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【友愛の形は永遠に】

友愛物語の最終回です。


眩い光が部屋中を包み込み、兵士たちは雄叫びを上げて顔を押さえる。

そして、森にいた兵士たちと同じく、皮膚が赤黒く変色し腐り落ちた。


ジルも短剣を床に放り投げ、悲鳴を上げて激しく藻掻きだす。


スピナがその隙にローズとルザナを部屋の隅へ移動させる。



「なん、でェ…!?お父様っ、私は"順応している"って、言ったじゃ、なっ…!!!」


ジルは激しくのたうち回ると絶命した。



ロザラム公爵も顔を手で押さえてはいるが、微動だにせず皮膚も変色してはいなかった。


「今だ!ロザラム公爵を取り抑えろ!!!」


アイトレアが叫ぶと騎士たちがロザラム公爵に向かって走り出す。



「来るな!!!!!」


ロザラム公爵は咄嗟にぐったりと横たわるシトリーの首に、ジルの落とした短剣を添わせ人質にした。


そのせいで騎士たちは動きを封じられる。



「何故、ロザラム公爵だけ平気なんだ…?人魚の血を摂取しているのに、何の変化も無い。」


イオが呟くのにロザラム公爵は笑って答える。


「私は"特別"なんだ、他の者とは違う。初めて人魚の血を飲んだとき、肌は若々しく蘇り、体の底から力が漲った。ロザラム公爵家の歴代当主たちは皆、人魚の血を飲んだが、順応出来ずに肉が腐り落ち死んでいった。だが、私は何年も血を飲み続けても健康そのものだ!私は正真正銘の"不老長寿"を手に入れたのだ!!!」


醜く歪んだ顔でロザラム公爵は高笑いするが、不意にピタリと笑いが止まった。



アイトレアは驚きで目を見開く。


シトリーがナイフでロザラム公爵の腹を刺したのだ。



ロザラム公爵はよろりと後ずさると、ナイフが刺さったままの腹を押さえる。


「貴様っ…!何を…!?」


シトリーは肩で息をしながらロザラム公爵を見つめる。


ロザラム公爵がナイフを抜き取ると、血と一緒に傷口からドス黒いモヤが溢れ出てきた。


モヤは漏れ広がり公爵の全身を包み込む。


シトリー以外にも黒いモヤが視認できるほど、濃く邪悪なオーラを放っていた。




ーーこれは"人魚の呪い"だ。


目先の欲に目が眩み、下卑た下心で人魚を殺した者たちへの、人魚からの報復である。


熟した呪いは時間を掛けてロザラム公爵を蝕み、骨の髄まで腐らせた。



「クソッ!こんなところで死んでたまるか!あぁ!!クソクソクソって!!!!ぐぅっ、があぁ、ぐぁっ、がぁああああああ!!!!!」



ロザラム公爵は部屋に響き渡る雄叫びと共に塵となって霧散した。




「ローズ!!!シトリー!!!」


アイトレアは素早くローズの元へ駆け寄る。


床に座り込むローズの肩を抱いてゆっくり立ち上がらせると、椅子に座らせる。

ルザナはローズが守ったお陰で無傷だった。


イオはシトリーの傷口を診る為、服を捲ると驚愕した。

刺された筈の腹の傷は跡形もなく消えていたのだ。



「人魚には、個人差があり、ますが、再生、能力が、あります…。大抵の傷、なら、すぐに、治ります。…ですが、失った血液は、元に戻り、ません…」


そう語るシトリーの顔色は元の白さより青白く、冷や汗をかき、脈拍も早い。


あれだけの大量の血が流れたのだから失血しているのは明白だった。




「では、どうすれば…。このままでは、あなたは死んでしまいます。」


イオは狼狽えた。


アイトレアがローズの肩を抱きながらシトリーの元へ行く。



シトリーはローズが抱いているルザナを見て微笑んだ。


「良かったです、皆さんが、ご無事で…」


「シトリーのお陰だ。このブレスレットが守ってくれた。私やイオ、ローズやルザナの命も、みんなシトリーが守ったんだぞ!」



アイトレアが涙を流しながら叫んだ。

ローズもスピナも、イオまでも涙を流していた。


シトリーは今までの出来事を走馬灯のように思い出していた。




人魚の国を追い出され、アイトレアたちと出会い、名前を付けてもらったこと。


初めてパーティーに出たこと。


美しいローズに出会い、シトリーを介抱してくれたこと。


アイトレアとローズが結婚したこと。


ローズが身篭り、元気な赤子の胎動に吃驚したこと。


ルザナが産声を上げ、小さな手のひらがシトリーの指を握り、その小さな体の生命の力強さを感じて感動したこと。



ーー生まれて初めて人の愛を知ったこと。


ーーその愛を強く守りたいと思ったこと。




シトリーの両目から大粒の涙が溢れた。


涙は陽の光を浴び、美しい琥珀色の宝石に変わる。


夕陽を閉じ込めた暖かい色の"シトリン"は、シトリーの手元で優しく輝いた。



「これ、を、このシトリンを、受け取って、くだ、さい。あなたたちへの、今までの、感謝の、"友愛の証"、を私から、贈り、ます。」


シトリーはアイトレアにシトリンを差し出す。


アイトレアは涙で濡れた顔で受け取ると、シトリーを優しく抱き締めた。


「ありがとう、これは国の宝だ。…頼む、頼むから死なないでくれ!!!」


アイトレアの温もりを感じながら、ローズ、イオ、ルザナ、スピナやユアンの顔を見ていく。


シトリーは微かに笑うと、静かに息を吐き、ゆっくり目を閉じた。






***


悲劇の惨状から数年、ルーロライト王国に平穏が戻ったある日。



成長したルザナ王子が王宮の廊下を元気に走り回っている。

それをローズが優しく窘める。


ローズのお腹は再び大きくなり、なんと二人分の命が宿っていた。


ルザナ王子は兄になる喜びで飛び回っている。


その腕にはタンザナイトがあしらわれたブレスレットが輝き揺れていた。



ローズとルザナはアイトレアの待つ部屋へと向かう。


扉を開けると部屋の奥に台座が置かれ、ベルベット生地の布の上に光り輝く琥珀色の宝石"シトリン"が祀られていた。


アイトレアは振り向くと二人を手招きして、身重のローズの肩を抱いて椅子に座らせる。


ルザナは美しいシトリンに目を奪われ、先ほどまでのはしゃぎっぷりが嘘のように大人しくなった。


アイトレアはルザナの小さな肩を抱いてシトリンを見つめ、ローズも優しく微笑む。



ルザナは父から語られる遠い異国から来た人魚の話をいつも楽しみにしていた。


このシトリンはその人魚から贈られたものだと聞いて、ルザナはますますシトリンに魅入る。



陽の光を浴びた"友愛の証"は、いつまでも三人を優しく見守っていた。



読んで頂きありがとうございます!


レモン色の友愛物語シリーズ無事終わりました!

この他にも番外編なども予定しておりますので、

お楽しみ頂けると嬉しいです。


感想や評価など頂けると励みになります!

よろしくお願い致します。

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