第52話 少女の夢④
「なんでなんだ……」
俺は頭の中が真っ白になった。
できるできない以前に、ループのクリア条件が分からない。
もしかしたら、俺は一生、ここから出れないのかも知れない。ここで、無限に一週間を過ごすのだ。
死ぬことすらできない無限ループ。
それは、地獄以外の何者でもない。
「考えろ」
かならずヒントがあるハズだ。
「考えろ」
本当に無限ループなのか?
少なくとも、一輝が無事だった最後の一回は、少し違った。
「何が違った?」
試合の展開が違った。
途中まで負け越しだった。
「それ以外には?」
行き道でへんな神社を見つけた。
あれも、最初のループでは無かった。
それ以外には……。
いくら考えても、それ以上は分からなかった。
「あの神社にいってみるか」
神社までつくと、周りをぐるりと回った。
すると、正面に「雨宮神社」と書いてあった。
雨宮……。
どこかで聞いたような。
「雨宮 桜良!!」
そうだ。花鈴に巫女修行をさせた子だ。
あの時、俺も神社で不思議な経験をした。
ここなら、何か糸口がつかめるかも知れない。
境内をウロウロしてみたが、参拝客はおろか、神社関係者もいない。桜良もいないようだった。
くそっ。
もうここにすがるしかないのに。
いやでも出てこさせてやる。
俺は賽銭箱をグラグラと揺らした。
もう少し力を加えれば、簡単に倒れそうだ。
「ほらほら。はやくどうにかしないと、賽銭が飛び散るぞぉ!!」
……。
ダメか。
押してダメなら、殊勝な態度でいくしかない。
俺は賽銭箱に10円を投げ入れると、手を合わせた。ええと、何か唱えた方が効果あるかな。
たしか花鈴が……祝詞を唱えてたっけ。
俺は、花鈴の真似をした。
「掛も畏き 大神の 御前に、白さく 我家の妻 毎月の障りを、見る事なく 身重り來て……」
すると、突然、背後から声をかけられた。
「おいおい。それは安産祈願の祝詞だよ? 君は実は女の子なのかい?」
振り返ると、美しい巫女さんが居た。
年齢は30代後半だろうか。巫女さんではなくて、宮司さんかもしれない。どことなく、桜良に似ている。
「いや、ちょっと困ったことになってまして」
すると、女性は下唇に指を添えた。
「ふぅむ。これまた珍しいお客さんだ。夢見人か。お前さん、どこから来たんだい?」
今まで何回もループしていること。
一輝が助かったのに、ループが終わらないこと。俺は思いつく限りの事情を説明した。
突拍子もない話なのに、巫女さんは頷きながら聞いてくれた。
「なるほど。それは願いが叶ってないからだね」
「願い? 俺の願いは叶いましたよ。一輝は無事だったし」
「君の願いとは限らないよ。君が最初にこの世界に来たとき、他に誰かがいなかったかい?」
え。たしか……。
寝る直前まで花鈴と話していた。
ってことは、これは花鈴の夢なのか?
寝る前、花鈴は……、何をしていたんだっけ。夢うつつでよく覚えていない。
「人には心当たりがあります」
巫女さんは微笑んだ。
「その人には会えそうかい?」
「会えるとは思うんですけれど、ここのその子は、俺を嫌いっぽくて……」
巫女さんは、巫女舞のような動きで右手をかざすと、持っていた神楽鈴をシャンシャンと鳴らした。
「ふうむ。縁があれば、きっと話を聞いてくれる……君が無事に帰れるように願ってるよ」
そうなのかな。
そうだといいのだけれど。
「ありごとうございました!!」
俺が帰ろうとすると、巫女さんに呼び止められた。
「これ……。もし君が無事に戻れたら、神社の娘に渡してくれないかな?」
神社の娘って桜良だよな。
変な事いう人だ。自分で渡せばいいのに。
でも、お安い御用だ。
俺は封筒を受け取って言った。
「わかりました。必ず」
すると、巫女さんはニコニコした。
「……これ、もっていくといいよ」
巫女さんは青い鈴を渡してくれた。
「これは?」
「迷い祓いの鈴。うちの神社の名物なんだ」
「ありがとうございます」
「花鈴ちゃんも鈴。花梨じゃなくて花鈴。きっとご縁があるかもね♡」
「え。なんで花鈴の名前を知ってるんですか?」
俺、花鈴の名前を言ったっけ?
すると、巫女さんは、ペロッと手のひらを差し出した。
ん。
なんだろう。
「1個 3,000円 キャッシュレス不可。現金のみね♡」
「え? 金とるの?」
「当たり前だよ。巫女さんもご飯食べないと死んじゃうんだぞ?」
俺は3,000円を渡して、神社を後にした。
鈴1個で3,000円って、高すぎだろ。
原価率1%とかなんじゃないか?
なんか霊感商法に遭った気分なんだが。
まぁ、いいか。
早速、行動を起こすことにした。
このまま花鈴の家に行ってみよう。
花鈴の玄関に立ち、インターフォンを鳴らすが、誰も出てこない。
誰もいないのかな。
1分ほどして、もう一度、押してみた。
すると、バタンバタンという大きな音がして叫び声が聞こえた。
「キャー!! 助けてぇ」
花鈴の声だ。
すごく緊迫している。
もしかすると、今は家に誰もいないのかも知れない。花鈴が困ってる。
ガチャガチャ。
ドアハンドルを引くと、鍵はかかっていないようだった。
「入るぞ!!」
俺は家の中に入った。