんな感じで良いのか悩みましたが、

書いてみました。

次回、パーティー後編です。


感想や評価など頂けましたら励みになります。

よろしくお願い致します。

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