【番外編:ジルの物語 2】
悪役令嬢ジルの物語の続きです。
ジルの存在感は会場中の視線を集めている。
キツすぎる香水の匂いに顔を顰める貴族もいたが、ジルはそんなことお構い無し。
"自分はこのパーティーで王妃に選ばれる"
その自信が彼女を一際美しく輝かせる。
やがて上級貴族の令嬢たちが全員集まると、会場奥の扉が開き、国王に即位したアイトレアと側近のイオが現れる。
アイトレアの登場に令嬢たちは頬を紅く染め、我先にとアピールを始めるが、アイトレアの後ろからゆっくりと現れた人物に皆が度肝を抜かれた。
髪から肌から全てが真っ白に輝き、瞳の色はシャンパンゴールド。
腰から流れるヴェールを翻しながらアイトレアに導かれ、会場に現れた噂の"人魚伯爵 シトリー・ギルフォード"。
ジルも思わず動きを止め、シトリーの姿をまじまじと見つめた。
アイトレアがシトリーを紹介し、シトリーが挨拶を述べる。
ジルはシトリーの流暢な口上を聞きながら、国王の庇護するこの人魚に近付けば、王妃としての地位をより確実なものに出来ると考えた。
アイトレアとシトリーの挨拶が終わり、いよいよ令嬢たちのアピールタイムが始まる。
しかし"勝ち"を確信しているジルは、気合を入れる令嬢たちを冷ややかに見ていた。
アイトレアが順番に令嬢たちも周り、ついにジルの番が来た。
今宵も胸元がざっくりと開いたドレスを身につけているジルは、滑らかなカーテシーを披露したあと、すかさずアイトレアに身を寄せる。
「お久しぶりでございます、陛下。こうしてお会い出来ますのを、私とても楽しみにしておりましたのよ。」
甘えた声でアイトレアの手を取ろうとしたジルを、アイトレアはやんわりと避けて拒絶する。
国王に断りもなく触れようとするなど、いくら公爵家とはいえ許される行為では無い。
しかし、ジルはそんなことなど気にせず、アイトレアに拒絶されたことも知らぬ顔で優雅に微笑む。
「すまないが、挨拶回りがまだ終わっていないんだ。これで失礼する。」
アイトレアが去り、ジルは満足そうな顔でシャンパンを一口飲んだ。
そんなジルの姿をシトリーが不気味そうに見つめていたことなど、ジルは知る由も無かった。
アイトレアの挨拶回り、令嬢たちのアピールタイムが終わり、王妃選びの時間が迫っていたがアイトレアは急用が入り、イオと共に一旦会場を出ていった。
ジルはこの隙にシトリーに近付き、アイトレアからの好意を勝ち取ろうと画策した。
しばらくシトリーを探して会場内を歩いていると、テラスにその影を見つけた。
しかし、その傍に"余計なもの"まで一緒にいることに気付いた。
金の絹髪を揺らし、桃色の品の良いドレスに身を包んだノーフォーク伯爵家の令嬢である、ローズ・ノーフォークだ。
何故あんな伯爵家の娘がシトリーの傍にいるのだと憤慨したジルは、近くにいた使用人に事情を聞く。
どうやら、シャンパンを飲んで具合の悪くなったシトリーを介抱したのがローズらしい。
ジルはギリッと歯ぎしりをする。
卑しい伯爵家の娘はきっと、王妃に選ばれる為にシトリーにわざとシャンパンを飲ませ悪酔いさせた上、甲斐甲斐しく介抱して好感度を得ようとしたのだろう。
そうでなければ、何か薬を仕込んだに違いない。
ジルはツカツカとヒールを鳴らしテラスに侵入する。
「あらぁ?ノーフォーク伯爵家の娘風情が何故ギルフォード伯爵閣下と一緒にいるのかしらぁ?」
テラスに用意されていた椅子に腰掛けていたローズとシトリーは、ジルの突然の登場に驚き、シトリーは警戒心を顕にした。
ローズは少し怯えている。
ジルはそんなことお構い無しに捲し立てる。
「ギルフォード伯爵閣下はシャンパンを飲んで倒れられたそうだけど、まさかあなたが毒を仕込んだのではなくて?さすが成り上がりを企む低劣なやり口ねぇ。」
「そのようなことはしておりません。シトリーはお酒に弱いのです。シャンパンを飲んで酔ってしまわれたのを介抱していただけですわ。」
ジルはローズの"シトリー呼び"に素早く反応する。
「何?まさかあなたギルフォード伯爵閣下を下の名前で呼んでいるの?なんて馴れ馴れしい、いやらしい女なの!そうやって国王陛下にも取り入ろうとしているのでしょう。この女狐が!!!」
頭に血が昇ったジルは目の前に置かれていた水の入ったピッチャーを咄嗟に掴み、ローズ目掛けて振り回した。
水がローズに降り掛かる直前、シトリーがガバッとローズの前に立ち塞がり水を被った。
ローズは短い悲鳴を上げ、すぐさまハンカチでシトリーに掛かった水を拭き始める。
ジルは一連のやり取りを見て、シトリーはローズに与する者だと分かり、さらに頭に血が昇った。
"何故、誰も私の味方にならないの!!!"
ピッチャーを乱暴に机に置くと、ジルは吐き捨てるように言い放つ。
「伯爵令嬢ごときが身の程知らずなことをするからよ。いいこと?国王陛下の隣に相応しいのはこの私よ!王妃になるのも私なの!あなたなんかに渡したりしないわ!」
ローズを仕込んだ口汚く罵り、捨て台詞を吐いたあとジルは憤然と会場に戻った。
ここがパーティー会場じゃなかったら、ローズに平手打ちくらい喰らわせていたかもしれない。
それほどジルはイライラが止まらなかった。
「気に食わないわ、あの女!卑しい身分の分際でッ!!!」
ジルはブツブツと言いながら不意に口元を歪める。
「…大丈夫よ、王妃に選ばれるのは私なんだから。あんな小娘にアイトレア様が振り向く筈がないもの。お父様だってそう望んでいる筈だもの。」
ジルは窓から月を見上げ、高慢に微笑んだ。
読んで頂きありがとうございます!
3分割くらいにすると前に書きましたが、
もう少し分割するかもしれないです。
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