【番外編:ジルの物語 3】
悪役令嬢ジルの物語の続きです。
ジルはとにかく愛情に飢えてます。
ジルが会場の隅で少し休憩していると、いつの間にか戻っていたアイトレアが令嬢たちの前に現れた。
ジルも颯爽と令嬢たちの前に躍り出る。
公爵家のジルの登場に他の令嬢たちは道を開けるしか無い。
いよいよ、アイトレアが王妃を選びダンスに誘うシーンだ。
ジルはねっとりと熱い視線をアイトレアに向ける。
婚約指輪を手にしたアイトレアが、その視線に応えるようにゆっくりとジルの方へ歩き出した。
ジルは指輪を受け取ろうと手を伸ばす。
しかし、その手は空を切り、アイトレアはジルの前を通り過ぎた。
硬直するジルの後ろで、あのノーフォーク伯爵家のローズがアイトレアに求婚され、それに応える。
(ありえない!!!!!)
ジルは鬼の形相で振り返ると、ローズが頬を紅く染めながらアイトレアと腕を組み、会場の中央へと向かっていた。
多くの嫉妬と羨望の眼差しの中、二人は完璧なダンスを披露して会場を沸かせていた。
ジルは足元が崩れていく感覚に囚われた。
王妃に選ばれなかった、父の期待を裏切ってしまったという絶望の中、それを火種にしてローズへの憎しみが胸に拡がった。
何故、家柄も教養も優れている自分ではなく、たかだか伯爵家の小娘が王妃に選ばれたのかジルには理解が出来ず、髪の毛を掻き毟りたい衝動に駆られた。
(憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!!!!!!)
ローズへの恨みに支配されたジルは、咄嗟に会場を飛び出した。
そのまま会場に父であるロザラム公爵を残して帰宅すると、部屋中の物を手当り次第投げつけた。
ドレスは乱れ、破け、ホコリに塗れてもジルは暴れ続けた。
ただただローズへの憎しみが脳内を駆け巡った。
「どうして、私ではダメだったの…?何故、あんな小娘が陛下に選ばれたの…。私はずっと、王妃に選ばれる為に、お父様の言いつけ通りに頑張ったのに…。どうして、どうして、どうして…」
ジルの両目からポロポロと涙が溢れた。
このままではジルは王妃になれない。
父を摂政などという崇高な立場に立たせることも出来ない。
「…それもこれも、全部あの女のせいよ。私より身分の低い者が王妃に選ばれていい筈がないもの。あの女が、あの女が全て仕組んだのよ!あの女さえいなければ!!!」
ジルは両目に憎悪の炎をら滾らせると、呪いを送るかのように王宮のある方角を睨み続けた。
***
王妃選びのパーティーの日からジルはずっと部屋に閉じこもり、相変わらずメイドたちを罵倒したりの毎日を送っていた。
結婚式の招待状が送られたが、アイトレアに寄り添う花嫁姿のローズを見たらその場で八つ裂きにしてしまいそうで、体調不良を理由に欠席した。
そんなある日、父であるロザラム公爵に呼び出された。
ジルはとうとう父から怒鳴られるのだと覚悟を決めて書斎の扉をノックした。
しかし、書斎の窓辺に立つ公爵の顔は心做しか穏やかで、怒鳴られることも無かった。
「お前が王妃に選ばれなかったのは非常に残念だが、これは"想定の範囲内"だ。…大丈夫だ、ジル。ローズならこちらに任せておきなさい。お前の方が王妃に相応しいことは誰もが分かっていることだ。」
"父が慰めてくれている。"
そしてやはり、王妃に相応しいのは私の方なのだ!
だって、父がそう言っているのだから!
ジルの荒んでひび割れていた心を、公爵の言葉が暖かくゆっくりと包んでくれた。
ジルは自信を取り戻し、公爵がローズを始末するというのを楽しみに待った。
ローズ暗殺が成功すれば、空席になった王妃の座にジルが座る。
ジルは部屋に戻ると上機嫌にドレスを選び始め、装飾品を付けて鏡の前で踊ってみせた。
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