【番外編:シトリーの前日譚 終】
シトリーの前日譚の最終話です。
次の日の朝、牢屋の外に警備兵が紙を持って現れた。
「貴様の罪状と処分が決まった。桃色人魚の乙女ルナを妬み殺害を企て、警備の薄い時間帯を狙ってルナを無理やり結界の外へ連れ出し、鮫に故意に襲わせた罪だ。」
白い人魚は顔を上げずに黙って聞いている。
「以上の罪より、貴様を国外追放の処分に下す!」
ふぅとため息をつくと白い人魚は顔を上げる。
「謹んでお受け致します。」
そのまま警備兵に連れられ、城壁の門まで集まった人魚たちの侮蔑の視線を浴びながら進んだ。
「あいつがルナを殺そうと…」
「貧相な色だからルナに嫉妬したんだ。」
「身の程知らずの人魚殺しが。」
「やっぱりあいつの色は呪いの色だよ。気味の悪い色だ。」
白い人魚は投げ付けられる罵倒などもはやどうでも良かった。
自分はこれから鮫の群れの中に放り込まれる。
きっとすぐに喰い殺されるだろう。
死期が少し早まっただけ。
そう思いながら警備兵に背中を押され門をくぐった。
すぐに後ろで門が音を立てながら閉まる。
白い人魚は暗い海へ泳ぎ出した。
とにかく陸を目指そうと上に向かって必死に泳いだ。
すぐに鮫は白い人魚を感知して襲ってきたが、白い人魚は俊敏に躱しながら岩の陰に隠れたり、沈没船に逃げ込んだりした。
逃げる際に岩の鋭利な部分でたくさん怪我をしたが、再生能力ですぐに治っていた。
絶望はしたが死にたい訳じゃない。
無我夢中で逃げ回った。
何とか鮫の少ないタイミングを狙い飛び出して、近付いてきた浅瀬へと向かう。
早くしなければ鮫に追い付かれてしまうと気が急いでいたせいで、目の前に迫る岩に気付かずぶつかってしまい、そのまま気を失った。
***
「おい、こいつもしかして人魚じゃないか?」
「まさか。人魚は深海にいる筈じゃ…」
「だけど、この見た目はどう見ても人魚にしか見えないぞ。」
「どうする?国王陛下に報告すれば褒賞がもらえるかもしれないぞ。」
頭上でガヤガヤ騒がしい、と白い人魚が意識を取り戻した。
海岸の警備兵たちはギョッとしたが、白い人魚はポカンとしたまま微動だにしない。
"生きている"
その現実に理解が追い付いていなかった。
「お、おい!とりあえず逃げないように鎖かなんか持ってこい。あと、舌噛まないようにタオルとか。」
そして白い人魚は訳も分からないまま、塔の部屋に連れていかれたのだった。
白い人魚は鮫の群れから逃げられたことに安堵はしたが、自分の首と手首に付けられた鎖に不安が少しチラついた。
このまま見世物小屋へ連れて行かれるならまだしも、"不老長寿の妙薬"を求めて拷問されるかもしれない。
警備兵たちの会話から察するにこれから国王陛下が来るらしい。
人間の世界の王様はどんな方だろうか。
白い人魚を差別してきた人魚たちのような非道な人間だったら…。
白い人魚は憂鬱な気分になっていたが、扉がノックされ入っきたのは、整った顔立ちの蒼い髪の男性だった。
おそらく国王と思われる蒼い髪の男性も、隣の菫色の髪の男性も身綺麗で、とても高貴な人たちなのだと分かった。
これから自分はどうなるのだろう。
この人たちは自分をどうするのだろう。
そんなことを考えていると、蒼い髪の男性は白い人魚と目線を合わせるように屈んだ。
まるでベニトアイトのような美しい瞳が優しく白い人魚を見つめる。
"あぁ、この人はきっと、優しい人だ"
他の人魚より感覚の鋭い白い人魚は直感でそう思った。
菫色の髪の男性も穏やかな目で白い人魚を見て、口に噛ませられていたタオルを優しく取ってくれる。
白い人魚はそれだけで嬉しかった。
今まで侮蔑の視線しか受けてこなかった白い人魚にとって、初めて人から優しく見つめられて心から暖かくなった。
「言葉は話せるのか?」
瞳と同じくらい優しい声音で質問される。
このあと、この優しい瞳の人たちから尊い名前をもらい、様々な人たちと出会い、人から受け取る"愛"がどれだけの幸福をもたらすものなのか。
白い人魚はまだ知らない。
読んで頂きありがとうございます!
「レモン色の友愛物語」はこれで完結にしようと思います。
ブクマなど本当にありがとうございます!
次回作も執筆中ですので、お待ち頂けると嬉しいです。




