【お披露目と毒の赤】
王妃選びのパーティーの前半です。
悪役令嬢が出てきます。
王妃選びのパーティー当日。
周りがパーティーの最終チェックなど慌ただしい中、シトリーは着替えを済ませアイトレアたちを待っていた。
今回のパーティーは王妃選びが主な目的だが、シトリーのお披露目も兼ねていた。
その為、パーティーには国王であるアイトレアと共に入場することになっている。
国王と一緒に入ることでシトリーの地位を確固たるものにする目的もある。
しばらく椅子に座ってプラプラ待っていると、アイトレアがイオを連れて入ってきた。
品格のある正礼装に上質なファーの付いたマントを纏ったアイトレアは、まだ23歳という若さにも関わらず国王としての威厳があった。
イオもいつもより豪華な衣装だ。
「待たせてすまない。支度に手間取ってしまって。」
「いいえ。生まれて初めてのパーティーに緊張していたので、気持ちを落ち着けるのに調度良い時間でした。」
シトリーの本日の衣装は、首元にブローチの付いた真っ白なフリルタイのブラウス、上には腰あたりから長いヴェールになっている白いゴシックなベストを着て、プリーツ模様の付いた短いパンツを履いている。
どこからどう見ても貴族の令息のような装いだが、白く長い髪と透けたヴェールがまるで白乙女の花姿に似ていて美しい。
「すごいな、まるで月の女神のようだ。夜の帳によく映える。」
シトリーは照れくさそうにふわりと一回転すると、裾を摘んで一礼した。
「さぁ、そろそろパーティーが始まる。我々も会場に向かうとしよう。」
アイトレアが先頭を歩き、既に人々の話し声で賑やかなパーティー会場へと足を運んだ。
王宮の一番広く豪奢な空間に上級貴族と美しく着飾った令嬢たちが集まっていた。
会場に配られたシャンパンの色は淡いゴールドで、夜空に浮かぶ月を映したかのような儚い色合いだ。
会場の人々がしばしシャンパンを味を楽しんでいると、会場奥の扉が開き国王陛下が側近を伴って登場した。
眉目秀麗な国王の姿に令嬢たちは頬を紅く染め、ほぅ…とため息をついた。
しかし、その後ろから現れた"伯爵"の姿に、会場にいた誰もが度肝を抜かれた。
真っ白な髪、真っ白な肌、瞳の色はシャンパンと同じ琥珀色。
スラリと手足が長く、あどけなさの残る美麗な顔立ちは宝石のように完璧だった。
これが国王の庇護する遠い異国から来た"人魚伯爵"の姿。
会場にいる全員の視線が釘付けになり、シャンパンを飲むのも忘れていると、国王陛下からの挨拶と"人魚伯爵"の紹介が始まった。
「こちらがシトリー・ギルフォード伯爵だ。知っての通り、シトリーは深い海の底にある人魚の国からの客人でもある。彼は、保護した我々に深く感銘を受け、我が王家に忠誠を誓ってくれた。そして
忠誠と友愛の証としてこのロードナイトを贈ってくれたのだ。」
箱に入った小さなロードナイトを掲げ、アイトレアは一同を見回した。
「この友愛の証に応えねばならないと、私と同じ姓と伯爵の称号を贈った。シトリーはこれからも我が王家と王国の為に尽力してくれるだろう。」
皆がワアッと拍手をする中、シトリーは一歩前に出て一礼する。
拍手をしていた人々は拍手を止め、シトリーの言葉を待つ。
「国王陛下は、突然陸へ来て右も左も分からなかった私を手厚く保護して下さり、尚且つたくさんの優しさで包んで下さいました。私は陛下と王国の為、生涯の忠誠を誓うと決め、伯爵位を賜りました。どうか皆様も陛下の御為にお力添えをお願いしたく存じます。」
会場中に溢れんばかりの拍手が満ち、シトリーたちを包み込んだ。
そんな中、野心的な欲望のこもった目をシトリーに向けているロザラム公爵の姿があった。
四十路近い年齢の割に若々しい見た目の公爵は、シャンパンとシトリーを見比べ歪んだ笑みを浮かべていた。
アイトレアとシトリーはその後、参加している貴族や令嬢たちへの挨拶回りに向かった。
どの令嬢たちも美しく洗練されていたが、アイトレアに向ける目は潤んで熱く欲に満ちていた。
本人たちは無意識だろうが、王妃の地位を渇望するギラギラとした目は、感覚が敏感なシトリーには強すぎた。
しかし、アイトレアは微笑みを絶やすことなく穏やかに令嬢たちに接している。
そんなアイトレアをさらに熱のこもった強欲な眼差しを向ける令嬢がいた。
シトリーはその令嬢を見た瞬間、一瞬で肌が粟立つほどの寒気を感じた。
この感覚は前にも経験したことがある。
そう、ロザラム公爵家の令嬢の書類を見たときだ。
確か名前は――。
「ロザラム公爵家ジル・ロザラムが国王陛下、ギルフォード伯爵閣下にご挨拶申し上げますわ。」
滑らかなカーテシーを見せたジルは、パッと目を引く誇り高そうな美貌だった。
しかし、着ているドレスと同じ赤が眦にも塗られている為キツい印象を受ける。
ジルはニコッと微笑むとアイトレアに擦り寄るように身を寄せた。
「国王陛下、私本日のパーティーをとても楽しみにしておりましたの。だって、こうして陛下にお会い出来るのが3ヶ月ぶりでしたもの。とても寂しかったんですのよ?」
猫撫で声で甘えるようにアイトレアに話し掛けるジルに、アイトレアは嫌な顔を一切見せず穏やかにやんわりと押し退ける。
「すまないが、まだ挨拶回りが終わっていないんだ。また今度話そう。」
「はぁい、陛下。私いつまでもお待ちしておりますわぁ。」
妖艶に微笑み手を振るジルの元をあとにしたシトリーは、そっとため息をついた。
まだ肌が粟立ったままだ。
「彼女はいつもあんな感じなんですか?まるで媚びるような口調でしたけど…」
「…噂では側仕えのメイドに金切り声で怒鳴り散らしたり、殴る蹴るなどの暴力は日常茶飯事だという。その一方で、権力者などには媚びへつらうように擦り寄る、という話だ。」
シトリーはジルとの短い挨拶だけでドっと疲れたが、まだ挨拶回りは終わっていない。
気合いを入れ直して次の令嬢の元へ向かった。
お読み頂きありがとうございます!
シトリーに王子系ロリータ着せたくて、服のディテールには拘りました。
あと、悪役令嬢ジルの登場で次回修羅場の予感です。
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