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【希望の誕生と悪魔の誘惑】

赤ちゃん生まれます。


シトリーが生まれて初めて胎動に触れてから2日後。

お昼寝から起き上がろうとしていたローズが突然破水した。


そしてそのまま陣痛が始まり、いよいよ出産の瞬間が近付いてきた。



アイトレアたちは別室で待機し、シトリーや助産師、看護師たちがローズの部屋へ次々と入っていく。


あっという間に辺りはメイドたちがお湯を沸かしたり、大量のタオルを運んだりと慌ただしくなった。


ローズが産気づいたと聞き付け、上級貴族たちも数名集まりだした。



ローズは陣痛がひどく痛むのか顔を顰めて大粒の汗をかいている。

シトリーは助産師のアドバイスでローズの腰の辺りを強く押したり、扇子で仰いであげたり、声を掛けたりと一生懸命サポートに回っていた。


命を宿し産むというのはこんなにも大変なことなのかと、シトリーは愕然としていた。


いつも穏やかな表情のローズが今は、押し寄せる痛みの波に必死に耐えている。

最初の陣痛からもう3時間も経っている。


生まれてくる子供もお腹の中で頑張っているんだよと教えられ、シトリーはローズの手を優しく握った。



「ローズ様…!」


ローズが息を吸い込み踏ん張った次の瞬間、甲高い大声が部屋中に響き渡った。


シトリーが振り向くと、助産師の一人が白いタオルに包まれた小さな子供を抱き抱えていた。


「おめでとうございます、王妃様。元気な王太子様でいらっしゃいますよ。」


ぎゃー!と口を大きく開けて泣く赤ちゃんを胸の上に乗せられたローズは、涙を流しながら赤ちゃんの小さな手を握った。



別部屋で待機していたアイトレアたちの元にメイドが駆け込んできた。


「お生まれになりました!」


急いでローズの待つ部屋へ駆け付けたアイトレアは、ローズとその胸の上に寝かされている我が子を見て、自然と涙が溢れた。


「国王陛下、元気な王太子様です。」


助産師からタオルに包まれた待望の我が子を受け取り、その重さに緊張しながらローズの隣に座った。


「ローズ、元気な子を生んでくれてありがとう。見てごらん、目元がローズそっくりだ。」


「ふふ、本当に。くせっ毛なところと口元のホクロは陛下に似ているわ。」


シトリーはアイトレアの傍に寄り、覗き込むと赤ちゃんは口元をむにゅむにゅさせていた。



思わず赤ちゃんの小さな掌に指を乗せてみると、小さい見た目からは想像が出来ないくらい力強く握られ、胸が暖かい気持ちになり涙が溢れた。


シトリーの涙は宝石に変化しながら、赤ちゃんを包むタオルの上に落ちた。


それは、"明るい未来を象徴する"と言われる"タンザナイト"だった。


深い海の色を映すその宝石は、生まれてきた子供の髪と同じ色だった。



「これは"タンザナイト"か?"希望"を象徴する美しい宝石だ。私たちの希望でもあるこの子にぴったりだな。ありがとう、シトリー。」


アイトレアはタンザナイトを子供の手に乗せる。


小さな希望の子は、青く輝く宝石を力強く握った。



「もう王太子様のお名前はお決めになられていらっしゃるのですか?」


スピナがローズの額の汗を拭きながら尋ねる。


「あぁ、ローズと二人で決めてある。この子の名前は"ルザナ"だ。この国の古い言葉で"永遠の光"という意味があるんだ。」


シトリーはまた涙が溢れそうになるのを堪えた。



待望の王太子誕生に国中が祝福を贈った。


多くの人々の祝福と"永遠の光"と"希望"を一身に受け生まれたルザナは、これから更に多くの人に愛されるだろう。



***


ルーロライト王国の王太子ルザナが生まれてから1ヶ月が経ち、ルザナは目がパッチリ開いてきた。


やはり髪の色と同じ深い青色で、顔立ちはローズ似だが、それ以外はほとんどアイトレアのミニマムサイズといった感じだ。


表情も豊かになり、アイトレアがあやすとキャッキャと笑う。


幼いルザナにとってシトリーは良き遊び相手で、今日もぬいぐるみで遊ぶ予定があった。



シトリーはルザナと遊ぶ前にローズに"あるもの"を渡していた。


それは、出産の際にシトリーが流した涙で出来た宝石、タンザナイトで作られたブレスレットだった。


「まだルザナ殿下には大きいですが、いつかご成長なされたときに御守りとして付けて頂けたら嬉しいです。」


「ありがとうシトリー。きっとこの子もとても喜ぶわ。」


シトリーは嬉しそうに微笑むと、アイトレアとイオの方へ向く。


「実は、陛下とイオ様の分も作ったんです。ちゃんとそれぞれ"ベニトアイト"と"アイオライト"で。」


どちらも美しい青色と藍色の宝石が煌めくブレスレットは、神秘的な光を放っていた。

もちろん、シトリーの涙から作られた宝石だ。


「皆さんに作ったブレスレットは、それぞれ持ち主のことを想って祈って作りました。御守りとしての効果はお墨付きですよ!」


得意げに微笑むシトリーに、アイトレア、ローズ、イオ、そしてスピナまでも幸せそうに笑った。





しかし、そんな平和な雰囲気をぶち壊すように騎士たちが緊迫した表情で部屋に現れた。


入り口に立っていた護衛の騎士が何事か尋ねると、騎士は顔面蒼白なまま報告する。


「ロザラム公爵領内のリヒト村で、隣国シャルテン王国の賊兵たちが略奪を行いました!」


「何!?」


ロザラム公爵領内にあるリヒト村は、ルーロライト王国と隣国シャルテン王国との国境付近に位置する小さな村だ。


そこでシャルテン王国の賊兵たちが無断で越境、略奪を行ったとすれば国際問題になる。


下手したら戦争だ。



アイトレアとイオはすぐさま現場に向かうことになった。


「陛下…」


ロザラム公爵領と聞いてシトリーは嫌な予感がした。


ロザラム公爵家と言えばジルのことしか知らないが、あんな性格の娘を育てた父親だってきっと碌でもない人物に違いないと不安になった。


もしかしたらロザラム公爵自身がワザと何か事を起こしたのではないか?と疑ってしまう。



「シトリー、君はローズと一緒にルザナのことを見ていてくれないか?大丈夫だ。スピナもいるし、シトリーの分も合わせて護衛騎士は4人も居る。ここの守りは強固だよ。」


「しかし、陛下はっ…!」


「私にも騎士は付くし、何より剣の腕には自信があるんだ。それにイオだって剣の腕前は王国随一だぞ。」


イオはローズとシトリーの前で跪く。


「私が必ずや命に代えてでも国王陛下をお守り致します。」


見ると、ローズも不安そうな表情でアイトレアを見つめている。


アイトレアはローズに寄り添い優しく頭を撫でる。



「大丈夫だ、必ず無事に戻ってくるから安心して待っていてくれ。ルザナのことを頼む。」


そう言うと、アイトレアとイオは騎士たちを引き連れ足早に部屋を出ていった。


読んで頂きありがとうございます!


待望の王太子誕生ということで、アイトレアもローズの父親と同じく大層な子煩悩になりそうです。


次回は少しグロテスクな場面がありますが、波乱の展開ばかりですので、お楽しみ頂けると嬉しいです!


感想や評価など頂けると励みになります!

よろしくお願い致します。

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