第43話 えぷろん。
「こ、ことり。何してるの?」
「えっ? エプロン付けようと思って」
エプロンつける前にパンツ脱ぐとか、斬新なプロセスすぎる。
「先生。おれ、腹減りました。はやく夕飯たべたいです。あ、先生、デザートはワタシとかやめてくださいね?」
「チッ」
あれ、この人、いま舌打ちしたような。
そんなこんなで、先生は今、ハンバーグを焼いてくれている。じゅうじゅう音がして、肉汁のような匂いがする。
ガスコンロの周りには油汚れがついている。
フライパンも使い込み感があるし、普段から料理をしているのかな。
「どうぞ」
先生がハンバーグを出してくれた。
ポテトサラダとミニトマトが添えられていた。
先生のハンバーグは、手作りの味で美味しくて。女の子の手作りの料理なんて、久しぶりで。
「光希。なんで泣いているの?」
俺は泣いてしまったらしい。
先生は俺を抱きしめてくれた。
柔軟剤の匂いがする胸につつまれて、柔らかい。
「光希。……君は頑張りました。辛かったね?」
ことりは、俺の頭を撫でてくれた。この子は、思った通り、すごく優しくて温かい。
「ことり……」
「いいよ。きて……」
先生はその場で横になった。
(俺、いま、そういう性的なの求めてないんだけど)
「光希。わたしで発散していいよ? スッキリして安心したいでしょ?」
「いや、いま、ゴム持ってないし。子供できたら困るし」
すると、先生は微笑んだ。
「いいよ。できても。むしろ、欲しい……。朝まで、いーっぱいして欲しい……かも?」
「いや、おれ。学生で責任とれないし……」
「いいの。子供できちゃって、わたし、ポイッて捨てられちゃうの。むしろ、そういう扱いをうけたいの」
ん?
「それ、どういう……」
先生は自分の胸に手を添えた。
「はぁ……はぁ、光希にオモチャみたいに扱われたい……」
ダメだ。
この人は。拗れすぎてる。
「捨てませんし!! 先生、おれ帰ります!!」
「えっ?」
先生は戸惑っていたようだが、俺は淫魔の魔窟から脱出することにした。
いい子なんだけど、性癖が強烈すぎる。
でも、優しくしてもらったし、後でお礼くらい言わないとな。
「じゃっ」
俺がドアを開けて外にでようとすると、袖を掴まれた。振り返ると、ことりがいた。
ことりは口をとがらせると、身体を左右に振りながら言った。
「もうちょっと一緒にいたい……です」
ん。なんだか後ろ髪をひかれる……。
俺もまた会いたいし、抱きしめて、キスしたい。
「明日も来ていいですか?」
「……うん♡ パンツ履かないで待ってるね♡」
「普通に履いててください。そろそろ、素でドン引きしますよ?」
「えっ、全部うそだし。また明日ね♡」
俺は外階段を降りる。
また明日、か。
付き合いたてのカップルみたいだ。
俺はメッセージを送った。
「ことり。ありがとう。ハンバーグ、ずっげーうまかった」
ピピピピ
先生からの返事だ。
「こちらこそ。次は変なことしないから、明日も遊びにきてね♡」
……全く信用できん。
次はゴム持って行った方がいいかも。
いや。でも。
どこに隠そう。
俺、花鈴と同室だし、見つかったら発狂されそう。
家に帰ると、花鈴がいた。
花鈴は俺を見つけるなりツカツカとやってくると、俺の目の前で屈んでスンスンした。
「女の匂い……」
そんなことよりも、クラスについて聞きたい。
「聞きたいことがあるんだけど」
すると、花鈴は声のトーンをさげた。
「浮気者の行く先(地獄)についてか……?」
普通にクラスについて聞きたいだけなんだけど。
「いや、別に地獄とか興味ないし」
「き、君わっ。浮気しただけでなく、開き直るのかっ!!」
相変わらず、話が進まないな。
花鈴は、紙に五芒星を描いて、その真ん中にカエルのぬいぐるみを置くと、ブツブツと何かを唱え出した。
「エロイムエッサイム エロイムエッサイム 我は求め訴えたり……」
「おまえ。それ、何かのパクリだろ!! 自分の魔法書のやつ使えよ」
「まだ振り仮名が追いついてなくて、読めないんだよっ。ボクだって不本意なんだっ」
「あのな……」
「ん?」
「お前のクラスの男子のリーダー格って誰なの?」
すると、花鈴は人差し指を唇にあてて、ゆっくりと頭を左右に振り出した。3往復くらいすると、ぽんっと柏手をうった。
クラスの事情には疎いらしい。
「あぁ。千葉 空とかいう男だな。男子達は、空の顔色ばかりみてるぞ。そして、身の程知らずにも、ボクに告白してきたから、アッサリあっけなくフッてやったわっ!! フハハハ」
「…………」
かりんよ。
もしや、お前が一連の出来事の元凶か?
ことりのイラストをつけてみました。
もっとグラマーに描きたかったのですが、ひいてみてみたら、華奢になってしまいました。
自分で描いてみたものの、画力不足でイメージ通りにならないというジレンマ……。