第44話 絢香と土曜日。
いつもありがとうございます。
イラストをつけました。花鈴です。
俺は花鈴にグリグリをした。
「いたい!! なにすんだよぉ」
「いやさ。おれ、分かりたくもない事実に気づいてしまったんだ」
「なんだよっ」
「色々、お前が原因だ」
「冤罪だっ」
「ところで、空ってモテるの?」
「しらん。女子の間では密かに人気があるようだけど。あー、絢香がよくひっついてるな」
ふーん。
なんとなく分かったかも。
次の日、先生に頼んで陸を呼び出してもらった。
陸は俺の顔をみると、露骨にムスッとした。
「なんか用事っすか? あまり時間ないんだけど」
「千葉 空って知ってる?」
「クラスで一番目立つっすからね。当然、知ってます」
「どんなヤツなの?」
「空は勉強がめっちゃできて、運動もできる万能なヤツです。リーダーシップもあるし」
「絢香ちゃんは、空にいじめられてるの?」
「いや、そんなことないんじゃないっすか」
「じゃあ、絢香ちゃんをデブって言い出したのは誰?」
「言いたくないっす」
「空だろ?」
「…………」
陸は絢香が好きなのではないか。
もし、絢香も人気者の空を好きだとしたら。
絢香は好きな相手に中傷されていたことになる。
陸は空を庇ってるのではなく、絢香を守るために黙っているのかも知れない。
絢香もクラスメートに迷惑をかけて申し訳ないと思っているようだが、引っ込みがつかないようだ。
せめて、陸が弁明してくれれば……。
それに、幼馴染、……それも好きな子が自分を信じてくれないのは悲しいよな。
このまま話し合っても埒が開かなそうだ。陸は絢香に嫌われたままだし、合唱会もできないままだ。
やっぱ、陸にストレスをかけるしかないか。
結局は、俺がどんなに行き来しても無駄で、誤爆した陸本人が動いてくれないと、どうにもならない。
俺は陸の目線に合わせて言った。
「絢香と付き合いたくないの?」
「別にアイツとはそんなんじゃ……」
「ふーん。じゃあ、絢香は俺が貰うわ。あの身体、好みなんだよね」
陸は声を荒げた。
「嘘つくなよ!!」
「嘘だと思うなら、週末にデートするから、その目で確かめてみれば?」
俺は教室を出ると絢香にメッセージを送った。
「やっぱ、例のこと頼むわ」
土曜の昼。
俺は、駅前で待っていた。
すると、タタッと女の子が駆けてきた。
「お待たせしました♡」
絢香だ。
俺は今日、絢香とデートの約束をしている。
目の前に立った絢香は、制服と違って新鮮だった。フワフワのフリルにリボンがついたワンピースを着ている。
童顔で小柄な彼女によく似合っている。
なかなかどうして。思ったより可愛い。
「先輩♡ 今日はゴッコだけど、楽しみましょう。わたしも嫌なこと多くて、リフレッシュしたいんです」
今日の絢香は、前の印象と違って、フレンドリーで明るい。
「あぁ。今日は無理なお願いして悪かったな」
「ほんと、驚いちゃいましたよ。いきなり、『合唱会成功させたいからデートして欲しい』なんて言うんだもん。意味分からないし。でも、先輩が真剣に、わたしのことを心配してくれてるのは分かりました」
「助かったよ」
「でも、わたし、男の子とデートって初めてだし。実は楽しみで。昨日、ママとこの服買いに行ったんです」
「そっか。すごく似合ってるよ。……かわいいと思う」
絢香は笑顔になると俺の腕に抱きついてきた。
ボリューム満点な胸が、膝に押しつけられる。
俺は驚いた。
演技してとは言ったが、ここまでしろとは……。
「せんぱ……みつきくんって呼びますね♡ だって、仲良くしないとカップルに見えないじゃないですか。どこいきます? ……それと」
「それと?」
絢香は小声になった。
「万が一のために、可愛い下着もつけてます……♡」
万が一ってなんだ?
これくらいの年頃って、恋に恋してるんかね。
ただ、人生には、こういう馬鹿げた棚ぼた展開が一度か二度くらいはあるものらしい。前俺はことごとく見逃したけど。今俺には、その貴重な一度目が早々に到来してるっぽいぞ。
……んっ。
背中に視線を感じた。
陸だろう。
だが、それ以外にも鋭い獣の視線を感じるが、……うん、きっと気のせいだ。
さて、どこにいこう。
アラフォーらしくスマートにエスコートしないとな。
いや、アラフォーらしくするなら、いきなりラブホ直行か?
絢香の目を見ると、透き通っている。
楽しい1日を期待している目だ。
はぁ。
「ちょっと遠いけど、海浜公園いってみようか?」