【番外編:ジルの物語 5】
ジルの物語の続きです。
今回で終わるかと思ったら次回で終わりです。
すみません。
ロザラム公爵家は由緒正しき上級貴族の家柄であり、上級貴族は顔パスで王宮に出入りすることが出来る特権を持っている。
しかし先日、国王から"ロザラム公爵家を中級貴族へ降格させる"と通達があった。
中級貴族へ降格されれば、領地が減るだけでなく王宮へ行くにも国王からの特別な許可が必要になる。
もちろんパーティーなどに呼ばれる回数も上級貴族に比べれば格段に減るだろう。
ジルは公爵の書斎で破かれた通告表を見たとき、ローズが仕組んだに違いないと思った。
あの品性卑しい女は、自分の命の危険とアイトレアを取られたくないが為に国王にロザラム家を降格させるよう進言したのだろう。
国王に擦り寄って王命を出させたのだ。
ジルは短剣を握り締めた。
その目は充血しギラギラと獰猛に輝いている。
公爵の方を振り返ると、公爵は冷ややかな目で窓の外を眺めていた。
「こうなってしまったら、もう手段を選んでいられないな。幸い、王宮に入ることは出来そうだ。…ジル、支度をしなさい。」
フード付きのマントを身に付けたジルは、ロザラム公爵と一緒に馬車に乗り、王宮へと向かった。
その間もジルは、ローズをどうやって切り裂いてやろうかとブツブツ独り言を言いながら窓の外に見えてきた王宮を睨み付けている。
何だかここ数日、体が異様に熱くて仕方ないのだ。
常に意識が覚醒して碌に眠ることも出来ず、鼓動が早く息が荒い。
これが不老長寿の類稀なる力のせいなのか。
そんなジルとは反対に公爵は涼しい顔で何か考え事をしているのか、目を閉じている。
"本当に私は順応しているの?"
微かな疑問が頭に浮かぶが、父である公爵の言葉は正しいのだと信じた。
王宮に着き入り口に向かうが、当然王宮の入り口には警備兵の騎士が立っている。
ロザラム公爵家が中級貴族に降格したことは、貴族の間に広がり、もちろん城を警備する騎士たちも周知の事実だ。
騎士はロザラム公爵に国王の許可があるのかと問うてきた。
「国王陛下のご許可は無いが、どうしても陛下に王妃陛下暗殺未遂事件についてお話したいことがあるのだ。中に入れてもらえないだろうか?」
「中級貴族の身分の方は国王陛下のご許可が無いとお入りになれません。どうかお帰り下さい。」
何度か攻防が続いたが、騎士は頑なに入り口を塞ぐ。
その後ろから一人の貴族の男性が不意に現れた。
「ロザラム公爵閣下の身分は私が保証しよう。」
「ラヴァル侯爵閣下!」
上級貴族であるラヴァル侯爵が騎士を押し退けた。
ラヴァル侯爵は騎士を説得すると、あっさりとロザラム公爵を王宮の中に引き入れた。
ローズたちのいる部屋に向かう途中、ラヴァル侯爵が王宮の裏口に立ち寄った。
扉を開けると、いつの間に控えていたのか複数の武装した兵士たちが集まっていた。
どの者も目がギラギラと輝き、充血している。
この兵士たちも人魚の血を飲んだのだと、ジルはすぐに分かった。
ラヴァル侯爵のお陰ですんなりとローズたちのいる部屋まで来たジルたちは、入り口に立つ三人の騎士たちに睨まれ阻まれた。
「何故あなたがここにおられるのですか、ロザラム公爵閣下。ここは中級貴族のご身分では入れない筈ですよ。それに、この先は王妃陛下と王太子殿下がおられる部屋です。直ちにお帰り下さい!」
「ラヴァル侯爵閣下が国王陛下の代理で許可したのだよ。王妃に用事は無い。ギルフォード伯爵はどこにいる?」
騎士たちは一番後ろにいたラヴァル侯爵の姿に驚愕した。
国王に無許可で王宮に中級貴族の身分の者を入れたなど、知られたら即刻処罰される所行だ。
それに公爵の周りにいる武装した兵士たちの様子がおかしいことに、騎士たちはいち早く気付く。
「どのような理由があろうと、国王陛下のご許可無しにはこの部屋に通す訳にはいきません。お帰り頂けないのなら力づくで行くまでです。」
騎士たちは剣を抜き構えた。
精鋭の騎士が三人と平民出身の兵士たち。
その力の差は歴然だった、筈なのに。
兵士の一人が跳躍して目にも止まらぬ速さで騎士の頭目掛けて鈍器で殴り倒した。
ドゴンと音が響き、騎士の頭が首から取れゴシャッと血を飛び散らしながら床に落ちた。
「貴様っ!ロザラム公爵を捕らえろ!!!」
騎士の二人が剣を振り上げ、兵士たちに向かって走り出した。
しかし兵士たちは二人を一斉に囲み、ある者は手で、ある者は鈍器で騎士の頭を砕いた。
あっという間の出来事だった。
ロザラム公爵は満足そうに笑い、部屋の扉に手を掛けた。
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