第49話 少女のゆめ
さっき、魔女っ子勉強会を見ていて思ったことがある。もし、一年経って俺が元の世界に戻ったら、もう花鈴には会えないのかな。
それとも、花鈴も七瀬も、プロフィールが少し変わっただけで、どこかにはいるのかな。でも、年齢はどうなんだろう。
俺がアラフォーで花鈴が15歳だったら、たとえ見つけたとしても犯罪だ。
部屋の電気を消して、花鈴と布団に入る。
すると、花鈴はピタッとくっついてきた。
「なぁ。花鈴。もし、俺が元の世界に戻っちゃったら、もうお前に会えないのかな?」
すると、花鈴は俺の頬にキスをした。
「……会えるよ。ボク、きみと歳が離れても好きだから」
「でもさ。そもそも、出会えないじゃん」
「んー。ボクに兄貴がいたって話したことあったっけ?」
「いや。母さんにチラッとは聞いたけれど」
「そうかぁ。野球が大好きな兄貴でね。なんか熱血すぎて汗臭いんだ。でも、甲子園を期待されるほど頑張ってて」
「甲子園……。花鈴はお兄さんを好きだった?」
甲子園って、まるで一輝みたいだ。
でも、高校球児なら、みんな目指すものだもんな。
「うん。兄貴はどう思ってたか分からないけど。あんなことになるなら、ちゃんと伝えればよかった」
「そっか……」
あんなこと……花鈴のお兄さんも亡くなったのか。一輝と同じように試合中になのかな。
そうだよな。いきなりお別れがくるなんて思わないもんな。あの日の俺も、突然、親友との別れがくるなんて、夢にも思わなかった。
花鈴が俺の頭を撫でた。
…………。
……。
いつの間にか、寝てしまったらしい。
目を開けると、見慣れた天井が見える。
横を見ると、花鈴はいなかった。
お風呂にでも入ってるのかな。
でも……。
何か違和感がある。
俺は周囲を見渡した。
壁には、都護夜のブレザーではなく、懐かしい学ランが掛かっている。
俺はベッドから飛び起きて、机の上をみた。
すると、勝手に置かれていた花鈴のぬいぐるみがない。
ピピピピ。
スマホのアラームがなった。
俺はアラームを消す。
すると、見たことのない待ち受けだった。
俺が階段を駆けおりると、包丁の音が聞こえた。すると、母さんが朝食を作っていた。
「おはよ。光希。早くシャワー浴びちゃいなさい。高校に遅れるわよ」
よかった。
母さんは同じだ。
「母さん。花鈴は?」
「花鈴? 誰それ」
「従姉妹の花鈴だよ!!」
母さんは料理の手を止めて、俺の方に振り向いた。
「はぁ? 何言ってるのよ。あんたに女の子の従兄弟なんていないじゃない。大丈夫? へんな物でも食べたんじゃないの?」
母さんは首を傾げ、不審そうな顔をしていた。
俺は洗面所に走った。
すると、鏡に映った自分は、若かった。
前俺の世界に戻ったのか?
……だが、前俺の高校時代にはガラケーしかなかったのに、ここにはスマホがある。
ピンポーン
インターフォンがなった。
この時間に来る人なんて限られている。
柚乃かも知れない。
柚乃……。
不安で不安でたまらない。
俺は玄関に走り、ドアを開けた。
「よぉ。光希、今日、朝練いけなくてさ。たまには一緒にいこーぜ」
そこにいたのは、懐かしい顔。
親友の一輝だった。