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【番外編:シトリーの前日譚 3】

シトリーの前日譚の続きです。


ある日、白い人魚は人目を避けて国をぐるりと囲む城壁の傍の道を泳いでいた。


城壁には小さな窓が空いているので、たまにそこで窓の外の景色を見るのが好きだった。


海の景色と言ってもここは深い海の底なので、街にある街頭の明かりで多少海の先が見える程度である。



人魚の国には特殊な結界が張ってある為、人魚に害のある魚や鮫など獰猛な魚も入ってこられない。


それでも結界の外には鮫たちが数匹泳いでいるのが見える。




かつて人間と共生していたときは、人間たちが鮫漁を行ってくれていたので、今より鮫の数も少なく比較的安全に陸へ上がることが出来た。


しかし、人魚狩りをした人間のせいで人魚たちは深い海の底へ逃げざるを得なくなり、人間たちも鮫漁を辞めてしまった。


そのせいで年々鮫の数が増え、人魚たちはますます外へ出られなくなってしまった。


いわば海の中の鳥籠状態だ。




白い人魚も死ぬまで残りの短い人生をこの鳥籠で、他の人魚たちに疎まれながら生きるのだろうか。


もしかしたら、陸の世界には白い人魚の存在価値を認めてくれる人たちがいるかも、と夢想はした。



「まぁ、私には無理な話だよね…」



小さな窓に両腕を置いてウトウトしていたら、街の方から甲高い叫び声が響いてきた。


白い人魚は飛び起きると、声の聞こえた方へ駆けつけた。


城壁の小さな門の前に人だかりが出来ていた。




「ルナが…」


「ルナが鮫に襲われたらしい。」


「無断で結界の外に出るのは重罪になるわ。」


「ルナは自分では出てないって…」


「じゃあ、誰が…」


「ルナが、白い人魚にって…」




話していた内の一人が白い人魚に気付くと、怒りの表情で睨みつけた。


「お前のせいで…」


その一言で周りにいた人魚たちが一斉に振り返る。


人だかりの中央には桃色人魚の乙女ルナが蹲って泣いていた。


その尾ヒレからは血が流れている。



白い人魚は訳が分からず狼狽えていると、ルナが白い人魚を指さして叫んだ。



「そいつが無理やり私を外へ連れ出したのよ!嫌だって言ったのに聞いてくれなくて!ちょっと色のことを揶揄っただけなのに、鮫に食われてしまえって外に押し出したのよ!!!」



泣き喚きながら話すルナに周りの人魚たちは心配そうに背中を撫でた。


人魚には個人差があるが再生能力があるので、傷口は時間が経てば治る。

ルナは落ち着かせる為にとりあえず医務室の方へ連れて行かれることになった。




白い人魚はルナの主張に必死に違うと弁明した。


「私はさっきまで城壁の窓から景色を眺めていただけで、ルナに会ってもいません!外へ連れ出すなんてしてません!信じて下さい!」


しかし、誰も白い人魚の叫びなんて聞こえてないかのように冷ややかな目で見ていた。



しばらくすると城の方から警備兵が現れ、白い人魚に冷たく告げる。


「ルナを無理やり結界の外へ連れ出し、鮫に故意に襲わせようとした罪で貴様を捕縛する。牢まで付いてこい!」


「違います!私はっ」


バチンと白い人魚の頬が打たれた。


「黙れ。罪人は許可なく話すことは禁じられている。さっさと付いてこい。さもなくば貴様を今ここで処刑するぞ!」



白い人魚は呆然としたまま警備兵に連れていかれた。


そして暗い牢屋へ入れられ厳重に鍵を掛けられる。



白い人魚は絶望した。


裁判なんて無いようなものだ。


すぐに首を刎ねられるか、国外追放を言い渡される。


何故、こんなことになってしまったのだろう。



「私は何もしてないのに…」


この国では白い人魚はどこまでも孤独で害悪な存在でしかなかった。


犯してもいない罪を被せられ、突き放される。


白い人魚は暗い牢屋の中で涙すら流れず、ただ絶望の淵にいた。


読んで頂きありがとうございます!


人魚の国には女性がほとんどって言いながら、気を抜くと男性口調の男らしいセリフ書いちゃってて訂正しながら書きました。


警備兵は武装した女性騎士みたいなのを想像して下さい。


次回で終わるかな?って感じです。


感想や評価など頂けると励みになります。

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