第48話 秘密の勉強会。
イラストをつけました。
左が七瀬、右が花鈴です
今日は俺の部屋に花鈴と七瀬がいる。
小さき者と黒き者の魔女の勉強会らしい。
俺は部外者なのだが、なにせ花鈴と同居なので、おれはその様子を眺めている。
なにげに花鈴は面倒見が良いらしく、七瀬に色々と教えている。
花鈴も魔法書の原文は読めないようだ。だが、最近は魔女の世界もテクノロジーの恩恵をうけているらしく、「魔女っ子アプリ」とかいうものがあるらしい。
2人はこのアプリで魔法書を翻訳している。
そして、AI英語のように、発音のチェックもしてくれるらしい。
魔女の魔法書は一子相伝のため、アプリ自体に魔法は記憶されないよう配慮されている。中には、魔女っ子SNSや、バイト募集、魔力トレーニングゲームなどが入っている。
ほんと、便利な世の中だ。
七瀬は、アプリのゲームで遊んでいる。魔力感覚が研ぎ澄まされるらしい。
手を止めると七瀬は言った。
「花鈴ちゃん。ハイスコア更新したよ!!」
「おおっ。って、まだまだボクには及ばないけど。どれ、んじゃあ、眼を使って光希をみてみて」
七瀬がこっちを真剣な眼差しで見ている。
美少女にそんなに見つめられると、なんかドキドキしてしまう。
七瀬は何やら興奮した様子でいった。
「花鈴ちゃん。光希の周りに鎖が見えるよっ。ん。赤いのと青いの。赤と青の鎖でがんじがらめになってる!!」
は?
前は赤い鎖だけだった気がするのだが。
「花鈴、青い鎖って……何?」
俺が問うと、花鈴は横を向いて、鳴らない口笛を吹いた。
七瀬は言った。
「青いのって、花鈴ちゃんのだよね? なんで?」
「ボ、ボクしらない……」
なにやら悪さをされてるのか?
「花鈴。言わないと絶交だよ?」
花鈴は泣きそうな顔になった。
「ちゅ、ちゅうしたから……君にボクの鎖が届くようになった」
「目的は?」
「……」
「目的は?」
「光希をこの世界に縛り付けるため……。だって、赤い鎖が切れたら、光希がいなくなっちゃう……、だから、だから……うぅ」
花鈴は泣いてしまった。
どうやら、2本目の鎖で保険をかけてくれてるらしい。
ほんと、天使みたいな子。
自己評価より一万倍は良い子だ。
俺は花鈴の頭を撫でた。
「花鈴。ありがとう」
「あのね。もし、もし、赤い鎖が切れちゃったら、ボクはまだ未熟者で力不足だから。ボクの寿命を贄にしてでも、光希をこの世界に留まらせるから」
「……そこまでしなくていいよ」
俺はやり直しの人だ。
花鈴の寿命の方が、ずっと大切だ。
……それにしても、愛されてるなぁ。
おれも花鈴に、きちんと気持ちを伝えた方がいいのかな。でも、まだ紫乃のこと忘れられてないし。どうすればいいのか分からない。
すると、七瀬がパンと柏手を打った。
「じゃあ、わたしもできるようになったら、鎖3本になるし。不完全な鎖でも、2本あれば支えられるんじゃないかな?」
花鈴は頷いた。
「うん。だから七瀬に魔法を教えてる。でも、もう一年ない。本気で取り組まないと間に合わない……」
七瀬は魔法書をパラパラとめくった。
「あ、これかな。留世の秘術。……えと、術者の技量が足りない場合には、命を対価に捧げることで術を維持できる……。光希の魂を、この世に留める必要があるって、どういうこと? 光希は違うとこから来たの?」
花鈴が言ってるのはマジなのか。
俺は一年経ったら、どうなるのか。
よく分からないが、少なくとも良い感じではないのだろう。
だから、花鈴は魔術を使ってくれている。
ちゃんと伝えとかないと。
「あのな。2人とも。気持ちは嬉しいけど、自分の命を削るとか絶対やめてな。おれは、今2人といれて楽しいし十分だから」
花鈴はふくれた。
「イヤだ。光希いなくなったら、どうせボクも死ぬし」
本を読んでいた七瀬は何かを発見したらしい。本を読み上げる。
「留世の秘術……対象の魂を使用者と同じ世界に留める。術の効果中、対象は使用者以外と性行為ができない。なにこれ。ずるいっ」
性行為できない……なにやら後半の効能が物騒すぎるんだが。
七瀬は人差し指で俺を指した。
「わたし気づいたんだけど、この魔術をつかえるようになっても、術を完成させるには、光希とキスしないといけないんじゃない?」
たしかに。
そんな感じはする。
花鈴は、それは断固拒否らしい。
不意に花鈴に頬に触れられ振り向くと、またキスをされた。花鈴は、七瀬に見せつけるように、露骨に舌を入れてくる。
そして、好き勝手して唇をはなした。
「……はぁはぁ。この通り、ボクと光希は既にそういう仲だし。七瀬が入り込む余地ないし」
七瀬は唇をアヒルのようにすぼめた。
「アタシだって……」
七瀬も俺に抱きつこうとした
「ちょっと、やめ……」
俺が制止しようとすると、ドアが空いた。
……母さんだった。
バタン。
母さんはそのまま無表情でドアを閉めた。
「………」
「………」
「………」
…………。