第51話 少女の夢③
あれから何度かループして、分かったことがある。ここの花鈴は普通の女の子で、魔女の血を受け継いでいない。
俺のことも知らない。
そして、俺はこの街と予選会場以外に出れないらしい。前回のループで紫乃に会おうとしたのだが、できなかった。
繰り返すたびに一輝が倒れる姿を見て、そろそろ俺の頭がおかしくなりそうだ。
あと何度も耐えられるとは思えない。
だから、今回は正攻法で行こうと思っている。
決勝戦の前日の夕方、おれは一輝の家に行った。
インターフォンを鳴らす。
ドアがあいて、一輝が出てきた。
「おう。光希、こんな時間にどうした?」
俺は土下座した。
無様な方法だが、色々と試して、全部ダメで。これしか思いつかなかった。
俺は頭を地面に擦り付けた。
「頼む。理由は言えないけど、明日の試合、途中で降板してくれ……」
頭を何度も地面にぶつけ、そのうち視界が赤くなった。鼻血がでて、目に入ったらしい。
一輝は特大のため息をついた。
「わーった。親友の頼みだ。明日、途中で肩痛いって言って降板するわ」
「わるい、お前が3年間必死だったの知ってるのに、ほんとごめん……」
一輝は俺の肩を持ち上げた。
「お前がそこまでするんだ。よっぽどな理由があるんだろ? 肩の調子がよくないのは事実だしな。それに、花鈴も同じようなこと言っててさ。しかたねーよ」
次の日、俺は決勝戦を観戦に行った。
会場は駅から15分ほどの道のりだ。
蝉がミンミンと鳴く歩道を歩き続ける。
この道を通るのは何度目だろうか。
もう、二度と通りたくない。
それにしても暑い。
会場に着く前に、倒れてしまいそうだ。
ふと日陰に入ると、途中に神社があった。
こんなの前回もあったっけ? ……いや、なかった。
なんだか、見覚えがある気がする。
前に、お参りにきたことがあるのかな。
俺は頭を振った。
……それよりも、今日の試合だ。
一輝は約束を守ってくれるだろうか。
一輝にとっては一世一代の重要イベントだ。試合の経過によっては、気が変わってしまうことも、十分ありえる。
不安な気持ちのまま……試合が始まった。
試合は毎度の同じ展開だが、ウチの高校は、5回裏で2失点した。前回は一輝が倒れるまで、1点リードしていたのに、展開が変わっている。
チームが負け越しなのだ。
一輝は降板なんて絶対にしたくないハズだ。
頼む……。
一輝。たのむ……。
その後、うちの高校は8回に1点、9回面に1点を取り戻し、同点まで追いついた。
一輝は何度かこっちを見たが、バツが悪そうに俺を見ると、投げ続けた。
投球数はもう170球を超えている。
9回裏。ここで失点すれば、負けが確定する場面だ。一輝は絶対に投げたいはずだ。
それに、一輝のピッチングは飛び抜けている。投げなければ、きっとチームは負けるだろう。
だが、登板したのは2年の控え投手だった。
イヤな予感がした。
もしかしたら、一輝に何かあったのだろうか。
既に倒れているとか。
必死に一輝を探すと、一輝がベンチで肩を押さえているのが見えた。どうやら、肩の不調を訴えて、降板してくれたらしい。ごくごくとドリンクを飲んでいるのが見える。
……よかった。
よかった!!
一輝は無事だ!!
やったー!!
俺はその場で飛び跳ねてしまった。
よかったな。一輝。
これで野球を続けられるぞ。
でも、ごめんな。
試合には負けてしまうかも知れない。
すると、突然、視界が真っ暗になった。
…………。
……。
目を開けると、見慣れた天井だった。
(目的クリアで戻れたのかな?)
横をみると、花鈴はいない。
壁にはブレザーではなく、学ランがかかっている。
えっ。ここは前俺の部屋だ。
……なんで?
一輝が死ななければ、戻れるんじゃないのか?
俺はまたループしてしまったらしい。




