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【人魚の国から】

話が進んでいくごとに少しシリアスな雰囲気になります。


残酷な描写もありますので、ご注意ください。


ルーロライト王国の若き国王、アイトレア・ギルフォードは20歳で即位してから多忙な毎日を送っていた。


朝から貴族との面談や会合、外交官との会談、他国との条約案を起草させたりと休む暇が無い。


しかし、生来の真面目さと聡明さ、優秀な国王としての素質を兼ね備えたアイトレアは、そつ無く職務を全うしていた。


そんな彼も即位して3年が経ち、周りの貴族たちからそろそろ王妃候補を選ぶべきだと急かされていた。


しかし、王太子時代に地位や金目当てで擦り寄る令嬢たちやその親に心底辟易していたアイトレアは、結婚に対して消極的だった。


国王として子を成すことが義務であることは重々承知しているが、なかなか気が進まない。


一番の側近であるイオ・カーライル公爵は、そんな国王の為に由緒正しき上級貴族の中から美しく気品に溢れた令嬢たちを選び出した。


イオはアイトレアの2歳年上の乳兄弟であり、幼い頃からの気安い関係だ。



「陛下、気がお進みにならないのは分かりますが、そろそろどの娘にするかお選びになりませんと。」


「分かっている。…だが、これまでの野心に満ち溢れた目の令嬢たちを思い出すと正直、気が重いな。」


イオがまとめた令嬢たちに関する書類を見つめていたアイトレアは、本日幾度目かのため息をついた。



そのとき、廊下からドタバタと喧しい足音が響いてきた。

イオが注意しようと扉の方へ向かうと、二人の兵士が勢い良く入ってくる。


「お前たち!陛下の御前で不敬であるぞ!」


イオの叱責が飛んだが、兵士たちは余程慌てているのか息が荒い。


「どうした?何事だ?」


兵士たちに落ち着くよう促してアイトレアが聞くと、兵士の一人が叫ぶように報告した。


「に、人魚を捕らえました!」


「人魚だと?どういうことだ、どこで捕らえた?」


「海岸の砂浜に打ち上がるように倒れておりまして、警備兵が見つけました。」




"この世界には人魚がいる"


そのことは建国以前の時代から伝えられてきた。


大昔、人間と人魚はお互い干渉し過ぎず、適度な距離で共生していたが、人間のある一族が"不老長寿の妙薬"として、人魚の生き血を欲しがり、人魚狩りを行ったのだ。


それ以降、人魚は決して陸に近寄らず、深い海の底に国を築き、鎖国のように国から出ることを決して許さず、ひっそりと静かに暮らしている。


そんな暮らしをしている筈の人魚が陸に上がるなど信じられないことだった。



「その人魚のもとへ案内しろ。」


アイトレアとイオは兵士に導かれ、王宮の外にある塔の部屋へ向かった。

人魚は一時的にそこへ収監されていた。


その部屋には、大きい湯桶に水が張られ、その中に首と手首に拘束する為の鎖を付けられ、口にはタオルが噛まされている人魚がいた。


アイトレアが呆気にとられたのは、その人魚の"色"だった。



書物には人魚の特徴として、"朱や藍、菫など色とりどりの鮮やかな鱗と髪を持つ"と記されている。


しかし、目の前にいる人魚は、髪から鱗から全てが真っ白に輝いていた。

肌も雪のような白さで、瞳の色だけが燃えるような琥珀色だった。


おまけに人魚というのは女性体がほとんどで、男性体は滅多に生まれない。

生まれたとしてもかなり短命である。


真っ白な人魚は、上半身は何も身に付けていなく、女性特有の乳房の膨らみも無い。

珍しい男性個体だろうか、と皆が思った。


人魚は怯えた様子も無く、アイトレアをじっと見つめている。


アイトレアは兵士たちを外へ待機させ、人魚に噛ませているタオルをイオに取るよう指示すると、人魚と目線を合わせるように屈んだ。



「言葉は話せるのか?」


人魚はじっとアイトレアの様子を見たあと、ゆっくり口を開く。


「…話せます。あはたは誰ですか?」


想像より流暢に話す人魚に驚きながらアイトレアは自己紹介をした。


「私は、ルーロライト王国国王アイトレアだ。こちらにいるのが側近のイオ。」


イオが軽く頭を下げる。



人魚はふと何かを考え込むような仕草をしたあと、不意ににやりと笑った。


「アイト…イオ…。お二人共、お名前に宝石がありますね。ふふっ、面白い!」


アイトレアとイオは何のことかと訝しんだ。


「どういうことだ?」


「"ベニトアイト"の中に"アイト"、"アイオライト"の中に"イオ"があります。」



アイトレアとイオは狐につままれたような顔になった。

ふとして、アイトレアが堪え切れずに吹き出す。


「ふっ、確かにそうだな。言われるまで気が付かなかったよ。…確かアイオライトには"誠実"という意味があったな。イオにぴったりじゃないか。」


「陛下、お戯れを…」


いつもキリッと真面目な顔をしているイオも、いつの間にか柔らかな表情になっている。


おそらく不慮の事故で砂浜で倒れ、いきなり人間に捕まって恐怖心やら不安やらで怯えているかもと思ったが、思ったより豪胆な気質らしい。



「そうだ、君の名前を聞いてなかったな。何て言うんだ?」


アイトレアが聞くと、先ほどまでの楽しそうな表情から一変、顔を伏せ黙り込んでしまった。


「すまない、無作法だったな。無理に答えなくてもいい。ただ、名前を呼ぶのに不便だと思ってな。何か…」


「名前はありません。」



人魚はアイトレアを見つめハッキリと告げる。

その瞳にはどこか寂しさを湛えた、悲しい瞳だった。

まるで、夕陽が沈んでしまうような…。



「不躾で申し訳ありませんが、どうしても聞かなくてはならないので質問します。あなたは人魚の国から来られたんですよね?どうして砂浜で気を失っていたんですか?」


イオが質問すると、人魚は目を伏せたまましばし逡巡したあと、ポツポツと話し始めた。

読んで頂きありがとうございました!


話全体はそんなに長くは無いのですが、

区切った方が読みやすいかな、と連載にしました。


執筆初心者な為、拙い文章・内容ですが、

どうかご容赦ください。


続きも楽しみにして頂けると励みになります。

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